大阪大学(阪大)と日本医療研究開発機構(AMED)は6月4日、インフルエンザウイルスへの感染で細菌性肺炎を合併しやすくなるメカニズムを明らかにしたと発表した。

同成果は、阪大大学院 歯学研究科の住友倫子講師、同・川端重忠教授、鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科の中田匡宣教授、金沢大学 新学術創成研究機構の岡本成史教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、微生物学を題材にした学術誌「mBio」に掲載された。

インフルエンザウイルス感染症は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミックを引き起こす前までは、日本国内だけでも年間1000万人が罹患し、約1万人が重症肺炎により死亡していた。インフルエンザ自体だけであれば重症肺炎になる可能性は低いが、問題は鼻咽腔に定着する肺炎球菌による細菌性肺炎の合併症となる危険性がある点である。しかし、なぜインフルエンザウイルスへの感染が、肺炎球菌の感染を助長させるのか、その詳細なメカニズムは解明されていなかったという。

そこで研究チームは今回、インフルエンザウイルスと肺炎球菌に重複感染させたマウスの気道組織の調査を実施。その結果、小胞体(ER)に局在する分子シャペロン「GP96」が、ウイルス感染に伴って気道上皮の表層での発現が誘導され、細菌の肺への定着が促進されることが発見されたという。

また、インフルエンザウイルスが感染した細胞では、GP96のシャペロン機能により、「インテグリン」という細菌の定着を促進させるタンパク質の細胞表層での発現量が増加することも示されたという。

さらに、肺炎の発症はGP96抑制剤を経気道投与することにより抑制されたことから、GP96は肺炎の増悪因子であるとともに、有効な治療標的であることが明らかになったとしている。シャペロンは本来、細胞内で作られたタンパク質が正しく折り畳まれて、適切な場所に移動して機能することを助けるタンパク質だが、細菌の定着を手助けしてしまっている可能性が示されたという。

  • インフルエンザ

    インフルエンザに合併する細菌性肺炎の発症メカニズム。インフルエンザウイルスが上気道に感染すると、分子シャペロンGP96が細胞表層に誘導される。同時に、GP96のシャペロン機能によりインテグリンの細胞表層での発現量が増加する(STEP1の(1))。肺炎球菌は、菌体表層に発現する「AliA」および「AliB」を介して、細胞表層のGP96やインテグリンに結合し、上気道に定着する(STEP1の(2))。その後、上気道への細菌の定着が契機となり、下気道でのGP96の発現量が増加することにより、ウイルスと細菌が下気道に伝播する(STEP2の(1)、(2))。下気道に到達したウイルスと細菌により、肺組織に過剰な炎症応答や出血などが引き起こされ、重症肺炎の病態が形成される(STEP2の(3)) (出所:阪大Webサイト)

加えて、ウイルスが感染した気道上皮細胞では、細菌の定着が促進されるだけでなく、転写因子「Snail1」の発現が上昇することにより、上皮バリアの機能が破綻し、肺炎が重症化することも確認されたとしている。

なお、研究チームでは、今回の研究により、ウイルス感染により誘導されるGP96が有望な肺炎の治療標的であることが示されたとするほか、GP96は感染初期に誘導されるストレス応答性のタンパク質であるため、インフルエンザだけでなく、幅広いウイルスや細菌種を原因とする肺炎の発症を制御できる可能性があるとしている。