関西学院大学、九州工業大学(九工大)、東京都市大学(都市大)の3者は6月8日、2009年から2013年まで計4回の打ち上げが行われた「宇宙赤外線背景放射」のロケット観測実験「CIBER」の成果を踏まえ、ファーストスターや原始ブラックホールなど、宇宙最初期の天体の解明を目指した新たなロケット観測実験「CIBER-2」の第1回打ち上げを実施し、観測に成功したことを発表した。

今回は、CIBER実験時の10倍の感度を持つ新開発の反射望遠鏡がNASAのロケットに搭載され、米・ニューメキシコ州のホワイトサンズ・ミサイル実験場から6月7日0時25分(米国山岳部標準時)に打ち上げられた。そして大気の影響を受けない高度325kmにまで達したあと、落下するまでのうちの約5分間を使って、宇宙赤外線背景放射の観測が行われたことも合わせて発表された。

同成果は、関西学院大 理学部 赤外線天文学の松浦周二教授を中心に、九工大、都市大、アストロバイオロジーセンター、JAXA宇宙科学研究所、台湾・ASIAA、米・ロチェスター工科大学、米・カリフォルニア工科大学、カリフォルニア工科大学アーバイン校、韓国天文学研究所KASIらの研究者総勢50人弱が参加した国際共同研究チームによるものだ。今回は観測に成功したことに関しての速報のため、論文などは今後に発表される予定だという。

宇宙の誕生から現在に至る約138億年という長い宇宙進化の歴史をひも解くためには、宇宙最初期の天体を見つけ出し、それらがいつどのようにして形成され、現存する星や銀河へと進化していったかを研究することが重要とされる。

現在、世界中の大型望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡などにより、130億光年を超えるような銀河などが発見されているが(観測されている最も遠い天体は約134億光年彼方のもの)、それらは最初期の天体ではないと見られており、真に最初期の天体はそこからさらに1~2億年ほど遡ると予想されている。

中でも、最初に生まれた超大質量星「ファーストスター」や、ファーストスターが超新星爆発して誕生した最古参の恒星ブラックホール(大質量の星間ガスが直接重力崩壊し、恒星を経ずに銀河中心にある大質量ブラックホールが誕生したとする説もある)など、最初期天体の研究は、宇宙物理学や天文学の最重要課題の1つとなっている。

ファーストスターは、大半が水素、そしてヘリウム、わずかにリチウムなど、それ以降の重元素がまだ存在しない最初期の大量の星間ガス(原始ガス)が重力収縮して誕生したと考えられている。

しかし、宇宙は誕生後約38万年の“宇宙の晴れ上がり”イベントの時点で、やっと原子核が電子を捕獲できるだけの温度に下がったが、最初の数億年は現在よりもまだ高温だったと見積もられている。そうした高温環境や、重元素を含まない星間ガスの組成により、現在では存在しない超大質量の星々だったされている。恒星は大質量になればなるほど高温になるため、可視光線の波長ではもはや光らず、より波長の短い紫外線の領域で光っていたという。

また、恒星は大質量であればあるほど短命であるため、ファーストスターは極めて短時間で超新星爆発に至り、重力崩壊によってブラックホールを形成したと考えられている。その後、ブラックホールは周囲の物質を引き寄せて、降着円盤を形成。その中で物質同士が激しく摩擦し合うことで、X線や紫外線を強力に放出していたと推測されている。

こうしてファーストスターや、そこから生まれた最古参のブラックホールなど、最初期天体から放射された紫外線は、約138億年間に及ぶ宇宙膨張の結果、赤方偏移によって波長が大きく引き伸ばされ、現在は近赤外線で観測できるようになっていると期待されている。宇宙膨張による赤方偏移は、観測者から遠い天体であるほど激しいことから(遠い天体ほど後退速度が大きい)、まさに最初期天体からの光は最も赤方偏移の値が大きいはずだと考えられている。

こうした研究は、遠方の天体を個別に近赤外線で観測し、丹念に調べていく手法が一般的である。多くの研究者が、そのようにして研究に取り組んでいるが、観測において難しい部分もある。それというのも、宇宙最初期における天体は非常に暗いため、大型望遠鏡や宇宙望遠鏡を用いても個別の観測が困難だからである。そこで研究チームが考え出したのが、最初期の天体や遠方の銀河からの光を足し合わせた(積算した)「宇宙赤外線背景放射」として観測するという独自手法である。

COBE、IRTS、あかりなど、これまでの日米の赤外線観測衛星と、2009年から2013年まで行われたCIBER実験によって得られた観測データを用いて、その光の積算が行われた。すると、人類がこれまでに観測し得た恒星や銀河などの既知の天体からのすべての赤外線を考慮しても、観測された宇宙赤外線背景放射の明るさには不足することが明らかとなったという。

  • CIBER-2

    これまでの宇宙赤外線背景放射の観測値(Kashinsky+ 19が改変されたもの)。観測地(CIBERほか上部のデータ群)は、既知の銀河の積算光(細線と周辺データ群より明るい) (出所:九工大Webサイト)

これは、まだ観測されていない天体が宇宙に存在することを意味するもので、この未知の天体の正体については、ファーストスターや「原始ブラックホール」などによる宇宙最初期の残光であるとの理論的解釈が発表され、研究者の間で話題となったという。

なお原始ブラックホールとは、ファーストスターから生まれた最古参のブラックホールのことではない。ファーストスターの誕生よりもさらに前、宇宙誕生直後に通常のブラックホールとは異なるメカニズムで重力崩壊を起こして形成されたと考えられている仮想のブラックホールのことだ。

しかしCIBER実験の観測データからは、未知天体の多くは天の川銀河のハローに隠れている古い星々のように、近傍宇宙に存在する可能性が高く、宇宙最初期からの寄与はそれほど多くないことが示唆されたという。そこで今回のCIBER-2実験では、CIBER実験の10倍以上になる高い感度で宇宙赤外線背景放射を観測し、わずかに含まれる宇宙最初期の放射成分を検出することを目指したとする。

今回、集光力と解像度をアップさせるため、口径がCIBERの3倍となる30cm反射望遠鏡と、CIBERの2倍の視野を持つ4Mピクセル赤外線カメラが開発された。観測装置自身が出す赤外線でノイズが生じないように液体窒素で-200℃まで冷却する仕組みも装備。望遠鏡は冷却による熱収縮でピントがずれないよう、すべての部品がアルミニウム合金で製作され、相似形で収縮するという工夫が施されたという。

  • CIBER-2

    CIBER-2観測装置の全体像。中央は、観測装置の断面図。上の画像が観測装置の実際の画像で、そのほかは各種装置の画像 (出所:九工大Webサイト)

CIBER-2では波長0.5~2μmの範囲を6つの測光フィルタで区切り、それぞれの波長で明るい星がない4つの天域が撮像された。天空の観測データのうち、星や銀河などの明るい天体が写っていない天域の明るさが「宇宙背景放射」と呼ばれる(宇宙赤外線背景放射や宇宙マイクロ波背景放射など、宇宙背景放射は電磁波の波長域ごとにそれぞれ異なる)。ただし、地上325kmとはいっても、地球の大気圏内ではあるため、近赤外線の波長域では、余分な光も多い。太陽系内からの明るさ(黄道上に漂う塵が太陽光を反射する黄道光など)、天の川銀河内の明るさ、天の川銀河外からの明るさがその中に含まれている。

また同じ波長範囲での分光機能も備えられており、宇宙赤外線背景放射の詳細なスペクトルも測定された。これらの機能は、1つの望遠鏡からの光を波長ごとに分けて3つの赤外線カメラへ導入し、それぞれの検出器に2波長フィルタと分光フィルタを装着することで実現したという。

観測装置の開発は、国際共同研究チームが日米韓の3チームでそれぞれ役割分担して進められた。松浦教授率いる日本チームは、基幹的な部分である望遠鏡と光学系および冷却系の開発を担当。日本チームは研究者だけでなく関西学院大学の大学院生や学部生も活躍し、NASAロケット実験の代表者が率いる米国の拠点大学(カリフォルニア工科大、ロチェスター工科大)やNASAの実験場まで赴き、装置を完成させるまでさまざまな実験が進められたとする。

CIBER-2では、CIBERより短い波長の可視光を含む広範囲の波長がカバーされている。今回初めて行われる可視光での観測が加わることで、初期の天体に特有な「ライマンブレーク」と呼ばれるスペクトル形状から、宇宙赤外線背景放射への最初期天体の寄与率を明確にすることができるようになるとしている。

  • CIBER-2

    宇宙赤外線背景放射の空間的ゆらぎのスペクトル。上にあるオレンジ色の縦線に貫かれた○2つがCIBERの2波長観測データ。その下の赤の太い横線がCIBER-2の6波長バンド。青の横線で示されているように、CIBER-2はCIBERの10倍も優れる感度により、ライマンブレークを示す最初期の天体のゆらぎ成分の検出が可能 (出所:九工大Webサイト)

なおライマンブレークとは、遠方天体の光が地球に届くまでに通過する銀河間空間に存在する中性の水素原子によって、ライマン端(912Å)より短い波長の紫外線が完全に吸収されてしまう現象のことをいう。宇宙論的な赤方偏移によりライマンブレークが赤外線で観測されたならば、天体は極めて遠方にあることが明確となるのである。

打ち上げた観測装置は落下時にパラシュートを開いて着陸したが、ホワイトサンズは砂漠であるため、落下の衝撃も比較的小さく、当たり所が悪くさえなければ、観測装置の破損はほとんどないため、次回の実験にも再利用可能だという。CIBER-2は、CIBERと同様に4回の打ち上げを計画しており、NASAからもすでに実施が認められているとしている。

今回、回収された観測装置はロチェスター工科大学へ運搬され、内部の確認作業が行われる。日本チームは新型コロナの影響により今回の打ち上げに立ち会えなかったそうだが、観測装置の多くが日本チームの手によって製作されたことから、近いうちに渡米して確認作業や動作確認実験の実施を希望しているとしている。また、観測装置に大きな問題がなければ、今後も年に1回のペースで打ち上げを行う予定としているが、1回の観測が約5分と短い実験だけに、繰り返し観測することで精度の向上を求める必要があるともしている。

また、今回得られた観測データの解析は、国際共同研究チームがある程度分担しつつ同時並行して行うとしている。ファーストスターなどの最初期の天体を検出できたか否かも、これからの解析となるが、松浦教授は、今後、CIBER-2により驚くような科学成果が多数出ることを期待しているとしている。

なお、CIBER-2実験が終了した将来は、ロケット実験よりも良い環境(より邪魔な光のない暗い環境)で長時間の観測を可能にするため、惑星間空間に探査機を送り込み、宇宙赤外線背景放射を観測する「惑星間宇宙望遠鏡IPST(Interplanetary Space Telescope)」の計画を進める予定で、その第一歩として、CIBER-2で開発してきたような赤外線観測装置を、JAXA宇宙科学研究所で開発が進められているトランスフォーマー宇宙機やソーラーセイル探査機に搭載する計画も検討中だという。