菌類(キノコの仲間)は種類が多いほど、枯れ木を分解するスピードが遅くなることが実験で分かった、と東北大学の研究グループが発表した。木の分解が進んだ後期の段階で特に著しかった。植物の光合成で大気から吸収した二酸化炭素(CO2)を森林が貯蔵する上で、菌類の多様性が重要な鍵を握ることがうかがえる。

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    森林の枯れ木に生えたさまざまな菌類(東北大学深沢遊助教提供)

菌類は枯れ木などに菌糸を侵入させ、酵素を分泌して体外で消化し栄養分とする、動物や植物とは異なる従属栄養生物だ。森林で木が枯れて分解が進みCO2を放出する際、菌類は分解の主要な役割を果たす。分解の速度が遅ければ、森林からのCO2放出の抑制につながると考えられる。これまでに菌類の種類ごとの分解能力や、分解が進んでいない段階の木についての研究はあったものの、菌類の多様性と分解能力の詳しい関係性はよく分かっていなかった。

そこで研究グループはアカマツの木の粉を、分解の進み具合によって初期、中期、後期の3種類に分けて小さな袋に詰め、11~12種の菌類を植えつけて半年間にわたり培養。菌類の種類と木の分解速度との関係を調べた。

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    分解後期の木の結果。実際に森林で後期に優勢となる菌類が存在する場合(青)に、菌類の種類が多いほど木粉の重量減少率、つまり分解速度の低下が著しかった。赤は初期に優勢となる菌類が存在する場合(深沢助教提供)

その結果、菌類の種類が多いほど木の分解が遅いという、負の相関があることが分かった。これまで研究例がなかった分解の後期の木で、実際の森林で後期に優勢となるタイプの菌類が存在する場合に、分解速度の低下が特に顕著だった。なお分解の過程で優勢な菌類の種類は変化していき、一部は培養中に消失している。

分解の初期に優勢となるタイプの菌類は、後期の木では相関を示さなかった。ただ中期の木では負の相関があったことから、研究グループは全体の傾向としては、菌の多様さと木の分解速度に負の相関があると判断している。実験では実際の森林に条件を近づけるため、分解能力が低いと思われた菌類も入れており、これが影響した可能性があるという。

菌類の種類が多いのに分解能力が低下するという一見、意外性のある結果について、研究グループの東北大学大学院農学研究科の深沢遊助教(森林微生物生態学)は「菌の種類同士の支配競争が激化することで、木の分解にあまりエネルギーが回らなくなるのかもしれない。今後の研究課題だ」と述べている。植物では一般に、種類が豊富なほど森林全体の生産性が上がる、つまり炭素の固定が進む正の相関がみられる。菌類、植物のいずれも、多様なほど森林の炭素の貯蔵が進んでいるとも見受けられる。

深沢助教は「実験は森林による炭素の貯蔵のために、菌類の多様性が重要であることを示唆する結果となった。特に分解の後期にある枯れ木や菌類の重要性がうかがえる。森林のCO2放出抑制を考える上で、菌類が重要な存在である可能性がある」と述べている。野外では枯れ木1本に100種以上の菌類がいることがあるため、今後は今回の11~12種類より多くの菌類について調べるという。

成果は4月26日に英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に掲載され、東北大学が5月7日に発表した。

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    シャーレの中央が木の粉を袋に詰めたもの。菌類を植えつけて半年間培養させた結果、木粉の周囲に菌類が生えている(深沢助教提供)

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