新型コロナウイルスは今までスタンダードだと思っていたものに大きな変化を与えた。たとえば、毎年「日経トレンディ」が行っているヒット予測もそのひとつ。2021年は、ソーシャルディスタンスを守りながら暮らしを豊かにするアイテムが上位に入っている。そんな「2021年ヒット予測ランキング」の2位となったのが「多視点スポーツ観戦」。そこで、ユーザーが360度アングルや多視点映像を自由に選んで観戦できる配信技術「SwipeVideo(スワイプビデオ)」を開発・運営するAMATELUSの代表、下城さんにその魅力と楽しみ方についてお話を伺った。

ラグビーワールドカップを盛り上げた自由視点映像とは?

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「多視点スポーツ観戦」とはどういうものか? たとえば野球の試合をテレビ中継で見た場合。これまでピッチャーがボールを投げる映像といえば、バックネット側からか、ピッチャーの後ろ側からの視点が当たり前だった。ところが多視点スポーツ観戦では、球場内のさまざまな視点からの臨場感溢れる映像を見ることができる。これは、会場内に設置した30台〜100台以上のカメラで同時に撮影した映像を生成した「自由視点映像」によって可能になった視聴方法だ。最近では以下のような大会で使用されてきた。

2017年:野球の日本シリーズ
2018年:世界柔道大会
2018年:平昌オリンピック フィギュアスケート
2019年:世界柔道大会
2019年:ラグビーワールドカップ

しかし、自由視点映像はあくまでも大きな大会で使用されるだけで一般に普及はしてこなかった。それはなぜかというと自由視点映像はデータが重く、生成処理が大変でサーバーサイドの負荷やネットワーク負荷が高いからだと下城氏は言う。そのため上記の大会でも視聴者が試合の全てを自由視点映像で見られたわけではない。配信側が任意で選んだ映像を解説で使用する、あるいは5G環境に設置された専用のタブレットで特殊なアプリ内のみの視聴に限られていたのだ。

自宅で手軽に臨場感あふれるスポーツシーンが視聴可能に!

AMATELUS株式会社代表取締役CEO下城伸也氏

自身もテニスを本格的にプレーしていた下城氏は、もっと手軽に自由視点映像でスポーツ観戦及び分析ができないかという点もきっかけの一つとして、2016年から開発をはじめ、2019年11月にSwipeVideoをリリースした。

「これまでの自由視点映像というと、撮影した動画を生成するところまでがメインでしたが、このシステムは簡単に言えば生成された重たいデータをクラウドサーバーから軽量高速で世界中のユーザーへ届けられる配信システムです」(下城氏)

つまり、インターネット環境さえあれば、専用のアプリなどがなくても、URLにアクセスしウェブ上でスワイプするだけで視点切り替えを自由にしながらスポーツ観戦ができるというわけだ。しかも特殊な技術を使っているため、撮影するカメラの台数を無制限に増やしても軽量に配信できる、撮影するカメラの台数が増えることで視聴できるアングルが増え、映像がリッチになるという。

「動画は生配信だけでなく、アーカイブ映像にすることもできます。たとえば昨年、プロ野球の坂本勇人選手が2000本安打を達成しました。もしこの試合をこのシステムで配信していたとすると、球場にいる人もテレビで試合を見ていた人も、ヒットの余韻にひたりながら、その瞬間を手元のスマホで好きな角度からリプレイして何度も見返すことができるんです」(下城氏)

カメラを設置する位置によっては、選手だけでなくヒットを打った瞬間の味方チームのベンチの中の様子や、打たれた投手の表情など、ひとつのシーンをアングルを変えて何度も楽しむことができるので、スポーツ観戦の楽しみ方の幅がさらに広がりそうだ。

もしもあのスポーツを多視点観戦したら? リモート観戦をもっと楽しむコツ

多視点映像用のカメラを設置したオフィスの一室。この部屋には多くの名だたるアスリートが訪れて、このシステムを体験している。

下城氏の会社では、複数の放送事業者やネット配信企業と連携してスポーツの試合を自由視点映像で配信する企画を進めている。今後、スポーツは多視点観戦が当たり前になるかもしれないが、一足早くその楽しみ方を下城氏に伺ってみた。

「僕がテニスをやっていたということもあるんですが、テニスや卓球はぜひ審判席のアングルから試合を見てみたいですね。テニスや卓球の場合、攻め込まれている側は後ろに下がり、攻めている側は前に出るんです。その攻防を審判席のような横からの視点で見ると非常にわかりやすいですから。
あとはテニスの場合、ボレーした際のラケットの面やネットとの距離によって、その選手の調子やミスなどの原因がわかります。それも横からの視点でないとできないことだったりするんですよね」(下城氏)

その他、サッカーやラグビー、アメフト、バレーボールなどスクエア型のコートで行う球技は、自由視点映像を使えば、ボールを持っていない選手の位置なども見ることができるので、そのチームの戦術などを分析するのにも役立つという。

「ただ、プレーしている選手は正直、自由視点映像で見られたくないと思いますよ。あるオリンピックメダリストから言われたのですが、選手は自分の技が見破られないように技術を磨いているのですが、この配信システムがあると、あらゆる角度から見ることができるので、相手選手に分析されてバレてしまうんじゃないかと(笑)。
また、オリパラが実施されれば、開会式や閉会式、競技自体の映像を世界中へ配信する事は日本の命題になるかと思います。海外の方の誘致を断念した訳ですから、海外の方々が競技映像をいろいろな角度から視聴出来たらどれだけ喜んでもらえるか。そのような世界中の人々に喜んでもらえるようなサービス展開を今後もしていきたいと思っています」(下城氏)

この画期的なシステムは、演劇や音楽ライブなどの場でも使用できることもあって、コロナ前に比べて問い合わせ数は20倍になっているという。自由視点映像は、演劇やアーティストのライブ、オーケストラの演奏といったエンターテイメントの世界や、実技実習が必要なオンライン授業といった教育の現場など、さまざまな分野において新たな可能性を広げてくれるだろう。そして、スポーツ観戦においては、普段は見ることができない視点からのプレーやベンチにいる選手、あるいは名シーンをあらゆる角度から何度も見ることができることで、たとえ試合会場に行けなくとも、今まで以上にリモート観戦を楽しむことができるに違いない。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Kazuhisa Yoshinaga、Shutterstock