斉藤和義が語る、年齢を重ねながら紡ぐ「音楽」とコロナ後の「希望」

音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。35歳で『35 STONES』、45歳で『45 STONES』とアルバムを発表してきた斉藤和義が、55歳を迎える2021年に『55 STONES』をリリースする。音楽を通して時代を見つめてきたシンガー・ソングライターは今何を思う?

Coffee & Cigarettes 28 | 斉藤和義

「歌うたいのバラッド」や「ずっと好きだった」など数多くの名曲を生み出し、デビューから25年を経てなお第一線で活躍し続けるシンガー・ソングライター斉藤和義。前作『202020』からおよそ1年ぶりにリリースされた通算21枚目のオリジナル・アルバム『55 STONES』は、コロナ禍でほぼ全ての楽器を演奏し、自らレコーディングして作り上げた意欲作だ。

「家には録音用の機材環境があるのですが、使い方もあまり分からず今までデモ作りにすら使っていなかったんですよ(笑)。でも時間はたっぷりあるし、せっかくだから何か試しに録ってみようと。ウォーミングアップがてら始めたところ、『これは良さそうだから曲にしてみよう』と思えるアイデアがどんどん出てきて。『この曲はやっぱりバンドでやりたいな』と思う曲に関しては、メンバーにメールで投げて楽器を入れてもらうなどしているうちに、気づいたらアルバム1枚分の楽曲が揃っていたんですよね」

ここまで全編にわたって宅録曲が並んでいるアルバムは、斉藤の長いキャリアの中でも初めてだろう。自宅のプライベートスタジオで、気の赴くまま音を楽しんでいる様子が音の間からひしひしと伝わってくる。一方、自粛期間が明け久しぶりにバンド・メンバーと集まってレコーディングした「Boy」は、仲間と音を合わせることの喜びがそのまま音の中に表れているようだ。ある意味、2020年の斉藤によるドキュメンタリー的な作品といえるかも知れない。


そんな本作『55 STONES』では、YMOの「BEHIND THE MASK」(1979年)のカバーも披露している。かのマイケル・ジャクソンが『スリラー』に入れようと計画し、諸般の事情で見送られた曰く付きの名曲だ。

「レコーディングの練習として、手始めにカバーをやってみようと思ったんです。もともと大好きな曲で、YMOのアレンジを踏襲しつつ全て生楽器でやってみたらどうだろう?という実験的な試みでした。実は2018年にリリースした『Toys Blood Music』でも、80年代のリズムマシンとシンセを同期させたテクノっぽいアプローチに挑戦しているんですよ。今作収録の『Lucky Cat Blues』なんかは、まさにその延長で作った曲ですね。実はこの曲、スマホの無料アプリで作ったシンセの音なども含まれているんです。適当に叩いて遊んでいると、普通のやり方では絶対思いつかないような変なフレーズが生まれたりして。それに触発されたベースやギターを入れていくのは、ある意味”一人セッション”的な楽しさがありましたね。そういう作り方じゃないと生まれない曲になったと思います」

ロックの定石にとらわれず、遊び心も随所に散りばめるようなフレキシブルな制作が出来るようになったのは、自身が年齢を重ね、何をやっても揺るがない軸を手に入れたこともきっと大きな理由としてあるだろう。


Photo = Mitsuru Nishimura

「40を過ぎて『中年』の太鼓判を世間から押された気がして、それで気持ちも楽になったんですよね。そこからちょっと遊び心も出てきたというか。例えば誰かに楽曲提供をするとか、昔はあまり好きじゃなかったのだけど、そんなことも楽しめるようになってきて。何か依頼がきた時に『俺は、そういうことはやらない』と言ってしまうのは簡単だけど、それって『逃げ』でもあるし、ちょっとカッコ悪いよなとも思うようになった。実際こだわりを捨てて、思い切ってやってみたら案外面白くて。『そうか、人からもらったお題で曲を作ると、こんなアイデアが自分の中から出てくるんだなあ』みたいな、新鮮な気持ちになったんですよね」


そんな時に出会ったリリー・フランキーの生き方にも、斉藤は大きな感銘を受けたと語る。

「たまたまお仕事を一緒にする機会があったんです。リリーさんの看板番組がスタートし、その初回にゲストで呼んでもらって。リリーさんのことは前から好きだったのもあったし、リリーさんも僕の楽曲を聴いてくれていたみたいで、初めて会ったその日のうちに飲みに行って朝帰りしました(笑)。しばらく週3くらいの割合で飲みに出歩いていましたね。リリーさんって、俳優やイラストレーター、ミュージシャンなど様々な肩書きを持っているじゃないですか。『俺はこれ』と決めたくない人なんですよね。僕自身は音楽以外やるつもりはないので、その正反対なスタンスが一緒にいて面白くて。『こういう見方、考え方もあるんだな』みたいな気づきをたくさん与えてくれる存在です。ウイスキーとかめちゃめちゃ詳しいんですよ。僕はアルコールなんて酔えれば何だって構わないというタイプの人間だったのですが(笑)、なるほど確かに同じウイスキーでも味や色、全然違うんだなみたいなことも、リリーさんに教えてもらいました」

そう言って笑いながらタバコに火をつけた。ここ10年くらいはアメリカンスピリットを嗜んでいるという。

「とにかく味が好きなんですよね。食後の一服が楽しみでご飯を食べていると言ってもいいくらい(笑)。起きたらとりあえずタバコを吸って、コーヒーを飲むのが日課になっています」


Photo = Mitsuru Nishimura

 そんな斉藤が現在夢中になっているのはDIY。コロナ禍の自粛期間中はギターを何本も自作していたという。今作『55 STONES』に収録された「2020 DIARY」の歌詞には、”僕はずっとガレージで ギターを作ってた”という一節もあった。

「木を削り出して、そこにピックアップを搭載して。ネックだけは流石に自分で作るのは難しかったので、市販の物を使いましたけどね。ピックガードはアルミで作ってみようと思って、ひたすらヤスリで磨いていました(笑)。そういう意味では、自粛期間も充実していたのかも知れない。もちろん、楽器屋さんに並んでいるギターの方がいい音がするのだけど、自分で作った『世界でたった一つのギター』は愛着が湧いてくるんです。自分で好きな形にできるし、ペイントなんかも躊躇なくできるし。早速レコーディングでも使ってみました。『純風』という曲で聴けますよ」


かつては原発事故をめぐる国の対応を、自身の楽曲の中で風刺した斉藤。「2020 DIARY」でも、コロナ禍の社会、ネット上の罵詈雑言や「正義」の押し付けに対する違和感を、ストレートに歌っている。

「苛立ちはありましたよね。まあ、初めての事態だし仕方ないなと思う部分もあるんですけど。何より、自分のツアーがどんどん延期になっていくことがすごくつらかった。そんなモヤモヤがずっと続いて、11月くらいにようやく曲として落とし込めたのが『2020 DIARY』という曲でした」

とはいえ辛辣なメッセージだけに終始するのではなく、この曲には医療従事者へのねぎらいや、コロナが明けた後の世界を見据えた「希望」の言葉も添えている。そこに斉藤のバランス感覚や優しさを感じるのだ。

「若い人の方が、変な固定観念やバイアスがかかったりしていないだろうし、柔軟に今の状況を判断できる気がするんですよね。そこに僕は希望を持っています。半分押し付けちゃって申し訳ないところもあるんだけど、今の10代の子たちが大人になって、世の中を動かしていくようになったら世の中も少しは変わるかも知れない。今ある縦社会や堅苦しい考え方が、少しでも薄まってくれたらいいなと心から期待しています」


自粛期間が明け久しぶりにバンド・メンバーと集まってレコーディングしたという「Boy」

そう言いつつも自身は「歌うたい」としての新たな表現方法を獲得するため、すでに次なる準備を進めているようだ。

「自粛期間中に、歴史についていろいろ調べるようになったんですよ。そうすると、自分の立ち位置を意識せざるを得ない。要するに、『自分はどこからやってきて、どこへ行くのか?』という根源的な問いですよね。それが今後の歌にどう反映されていくのか今は分からないけど、今後も新しいことに挑戦していきたいと思います」

斉藤和義
1993年にシングル「僕の見たビートルズはTVの中」でデビュー。 翌年リリースされた「歩いて帰ろう」で注目を集める。自らの音楽活動に加え、様々なアーティストへの楽曲提供やプロデュース等も積極的に行い、2011年には中村達也とのロックバンド、MANNISH BOYSの活動もスタートした。通算21枚目のアルバムとなる『55 STONES』は、2020年2月から開催予定だった全国ツアーが新型コロナの影響で延期となり、自粛期間中に制作されたもの。


斉藤和義『55 STONES』
スピードスターレコーズ 発売中

20枚目のオリジナルアルバム『202020』、21枚目の『55 STONES』の2枚のアルバムを
コンセプトにした全国ツアーを現在開催中。

KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2021 ”202020 & 55 STONES”
https://tour.kazuyoshi-saito.com/2020/