【私の雑記帳】『財界』主幹・村田博文

矛と楯の関係の中で…
 世の中の出来事や問題は、すべて、プラスとマイナスの両面性を持っていると言っていい。
 
 矛(ほこ)と楯(たて)の関係と言っていいかもしれない。どんな防具(楯・盾)をも突き抜ける矛があるとして、もう一方で、どんな攻撃用の矛も攻め切れない楯があると言う。
 
 話の辻褄が合わないので、こういうときの事を矛盾という。
 
 物事を判断したり、生き方を探るときに、この両面性をもって対処していくと、納得がいくという体験はだれしもが持っておられるのではないか。

 今のコロナ禍では、感染防止の観点から、3密をはじめ、「あれをやったら駄目、これをやったら駄目」という話が多い。

 第4波の襲来、しかも感染力の強烈な変異ウイルスの流行ということで、これも致し方のないことではあるが、もっと知恵は出せないものか。

プラス志向発想で  
 産業界の某リーダーは、「こうやったらいいとか、こんなやり方もあるよとプラス方向での提案があっていい」と訴える。

 そのリーダーは、3月末から4月初めの桜を見るときに、「わたしも目黒川(東京・目黒区)の桜を見てきました。堪能できました」と次のように語る。

「1年余も自粛が続くのに、みなさん桜を見たいと多くの人がいました。例年と違って、飲食を伴う集まりはないし、整然とした雰囲気でよかったですね」

 要は、人に迷惑をかけずに、バランスよくやっていくということであろう。

人間は自然界の一部
 コロナ危機はいろいろな気付きを与えてくれている。

 その中で、最も大事なのは、人間は自然界の頂点に立つ存在では決してなく、〝自然界の一部〟を成す存在だということだと思う。

 目に見えないウイルスによって、これだけ世界中の人々が振り回されているという現実。人々の命と健康にモロに関わり、しかも、目に見えない存在だから、不安感が増幅する。

 ペストやコレラなどこれまで人類が体験してきた感染症は人から人へうつるもの。しかし、今回の新型コロナは、動物から人へうつるということで、「1千年とか2千年に1度の感染症だと思います」と感染症が専門の東京医科大学教授の濱田篤郎さん(同大学渡航者医療センター部長)は語る。

因果はめぐる
 濱田さんは、本誌5月12日号のインタビューで、「土地の開拓や開発が進んで、奥地に人が立ち入るようになったため、動物だけが持っていた未知のウイルスに人が接することが大きな原因」と指摘。

 20世紀の初め、世界の人口は約15億人、1950年には約30億人となり、2020年は約70億人、近い将来、100億人に達すると見られる。

 人口が増えていく過程で、人々は未開の地を開拓し、動物やウイルスの生存する境界にまで入り込んだ。自然を征服したと奢りたかぶったところで、逆に自然に逆襲を受けている──と指摘する医学関係者もいる。

 しかも、相手は目に見えないウイルス。目で捉えられないだけに、不安と恐怖は増し、ストレスが広がる。こういう危機時に不安が拡がると、人は他者を攻撃し始める。これでは悪循環だ。どうすべきか?

渡辺利夫さんの不安常住
 精神医学の先駆者で、いわゆる森田療法論で知られる森田正馬(1874―1934)の研究でも知られる渡辺利夫さん(拓殖大学元総長)は次のように語る。

「森田正馬は、『不安常住』は人生の真実だと常に言っていました。『生の欲望』と『死の恐怖』と、その両刃の剣のうえに身をおいて、からくも平衡を保ちながら歩いていく日常がすなわち人生である。森田はそういう趣旨のことを何度も言っています」

 健康への強いこだわりが、結局、人々を不安と恐怖に誘ってしまうということ。

 渡辺さんは、これを「人生の背理」とし、〝不安と恐怖〟を異物視し、これを排除しようとすることで、ますます強く不安と恐怖に囚われてしまい、人々が神経症になると説明。

 事実、コロナ禍でも、不安障害、強迫観念に苦しむ人が再生産されている。

「健康の中に不安があり、不安の中に健康がある。そう構えることが成熟した人間の生死観だということを、森田に今なお深く傾倒しているわたしは考え、このコロナ時代を生きていく覚悟です」という渡辺さんである。

『不安常住』──。コロナ危機を生き抜くキーワードである。

ニトリの挑戦者魂
 コロナ危機で、34期連続で増収増益決算を2021年2月期で達成したニトリホールディングス。創業者で現会長の似鳥昭雄さん(1944年=昭和19年生まれ)は、「来年2月期決算で35期連続をやりたい」と前向きの姿勢。

 上場したのは1989年(平成元年)9月でバブル経済崩壊のとき。時代の変わり目に登場したのが『ニトリ』で、環境変化を含む危機時に強い会社と言っていい。

「変化はチャンス」というのが、似鳥さんの口ぐせ。マイナス環境の中で成長を遂げるには、それ相応の努力と忍耐が要求される。
 
 お値打ちの商品で消費者にアピールし、それを長年続けられるというのは、なまさかなことでは達成できない。

 以前の円高還元セールもそうだ。円高なら、製造業はじめ、ふつうの企業は打撃を受けて苦境に入るとき、ニトリは円高時に差益が発生する仕組みを考えた。

 海外に生産拠点を作り、輸入で為替差益を生む仕組み、物流も自らこなし、円高の続く日本で収益をあげるインフラ整備を進めた。

 似鳥さんの挑戦は続く。

「日本は10年か15年位アメリカから遅れていると思うんです。日本は本当のディスカウントストアがない」として、消費者に喜ばれる店づくり、販売手法の開拓に注力する日々。

米中対立の中での選択  
 国際的にも、『米中2極』の体制が当分続きそうだ。

 経済と安全保障が結び付き、『経済安全保障』というコンセプトで経済活動を担う時を迎えている。

 日本は安全保障面で日米同盟を結んでおり、基本軸はこちらに重心を置いて今後の進路を選択しなければならない。

 一方、日本にとって中国は貿易面で最大相手国。経済面での関りは強いし、日本企業の投資も多い。歴史的なつながりも深い。

 価値観の選択とも相まって、国の進路と企業活動がこれほど深く関わることも、戦後76年の中でなかったのではないか。

 日本の自立、日本らしさを取り戻すうえで、ここは知恵の出しどころだと思う。