立教大学、JAXA、東京大学、高知大学、千葉工業大学、前橋工科大学、北海道教育大学、名古屋大学の8者は5月25日、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウにアプローチした際に撮影された中間赤外カメラおよび光学航法カメラの高解像度画像の解析から、水に浮くほどの軽さである約70%と推定される超低密度の、最も始原的な「微惑星」の可能性がある岩塊を発見したと発表した。

同成果は、立教大学 宇宙・地球系物理学研究室 惑星物理学の坂谷尚哉 助教のほか、国内外36の大学・研究機関の100名弱の研究者が所属するやぶさ2のサイエンスチームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学・天体物理学・惑星科学を扱った学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

小惑星リュウグウの表面の大部分が岩塊で覆われていることがわかっているが、はやぶさ2の中間赤外カメラ(TIR)および小型発着陸機「MASCOT」に装備された赤外放射計の観測によれば、その岩塊の大多数は地上で見つかっている炭素質隕石よりも「熱慣性」が低いことが明らかになっている。

熱慣性とは、惑星などの天体表面の温まりやすさ、または冷めやすさの指標であり、熱慣性が低いほど昼間に温まりやすく夜間に冷えやすいことを示す。小惑星のような岩塊で熱慣性が低いということは、「空げき率が高い」もしくは「密度が低い」といい換えることが可能だという。リュウグウ上の岩塊の空げき率は30~50%と推定されている。

今回の発見は、タッチダウンのリハーサルを行った際や、MASCOTおよびローバー「MINERVA-II」をリュウグウ表面に向けて投下した際など、はやぶさ2の降下運用時において500m以下の高度で取得されたTIR近接撮像データ(空間解像度45m/ピクセル以下)を網羅的に調査し、リュウグウ上で異常な温度を持っている場所が探索された結果だという。

その結果、直径20m以下の2つの小さなクレーターの中心部付近に温度が周囲に比べて非常に高い場所(ホットスポット)が発見された。詳細な熱解析から、ホットスポットの熱慣性は月表面と同程度であることがわかり、リュウグウ上のほかのどこよりも低い熱慣性を持っていたことが示されたという。

2つのうちの1つのクレーターについては、接近運用中の光学航法カメラ(ONC)により高解像度画像が得られており、10cm程度の黒い岩塊の集合体であることが確認された。すなわち、この黒い岩塊はほかの岩塊に比べてすき間が多く、70%以上の空げき率を持つと推定されるという。密度にするとおおよそ0.8g/cc以下であり、水(1g/cc)に浮くほどで、軽石のようなイメージだという。

もう一方のクレーターでは、ホットスポットの詳細な状態が確認できるような高解像度のONC画像が得られていないが、近赤外分光計によるデータは取得されており、それによるとクレーター内側は水酸基に起因する波長2.72μmの吸収が外側に比べて強く、比較的近年に掘り起こされた物質であることが明らかになったとする。

  • リュウグウ

    今回発見された超高空げき率岩塊(ホットスポット)の中間赤外カメラ画像(a、b)と光学航法カメラ(ONC)画像(c、d)。右の画像は左の画像が拡大されたもの。(d)のONC画像では、ホットスポット近傍の岩塊の輪郭が白線で囲まれており、これらの岩塊が70%以上の超高空げき率である可能性があるとした ((c) Sakatani et al., 2021より改変) (出所:立教大学Webサイト)

リュウグウ母天体の形成シナリオとして、太陽系初期にダストが集まってできたフワフワの微惑星と呼ばれる天体が、アルミニウム-26のような太陽系初期には存在していた短寿命(半減期約72万年)の放射性同位体による内部加熱、自己重力による圧縮を経験し、中途半端に圧密・固化した、という説がある。

  • リュウグウ

    超高空げき率の岩塊(赤い丸)の形成と、リュウグウ表面での挙動 ((c) Sakatani et al., 2021より改変されたもの) (出所:立教大学Webサイト)

この説では、母天体の大部分がリュウグウの岩塊と同等の空げき率30~50%となるのに対して、母天体表層付近では、内部に比べて経験温度が低く、また内部ほど強い圧縮も経験していないため、より初期の高空げき率状態と物質情報を維持した物質が存在していたことが想定されるという。今回発見された超高空げき率岩塊はまさにこのような起源を持ち、リュウグウ上の大多数の岩塊よりもオリジナルの情報を残した始原的な物質である可能性が高いとする。

さらに、降下運用時の複数のTIRおよびONC画像を用いて、そのほかの岩塊、および岩塊の少ない砂地の熱慣性・反射率・色が調べられた。その結果、砂地のデータは、大多数の普通の岩塊と、今回発見された超高空げき率岩塊の混合によって説明できることが明らかになったという。これは、超高空げき率岩塊の細かな破片が砂地に含まれていることを示唆するものであり、タッチダウンによって採取された可能性があるとする。今後サンプル中からこれらが見つかれば、リュウグウの起源のみならず、微惑星形成・進化論に対して大きな実証的証拠をもたらすことが期待されるとしている。