プロゲーミングチーム「Crazy Raccoon(クレイジーラクーン)」独自のオンラインイベント「Crazy Raccoon Cup(CRCup)」は、同時接続20万人を超える視聴者数を記録するなど、高い人気を誇ります。

かたや、先日行われたeスポーツイベント「RAGE」の『VALORANT』大会「2021 VALORANT Champions Tour -Challengers Japan Stage2」では、優勝を果たし、世界大会への出場権を手にしました。まさに人気、実力ともに日本トップクラスのeスポーツチームと言えるでしょう。

クレイジーラクーンが結成されたのは、2018年4月と後発の部類に入ります。そんな後発チームが人気を集める1つの理由は、オーナーである「リテイルローのおじさん」こと、高野大知氏の手腕とゲーム愛によるものだと言えます。今回は高野氏にクレイジーラクーン成長の原動力やCRCUPの人気の秘訣などを聞きました。

――クレイジーラクーンは、eスポーツチームとしては、後発の部類に入ると思いますが、チーム運営を始めたきっかけを教えてください。

高野大知氏(以下、高野):もともと飲食店を経営していまして、そこで稼いだお金とプライベートな時間の使い道をどうしようか考えていたときに、ゲーム動画配信を通じてプロ選手と仲良くなり、eスポーツのプロ選手の現状を知りました。

契約とか、報酬とか、待遇とか。これはプロと呼べるレベルではない、なんとかしなくては。と思ったのがきっかけですね。そこでeスポーツ選手を支援できることを始めようと決めました。

  • リテイルローのおじさん

    「リテイルローのおじさん」こと、高野大知氏

――支援という形だと、チーム運営以外に、スポンサーや大会運営なども考えられますが、チーム運営を選んだ理由はなんでしょうか。

高野:選手を直接支援するのはチーム運営が一番手っ取り早いと考えました。とにかく、選手の収入や生活を安定させたかったし、もっと有名にしたかったんです。また、契約があやふやだったり、選手側が不利なものが多かったりしたので、そのあたりを改善するために「チーム運営」という方法を選択しました。

報酬面以外の支援としては、マネージメントと動画編集ですね。動画編集はかなり力を入れていて、ゲーム配信の中では高いクオリティを維持できていると思います。

――チームを運営するにあたり、目標としていたことはなんでしょうか。

高野:eスポーツのスタンダードを作ることです。そのために当たり前のことを当たり前にやってきました。特に“選手ファースト”にこだわること。ただ、eスポーツ業界ではそれが当たり前ではなかったところがあったと思います。クレイジーラクーン以外で成功しているチームをみてみると、やはりその当たり前ができているんですよね。そういう点では目標設定とやり方は間違っていなかったと思います。

――クレイジーラクーンの躍進は、所属選手によるところが多いと思いますが、強い選手がクレイジーラクーンを選ぶ理由はなんでしょうか。

高野:それは圧倒的に条件が良いからだと思います。配信界隈の人に話を聞いて見ても「その条件はありえない」と言われることは多々あります。

チーム運営を始めた当初は、当然チームとしての収入の見込みはなかったので、私の持ち出しでやっていました。なので最初の1年は赤字でしたね。ただ、ずっとその状態にあるとは思っておらず、チーム運営も絶対成功すると思っていました。なんていうか、自分が失敗するって本気で考えられないんですよね(笑)。

――それだけ条件が良いと、チームに入りたい選手も多いのではないでしょうか。

高野:入りたい人が多いという話はよく聞きますね。ほとんどの選手は私がスカウトしてくるので、ゲームがうまくて、人気があれば、多方面から注目のプレイヤーとして私の耳に入ってきます。そうなると自然と私から声がかかるでしょう。

――eスポーツの動画配信は公式大会でも同時接続1万人に満たないものも多いですが、そんななか、同時接続10万人以上をコンスタントに出す秘訣はなんでしょうか。

高野:「eスポーツ大会を開催すること、作ること」がゴールになっている人や運営が多いんじゃないでしょうか。eスポーツ大会は観てくれる人がいて、その人たちが観たいものであることが重要です。なので、どんな大会だったら観たいのか、そのためにどうすればいいか、という配信動画の理想が頭に描かれていないと難しいでしょう。

仮にビジョンがあったとしても、「大きな会場でやればいい」とか、「芸能人を呼べばいい」とか、これまでのイベントの手法を用いているだけではうまくいかないかもしれません。それが本当に視聴者が観たいものなのか、疑問に思います。

私たちは、視聴者がどんなものを観たいと思っているのか、常に考えています。公式と同じ方法論でやっていても仕方ないですし、意味がないと思っています。

――クレイジーラクーンが運営するイベント配信は、高野さんが観たい動画を作っているわけですね。

高野:そうですね。かつては公式でも運営会社主催でも大会がなかったんです。だったら、作ってしまおうと思いました。

最初はeスポーツらしい競技大会を開催していましたが、公式の代わりとしてやるよりも、もっとおもしろいことがしたい、観たいと考えて、インフルエンサー同士の対戦にしました。結果として、私と同じものが観たいと思っていた視聴者が多く、視聴数も伸びていきましたね。

今は『Fortnite』を使って、鬼ごっこをしていますが、最初は視聴者がおもしろいと共感してくれるか不安でした。いざやってみるとみなさん楽しんでいただいているので安心しています。

大会は収益を出すことが目的ではありません。イベントが盛り上がって、視聴者が喜んでくれればそれでいいんです。赤字にならなければいいな程度にしか考えていないので、黒字になったのであれば、その収益はさらにおもしろい大会を作るために再投資します。

それを繰り返しているうちにブランド価値があがり、さらに観てくれている人たちが増えていく相乗効果になっているのだと思います。そういう意味でも、5月15日に開催する次の「CRCup」は“感謝の大会”にするつもりです。

2019年に放送された『Fortnite』の「Crazy Raccoon Cup」

――今後、新たな展開はあるのでしょうか。

高野:自分が正しいと思ったことがスタンダードになるように考えていきたいですね。そのことが浸透していけば、プロゲーマーのイメージも変わり、良いイメージを与えられると思います。あとは、新タイトルの大会も近々行います。こちらも楽しみにしていてください。

――ちなみに、秋葉原にオープンする新しい事務所は、誰でも訪れられるそうですが、こちらについても話をお聞かせください。

高野:実は私も今日初めて訪れました。まだ、何もない状態ですが、PCをずらっと並べていつでも誰でも遊べる状態にしたいです。10台は自由に遊べるもので、6台は選手やストリーマー、クリエイターなど関係者が使います。

――ゲームをプレイする場所を開放するだけでなく、実際にチームメンバーの練習場所や事務所としても使うのですか。

高野:そうです。当然、私もいますので、ぜひ会いに来てください。ただ、情勢が情勢なので、しばらくは自由に入れるのは難しいですね。予約制とかにすると思います。6月1日からオープン予定ですが、コロナの感染状況など、様子を見ながら一般開放を考えていきます。

――最後にファンに向けてコメントをお願いします。

高野:私がおもしろいと思うことをひたすらやり続けるので、これからもおもしろさを共有し、楽しんでいただきたいですね。