10年に及ぶ取材の集大成…「心が震えるか、否か。」は、香川真司選手のすべてが詰まった1冊
藤木直人、高見侑里がパーソナリティをつとめ、アスリートやスポーツに情熱を注ぐ人たちの挑戦、勝利にかける熱いビートに肉迫するTOKYO FMの番組「TOYOTA Athlete Beat」。5月8日(土)の放送では、スポーツライターのミムラユウスケさんをゲストに迎え、お届けしました。


(左から)藤木直人、ミムラユウスケさん、高見侑里



ミムラさんは2006年からライターとして執筆活動をスタート。2009年からはドイツへ渡り、ヨーロッパで取材をしてきました。2016年から拠点を日本へ移し、スポーツ総合雑誌「Sports Graphic Number」などで記事を執筆するなど、ライター活動の傍ら、スポーツコメンテーターもつとめています。今年4月には、編集を担当した香川真司選手の著書「心が震えるか、否か。」(幻冬舎)が発刊されました。

◆どうせ出すなら、生涯で1冊だけに…
藤木:香川選手初の自叙伝「心が震えるか、否か。」は、380ページにも及ぶ超大作ですね。

ミムラ:そうですね。香川選手が「どうせ本を出すのなら、生涯で1冊だけ出そう。しっかりしたものを、妥協なく作ろう」と言っていたので、年月と労力をかけていたら、それぐらいの長さになってしまったという感じですね。

藤木:いつ頃から香川選手への取材を始めたのですか?

ミムラ:定期的に取材を始めたのは2010年7月。彼がちょうどセレッソ大阪からボルシア・ドルトムントというドイツのチームに移籍したタイミングですね。(当時)僕もドイツに住んでいて、ちょうどその年の9月にドルトムントに引っ越しをしたので、そこから定期的に取材をさせてもらっています。

藤木:“タイミング”というか“巡り合わせ”があってという。

ミムラ:そうですね。ドルトムントは、ドイツのなかで“サッカーの中心の街”と言われています。ドイツ代表のミュージアムがドルトムントにあるぐらい熱狂的なサポーターも多いですし、ドイツサッカーの中心地なので、そこに住んでみるというのは個人的に面白かったです。

藤木:本のなかには「FROM SHINJI」という本人の言葉で書いてある文章もありますよね。これは香川選手ご自身が書かれたのですか?

ミムラ:本人が語ったことをまとめているんですけど。スポーツ選手の本というのは、しゃべっている口調のまま進むものと、第三者視点で進めるパターンの2つあって。“どちらがいいかな?”と考えていたら「じゃあ、両方載せるにはどうしたらいいだろう?」という話になっていきまして……その両方を載せるために、普通のアスリート本の何十倍もの取材時間をもらったんです。

藤木:普通の取材時間はどのぐらいなのですか? まったく想像がつかないです(苦笑)。

ミムラ:極端な話ですけど、10時間もないなかで1冊を作るケースも結構あって(笑)。それだと要約やエッセンスだけになってしまうんですけど、この本の場合は、本自体の制作期間が4年と1ヵ月、取材は僕が(ドルトムントに)行ってからなので、10年と7ヵ月ぐらいですね。

◆「FROM SHINJI」から心情、成長が読み取れる
藤木:この本には当時ミムラさんが取材して思ったことが書いてありましたが、実際に香川さんに聞いてみたら“実はちょっと違っていた”というズレみたいなものはなかったですか?

ミムラ:それはもちろんあります。「FROM SHINJI」というパートは“当時はこういうふうに捉えていた”ということが、本人の語り口調で書いてあるんです。その前の一般的な読み物というか物語風になっているパートは、当時に起こったことが時系列でそのまま書いてあって。「FROM SHINJI」というのは、後から“その当時を振り返ってみると……”という、香川選手本人の言葉で書かれているんですね。

藤木:なるほど。

ミムラ:そうすると、当時の香川選手がわからなかったことも、その後で書くことができますし、本編の後に書いてある「FROM SHINJI」では、香川選手の成長なども、彼の語り口調の言葉で読めるようになっています。

藤木:本当に事細かにいろいろなエピソードを拾っているので、“香川選手がどう感じてどう動いたのか”が手に取るようにわかって、面白い本ですよね。

ミムラ:そうですね。あとちょっと面白い話としては、香川選手に最初に取材したときに「(過去のことを)正直、覚えていない」みたいなことを言っていたんです(笑)。なので「まわりの人に取材してきてほしい」と。

それで、いろいろな人に取材をして当時の状況を振り返ってもらい、そこで聞いたことをまた香川選手に「こういうふうに話していたけど……」という感じで進めていきました。三浦知良選手や元日本代表監督の岡田武史さん、また俳優の小栗旬さんも出てきます。本人の記憶だけじゃなく、まわりの人の力も借りながら書いたという感じでしたね。

藤木:香川選手ご自身も、みんなが(当時)どんなことを思ってくれていたのかを知ることができて、楽しまれていたんじゃないですか?

ミムラ:香川選手は「恥ずかしいからちょっと読めない。引退したときにちゃんと読むわ」みたいなことを言っていましたね(笑)。ただ、小栗さんとのエピソードは、香川選手が僕に話していた内容と、取材させていただいたときに小栗さんが僕に話してくださった内容が一緒だったので、2人の関係の深さを感じましたね。

藤木:香川選手と言うと“天才”というイメージがありますけど、やっぱり苦しんでいた時期もあるんだな、というのがわかりますね。

ミムラ:彼は、今回の本のなかでも「そういうところを隠さないでしっかり残そう」と。“武勇伝だけ”というか、かっこいい話だけをまとめるスタイルの方ももちろんいるし、それが良い悪いということではないと思うんですけど、自分が失敗したことや苦悩したことも含めて“香川選手でもこういう失敗をするんだな”ということがわかって、読んでいる人の参考になれば……という本人の思いもあって、そういう(苦悩している)ところもすべて書かせてもらいました。

次回5月15日(土)の放送は、自転車女子トラック 東京オリンピック代表・小林優香選手をゲストに迎えお届けします。どうぞお楽しみに!

<番組概要>
番組名:TOYOTA Athlete Beat
放送日時:毎週土曜 10:00~10:50
パーソナリティ:藤木直人、高見侑里
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/beat/