日本の“失われた30年”を脱却するには? 答える人 冨山和彦・日本共創プラットフォーム社長

「日本経済がコロナ禍で影響を受ける順番は”L・G・F”。リーマンショックの時とは順番が逆になっている」――。コロナ禍の今、観光や外食などのローカル産業(L)、グローバルな製造業(G)、そして金融機関(F)の順に打撃を受けていると指摘する冨山氏。カネボウ、ダイエー、日本航空など、多くの日本企業の再生に尽力してきた冨山氏が語る日本再生論とは――。

 

リーマンショックとコロナショックの違い

 ―― 日本に新型コロナウイルス感染症が登場して1年以上が経ちましたが、未だに収束の兆しが見えません。まずはコロナ禍の日本経済の現状をどのように見ていますか。

 冨山 この1年、多くの日本企業が打撃を受けていますが、”100年に一度の危機”と言われた2008年のリーマンショックの時との違いははっきりしています。

リーマンショックの時、真っ先に影響を受けたのは金融機関でした。つまり、ファイナンス領域(F)です。そこから自動車やエレクトロニクスなどの製造業を中心としたグローバル企業(G)、そして最後はローカルで地域に根差したサービス産業(L)の順です。

ところが、今回は観光や飲食などのローカル産業が真っ先に打撃を受けた。要するに、Lに属する企業は中堅・中小企業が多くて、日本のGDP(国内総生産)の約7割を占めていますから、本当に大変です。その意味では、リーマンショックよりも危機の根は深いと言えるかもしれません。

 ―― 本当ですね。地域に密着した企業が多いだけに事態も深刻であると。

 冨山 ええ。次に影響を受けたのがGです。自動車のように、危機が来ると買い控えしてしまうような商品は一時、需要が消えてしまった。そして、最後に影響を受けるのがFです。

現在は多くの中堅・中小企業から資金繰り融資の依頼が殺到していると思いますが、徐々に企業の返済能力が弱まっていくことは目に見えている。そうなると金融機関のバランスシートも痛み出す恐れがあります。

 その意味で、日本経済が影響を受ける順番は”L・G・F”です。リーマンショックの時とは順番が完全に逆になっていることが分かると思います。

 ―― 10年前はF・G・L、今回はL・G・Fの順番で危機が押し寄せていると。

 冨山 一方で、コロナに関わらず、今は産業構造がガラリと変わろうとしている。日本ではよく”失われた30年”という表現を使いますが、これは日本が産業構造の転換に失敗した30年だということです。

 典型的なのがエレクトロニクス産業。デジタル化とグローバル化が一気に進み、ネットワークサービスがここまで拡大してくると、日本企業がこれまで得意としてきた”ハード単品売り”のビジネスモデルが通用しなくなってきたということです。

 その象徴がテレビやステレオのような黒物家電で、もともとあった産業のヒエラルキーは、頂点にテレビセットメーカーがあって、その下に部品メーカーが沢山あったわけです。テレビをお客さんが買うことによって、皆が潤ってきた。

ところが、今や伝送速度が速くなって、ストリーミングで高精細な4K画像が簡単に見られるようになった。そうなると、テレビは単なる受像装置となり、消費者はハードに付加価値を見出せなくなった。そこに割って入ってきたのが、ユーチューブやネットフリックスで、見たい時に見たいコンテンツを配信してくれる存在の方が消費者にとって価値が高いわけですよ。



地上戦と空中戦をどう連動させていくか

 ―― つまり、消費者が求めているのはソフトだと。

 冨山 ええ。洗濯機や冷蔵庫などの白物家電はアナログな技術がモノをいう世界で、例えるなら、アナログは典型的な地上戦ですよね。ところが、デジタルの世界は空中戦で、今の消費者は空中戦を求めています。

 日本は伝統的に地上戦が得意でした。いわゆるLは観光にしろ、外食にしろ、地上戦がメインです。食事は絶対にバーチャルにはなり得ないし、観光も基本的にはリアルの世界。医療・介護もICT(情報通信技術)の活用で生産性を向上させることはできるけど、これも基本的には地上戦のリアル産業です。

 それなのに、日本の産業界から聞こえてくることは、所詮リアルかバーチャルかを分けたがって、あいつらはリアルではなく、バーチャルだと。リアルな自分たちこそ必要なんだというバイアスがかかりすぎていたということが、産業構造の転換に乗り遅れた原因だと思います。

 ―― リアルもバーチャルも両方必要なんですね。

 冨山 米アマゾンなんかも地上戦が重要だということに気づいて、空中戦で攻めて行って、地上戦を守ろうとしている。日本の楽天がスーパーの西友と組んだのもその一例です。

 ―― エレクトロニクス産業でソニーだけが業績好調なのは、ゲームや映画などのコンテンツサービスがあるからと言ってもいいですか。

 冨山 はい。ソニーはゲームなどのコンテンツを持っていたから空中戦のお客さんを捕まえることができたのと、あとは半導体事業ですよね。ハードウェアで唯一儲かるレイヤーは半導体です。これは電脳空間の処理を伴うものですから、今後もしばらくは儲かり続ける。ただ、そのソニーもテレビや携帯電話自体は苦戦していますからね。

 そういう意味で考えたら、ローカル産業はもっと地上戦の効率を上げて、生産性を上げていく。その上で、空中戦の力をつけていくことが大事なのではないでしょうか。

 ―― では、どのように空中戦の力をつけていけばいいと考えますか。

 冨山 それは提携するなり、有望な企業を買収するなり、いくらでも手はあると思います。

とにかく今は、自分たちは地上戦が得意なのであって、空中戦は得意じゃありませんと言って、何も手を打たない企業が多すぎます。何も手を打たない限り、市場から退出を余儀なくされるのは誰のせいでもない、当然のことだと思います。

 ―― それが経営者には問われていると。

 冨山 それを考える発想力がないと当然ダメですよね。だから、地上戦、空中戦、その両方をどう連動してビジネスモデルを構築していくのか。それが経営者に問われていくのだろうと思います。