【私の雑記帳】『財界』主幹・村田博文


なぜ、統治力が弱いのか

 有事にリーダーはどう振る舞うべきか──。

 コロナ禍でワクチン接種が難航している。接種の進捗は市町村の自治体が行うが、自治体によって実行スピードが著しく異なる。国と各自治体との連絡も不十分だし、チグハグな印象を受ける。

 各国での接種状況を見ると、『ワクチン接種が完了した人』の割合はイスラエルの約60%台を筆頭に、チリが40%台、米国39%強、UAE(アラブ首長国連邦)とイギリスが約35%という5番までの順。

 日本は2%強で20番目と桁けたが違う。なぜ、日本はこうも低いのか?

 先進国の中で、日本はワクチン接種の進捗が最も低いとされるのはなぜなのか?

 また、コロナ禍も第4波が襲来し、大阪や東京などの大都市で医療崩壊という現実。人口当たりで世界1の病院など医療機関数と病床数と言われてきたのに、なぜ、医療崩壊なのか?

 こうした疑問があちこちで沸き起こり、不満そして不安が渦巻く。

 コロナ危機での日本の課題と脆弱な部分がはっきりと見え出した。

リーダーシップの欠如

 まず、各領域でのリーダーシップの欠如である。平時では、みんなの声、意見を聞いて、時間をかけて策を実行するという調整型施策でも対応できる。

 問題は、刻一刻を争う有事型事態への対応である。有事には。調整型施策では間に合わない。

 そこへ、国民世論が加わり、メディアからも、何かと厳しい声、不平不満も含めて批判的意見が強まる。各領域のリーダーも責任追及から逃れるという生存本能が働き、結果的に有効な手立てが打てないという悪循環に陥る。

 今回のコロナ禍で医療現場では医師、看護師など医療従事者は、「人の命を救う」という自分たちの使命を果たそうと懸命な努力をしておられる。本当に、そのひたむきな姿勢に感動を覚えるというのは、だれもが同じ思いである。

 みんなが同じ共同体(コミュニティ)で生きているのだという思いであるならば、リーダーはどう行動すべきか。

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後藤新平の生き方に

 そうした傑出したリーダーが日本にいないのかと言えば、そうではない。同じ感染症でいえば、1895年(明治28年)、日清戦争の帰還兵に対する検疫業務でみごとに検疫処理をやってのけた後藤新平(1857―1929)がいる。

 台湾総督府民政長官や満鉄(南満州鉄道)総裁、それに逓信大臣(今の総務大臣)、内務大臣、外務大臣と要職をこなした後藤新平。

 もともとは医者で内務省衛生局の役人として活躍。ドイツにも留学し西洋文明に触れ、その文明度の違いにショックを受けたようだが、それが後藤を発奮させる元にもなった。

 後藤は、陸軍次官の児玉源太郎から、日清戦役の頃、中国大陸で蔓延したコレラ対策を任された。20数万人の兵の中でもし感染者がいたとしたら、帰還後、全日本にウイルスをバラまくことになる。

 そこで、後藤は帰還の窓口、広島・宇品港の似島に検疫所を設置。ここで徹底した検疫と隔離政策を断行。兵士の中には、早く帰郷したい思いから、反発が出た。そうした不満を承知でやるべき事をやるという後藤の生き方。

 陸軍内の実力者で視野が広く、大局観のあるリーダーとされた児玉源太郎のバックアップがあっての後藤新平だが、この後藤は『生物学の原理』を重んじる科学者としての側面が強かった。

データから何を読み解くか

 今で言うデータを大事にする考え方。要はデータや数字から何を読み取り、解決策を見出していくかということ。「人間には自治という本能がある」という後藤の考え方。

 こうした人間観、自然観、そして科学的分析の上に立って、やるべき事を決め、大胆に策を実行する。

 日清戦役の後の検疫処理は他国にも影響を与えた。例えばドイツ帝国のウィルヘルム2世は後藤の報告書を読んでいたく感激したという。

 コレラ菌などを発見し、『近代細菌学の開祖』とされるロベルト・コッホ(1843―1919)。そのコッホなど多数の医学界の研究者や権威を生んだドイツの当時の皇帝をうならせるほどの後藤新平の手腕発揮である。

「問題解決へ向け、組織をつくり、組織を引っ張るリーダーシップが後藤にはありました。そして、しっかりした国をつくろうという時代精神が後藤の生きた時代にはありました」とは、後藤新平に関する著書の多い渡辺利夫さん(拓殖大学元総長・学長)の弁。ちなみに、後藤新平は拓殖大学第3代学長も務めた教育者でもあった。

 リーダーとしての生き方もさることながら、使命感を持つ人材をどう育てていくかという課題。

深刻な子宮頸がん問題

 危機への備えをどう図り、いざ有事に遭遇した場合、対応策を即決めて実行するということの2つが不可欠。しかし、日本ではこの2つがなかなか決められない。

 最近、感染症で深刻な問題として捉えられているのが子宮頸がん。20歳から30歳代の若い女性の間で増え、30歳代後半がピークだという。この子宮頸がんに、毎年1万人の女性がかかり、約3000人が死亡するという深刻な問題。

 ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染で発症。90%の人は免疫力でウイルスを自然排除するが、10%の人はそうは
いかず、前がん病変を経て、数年後には子宮頸がんに進行する可能性があるという。

 なぜ、今になって、子宮頸がんが社会問題化したのか?

「性交渉を経験する前の中学生から高校生の間にワクチンを打っておくと、HPV感染症や前がん病変になる確率は大幅に減る。ところが、若い世代でワクチンを打つ人がいなくなった」と某専門医は現状を嘆く。

 7、8年前、都内の女子中学生がワクチンを打ったところ、副反応が出て大騒ぎになった。

リーダーの覚悟

 ワクチン接種の責任者は誰か──といったメディアの責任追及に、厚生労働省や医療機関、医師、そして政治家とみんなが萎縮。

 このHPVワクチンは2009年に承認され、13年4月から定期接種となったが、接種で副反応が出た場合の責任を考えてか、行政も推奨しなくなった。

 その結果、先進国の中で子宮頸がんの発生が目立つ国となった。

「副反応が1つでも出れば、日本は大騒ぎになる。それはそれでいい面がありますが、責任を取らされるのは嫌だと当事者もみんな逃げ腰になる」と医療関係者は言う。

 感染症問題は、リーダーのあり方、国民との対話ということまで含めて、日本の在り方を厳しく問いかけている。リーダーの覚悟が求められている。

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