2050年のカーボンニュートラル実現なるか? 次世代エネルギーの確保に向け、問われる日本の覚悟

環境対応と雇用維持の両立へ トヨタが「水素エンジン」

 カーボンニュートラルの実現と雇用維持の両立へ――。

 トヨタ自動車が水素で新たな一手を打ち出している。

 5月下旬に開催されたスーパー耐久富士24時間レース。そこで登場したのが「水素エンジン」だ。同社は水素エンジンが「一つのソリューション(課題解決)になるのではないか」(執行役員の前田昌彦氏)と見る。

 既に市販化している燃料電池車(FCV)は車内で水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を起こし、モーターを駆動させる。それに対し、水素エンジン車は既存のガソリンエンジンに一部変更を加え、水素を燃焼させることで動力を得る。燃料はガソリンと混合しない100%純水素。化石燃料を燃やさないので、走行時にCO2(二酸化炭素)はほぼ発生しない。

 さらに、電動化で最も深刻な影響をもたらす雇用にもメリットが生まれる。自動車関連業界の雇用は550万人だが、3万点の部品を必要とするガソリン車が電気自動車(EV)に置き代わると、「エンジンだけでも1万点と言われる部品」(トヨタ関係者)が不要となり、部品会社への影響も深刻化する。

 しかし、水素エンジンを実用化できれば、エンジンに関わる雇用も一定程度維持できると見込まれ、年間300万台規模の国内生産を堅持するトヨタにとっては、「これまで磨き上げてきたエンジンに関する技術力を生かしながら環境規制にも対応できる」(同)ことになる。

 肝腎の完成度については、冒頭のレースで「ヤリス」のエンジンと水素タンクを積んだレース車両の「カローラスポーツ」が24時間で358周(1634㌔)を走って完走した。ただ、「耐久性や品質保証など実用化の目途に向けて研究開発を続けている状況」(同)だ。

 水素エンジンもFCVの課題と同様、車両価格をはじめ、「充填拠点など、水素をつくる・運ぶといったインフラ部分の整備もこれから」(同)。2040年までにホンダがガソリン車の販売を打ち切ることを決める中、トヨタはエンジンの可能性を深掘りしていく考えだ。

世界各国では内燃機関の販売を禁止し始めている。その流れに水素エンジンがどう絡むか。EV化の出遅れが指摘されるトヨタが世界の電動化の流れをつくれるかどうかにかかってくる。

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IHIが脱炭素に向けて「小型原子炉」事業に参入

「原子力発電所は廃炉も含めて、誰かがやらなければならない事業」と話すのは、IHI関係者。

 IHI(井手博社長)は「小型モジュール原子炉」を開発している米企業・ニュースケール・パワーに出資し、小型原子炉事業に参入することを決めた。同社にはエンジニアリング大手の日揮ホールディングスも出資している。

 IHIは今、2050年の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」も睨んだ「カーボンソリューション」を成長事業の一つに掲げる。日本では2011年の東京電力福島第1原発の事故で原発の活用は停滞しているが、世界ではCO2削減に向けて原発のさらなる活用が進む。中国、ロシア、インドが新設を進めている他、米国でも約30年ぶりの新設原発が今年11月にも1基、運転開始が見込まれている。

 米ゼネラル・エレクトリックや英ロールス・ロイスなどの大手企業が小型原子炉の開発に乗り出しているが、米国原子力規制委員会(NRC)の型式認定を終えているのは、世界でニュースケールのみ。

 この小型原子炉はどのように安全性を確保しているのか。モジュール1基あたりの出力は8万㌔㍗程度とし、それを12基並べて運転する。従来の軽水炉が外から水を注水する装置が設置されていたのに対し、最初から格納容器を水の中に入れて稼働させる上、出力が小さいので非常時に電源が失われても冷却させられるとする。

 IHIは1950年代から原発の主要機器を扱ってきており、特に格納容器や圧力容器に強い。今回も安全で精度の高い容器の供給を目指す。

 日本は50年のカーボンニュートラル実現に向けて走り出し、4月には菅義偉首相が30年度に温室効果ガスを13年度比で46%削減する目標を表明した。

 従来目標は26%減で、総発電量の20~22%は原子力で賄う計画だった。ただ、東日本大震災以降、再稼働は9基にとどまる。30年度に原発比率を20~22%にするには、理論上30基程度の原発の再稼働が必要。それだけに「安定供給を考えたら原発の再稼働は避けて通れない」(電力業界関係者)との声も。

欧州などと比べて平地が少ない日本では太陽光パネルを増設できる土地は限られ、政府が切り札と位置付ける洋上風力は適地を選定する手続きなどに数年を要する見通しで、30年時点で稼働するのはごく一部にとどまりそうな状況。

また、”究極のクリーンエネルギー”と期待される水素は、まだ製造方法や運搬方法が確立されておらず、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの比率を増やしても、2050年の脱炭素社会の実現には、原子力無くしてその達成は難しい。

 これまで政府は原子力について、国民の反発を恐れるあまり踏み込んだ議論を避けてきた。無資源国・日本にあって、再エネを増やすことは当然だが、電力供給の”つなぎ”として原子力や火力が必要なのも事実。いずれにせよ、政府の覚悟が問われている。

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