クラウド人事労務ソフトを提供する SmartHR は6月8日、オンライン発表会を開催し、中長期事業戦略とシリーズDラウンドに向けた資金調達について発表した。SmartHR代表取締役CEOの宮田昇始氏は発表会冒頭で、「入社式はオンライン化出来たが、入社手続きをオンライン化できていない企業は多い」と、コロナ禍における現状を指摘した。

  • SmartHR代表取締役CEO 宮田昇始氏

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規格外の成長を見せるSmartHR

同社が提供する「SmartHR」は、雇用契約や入社手続き、年末調整などのさまざまな労務手続きのペーパーレス化を実現する人事労務のSaaS。2015年11月のサービス開始から2020年11月までの約5年間で、登録企業数が3万社を超えた。LINEやメルカリといったIT企業から、小売や飲食、医療や自治体など幅広い業界に支持されている。新型コロナウイルス(COVID-19)感染症拡大の影響もあり、2021年第2四半期のARR(年間経常収益)は45億円を超え、前年比106.2%増を達成した。

  • ARR(年間経常収益)推移

また、売り上げの割合に関して、2018年5月時点では中小企業(従業員数300人未満)が約6割を占めていたが、2021年5月時点になると、大企業(従業員数300人以上)が約6割強を占め、さまざまな規模の企業への導入が広がっている。

  • 企業規模別の売上(割合)

「SmartHR」を導入したDMM.comは、社会保険手続きに係る業務量を3分の1に削減。また、書店・雑貨店のヴィレッジヴァンガードは給与明細の封入・配布工数を96%削減させ、BPOサービス会社のりあいあコミュニケーションズは、年末調整にまつわる書類を年間で約2万8千枚削減させた。

  • SmartHR 人事労務業務の効率化の実績

海外投資家から156億円調達

一方で同社は6月8日、シリコンバレーを拠点とする数千億円規模のテクノロジー投資ファンド「Light Street Capital」をリード投資家とし、合計約156億円の資金を調達したと発表した。シリーズCまでの約82億円の資金調達と合わせて、累計調達額は約238億円になった。

  • SmartHRの過去の資金調達

Dラウンドでは、国内外のテック企業への投資実績を有するクロスオーバー投資家(上場・非上場企業の両方に投資)から調達。既存の投資家であった、Light Street Capital、THE FUND、Sequoia Heritageの3社に加え、今回新たに、Sequoia Capital Global Equities、Arena Holdings、Greyhound Capital、Whale Rock Capital Management、名称非公表1社の合計8社から、資金を調達している。

生産性向上の先にあるデータ活用

同社は、調達した資金を活用し、人事・労務分野の業務効率化に加え、企業による「働きたいと思う環境の整備」のための人事・労務情報のデータ活用を推進していくと説明した。「生産性の向上に加え、働きたいと思う環境整備への提供価値を強化させていくことが今後の課題。ペーパーレス化で溜まる人事データを活用した働く環境の改善に注力していく」と、SmartHR取締役COOの倉橋隆文氏は、今後の戦略について話した。

  • SmartHR 取締役COO 倉橋隆文氏

少子高齢化に伴う労働力人口減少は、今後の日本の課題であることは変わらない。デロイトトーマツグループが2019年10月~12月に調査した「働き方改革の実態調査」によると、企業が働き方改革に取り組んでいた理由として、「従業員満足度の向上・リテンション」が88%と一番多く、コロナ前から「働きたいと思う環境の整備」の必要性はすでに顕在化していた。

そういった背景からSmartHRは2019年以降、「SmartHR」に溜まったデータの活用と業務効率化によって生まれた時間を生かす人材マネジメントの実現を目指し、従業員サーベイや分析レポートといった機能を新たに追加し、企業経営におけるデータ活用も後押ししている。

新機能である「ラクラク分析サポート」は、従業員数や平均年齢、雇用形態の割合などさまざまな従業員データをダッシュボードで可視化する。アルバイトを含む従業員を約2000人抱える飲食企業のウェルカムは、アルバイトが辞めるときの社会保険の喪失手続きや、離職証明書の発行といった業務を効率化させている。

そして同社では、SmartHRで得られたデータを活用し、アルバイトの定着状況の可視化させ、環境の整備など店舗の最適化につなげている。雇用契約・入社手続きの際に、アルバイトの中でも、主婦と学生の雇用形態を区別し、それぞれの定着率を分析している。

  • ウェルカムの「ラクラク分析レポート」活用事例 イメージ図

「人事労務業務の効率化をしながら、得られたデータを活用して環境の整備へつなげられることは、SmartHRにしか出来ない価値だ」と、倉橋氏は自信を見せた。

サービス開始当初のServiceNowやShopifyと同等レベルの急成長ぶりを見せるユニコーン企業のSmartHR。まだまだ改善の余地があるバックオフィスの業務効率化は、今後どのような進化を見せるのだろうか。