東京大学(東大)、東京工業大学(東工大)、北海道大学(北大)、高輝度光科学研究センター(JASRI)の4者は5月12日、地球深部の環境に相当する超高圧・高温実験、大型放射光施設SPring-8におけるX線回折測定、同位体顕微鏡による微小領域化学分析などを組み合わせ、地球形成期に存在していた大量の水の9割以上が水素としてコアに取り込まれたことを明らかにしたと発表した。

同成果は、東工大 地球生命研究所の田川翔特任助教(研究当時・東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻大学院生)、東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻/東工大 地球生命研究所の廣瀬敬教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

46億年前に太陽系が誕生した際、原始惑星や微惑星同士、そのほか小天体との激しい衝突を繰り返していた原始地球もマグマの海(マグマオーシャン)に覆われており、液体の水は地表に存在していなかったと考えられている。そのため、現在の地球を覆う大量の水は、小惑星帯以遠から運ばれて来た可能性が高いと考えられている。

しかも、その水の量は、現在の海水の数十倍から数百倍規模とも考えられているが、それが事実であった場合、その大量の水がどこに消えたのか、という謎が残されることとなる。また、生命の誕生にとっても水は必須だったと考えられており、かつ生命誕生へとつながった有機物による化学進化には、地球のように海と陸が共存する多様な環境が重要だったとされていることから、現在の海水の数十倍以上の水が存在していた場合、原始地球の大半は水で覆われていたことが予想され、多様な環境が構築されていたとは考えにくく、それをどのようにして地球が回避したのか、といったことも謎となる。

さらに、地球の液体コア(外核)も、70年近い研究を経ても解決できていない謎として、液体コアの密度が、純粋な鉄もしくは鉄ニッケル合金よりも8%ほど小さく、「密度欠損」と呼ばれる状態となっている点がある。鉄やニッケルよりも原子番号の小さい、つまり軽い元素が大量に含まれていることを意味するものと考えられているが、1952年に報告されて以来、未だにこの軽元素の正体は突き止められていない。

これらの謎を解く上でのカギとしてマグマと金属鉄の間での元素分配が考えられている。地球形成期における、マグマオーシャンで覆われている中、比重の重い金属鉄は中心部(コア)へと沈んでいったと考えられているが、その際、金属は周囲のマグマと化学反応を起こし、マグマに含まれていたケイ素や酸素、水素などの軽元素を取り込んだと推測されている。しかしそうした軽元素に関して、取り込まれたあとの行方については、金属コアとマントル(マグマ)が化学的に分離したとされる、およそ50万気圧・3500℃の高圧高温下で、水素(水)とマグマと金属鉄の間でどう分配されるのかを実際に調べることが困難であるため、よくわからないままであったという。

そこで共究チームは今回、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いて30~60万気圧・2800~4300℃の高圧高温状態を作り出し、マグマと金属鉄の間における水素の分配実験を実施することにしたという。

その結果、作成された金属鉄中の水素とマグマ中の水の量を、大型放射光施設SPring-8におけるX線回折測定と、北大の同位体顕微鏡による微小領域化学分析によって、それぞれ決定することに成功。これにより、コアとマントルの間の水(水素)の分配が明らかになったという。

  • 地球のコア

    46万気圧の実験における金属部分のX線回折パターンの変化。上が加熱前、中央が加熱中、下が加熱後のX線回折パターン。加熱前には水素を含まない純鉄のピークしかなかったものが、レーザー加熱中は約3900ケルビンの高温で融けている。温度を瞬間的に常温に戻すと、鉄水素合金からの回折が現れ(図中赤いピーク)、鉄水素合金が合成されていたことが判明した。このピークの位置より、鉄水素合金中の水素量を決めることができる (出所:東大Webサイト)

  • 地球のコア

    同位体顕微鏡を用いたシリケイト中の水量の分布。左は実験後の試料断面の光学顕微鏡写真、中央に各元素(HとSi)の分布の生データ、右側はシリケイト部分(超高圧高温下でマグマだった部分)の水の分布図が示されている。実験後の試料の加熱箇所には、真ん中に金属鉄、周囲にシリケイト部分、そして分配に関らない部分(Ca-Pvという水を含まない鉱物)/融けていない領域が同心円状にできていることが確認された。このうち、シリケイト部分について、同位体顕微鏡で分析することで、マグマオーシャン側に分配されていた水素量が明らかとなった (出所:東大Webサイト)

具体的には、コアに大量の水素が持っていかれたあとに、マグマオーシャン中に残された水は、現在、海水として地表にある分と、マントルの岩石に取り込まれた分があるとする。また、複数のシミュレーションモデルに、実験から求められた水素の分配係数を組み合わせたところ、約700ppmの水をマグマオーシャンに残すには、コアには3000~6000ppmの水素が取り込まれることが必要と導き出されたという。

3000~6000ppmの水素が外核に存在するとした場合、外研究チームによれば、核の密度欠損のうち、3~6割を説明することが可能になるという。これは、水素がコアの「主要な軽元素」である可能性を示すものとなるとする(水素以外もある)。

また今回のシミュレーションの結果からすると、原始地球のサイズが現在の地球の約1/10を超えると、コア中の水素量はそれ以上増えないことも判明。つまり、地球以外の岩石惑星や衛星でも、地球の1/10以上の質量を持つ場合、そのコアには地球と同じぐらいの水素が含まれていることが考えられるとしており、例えば火星は質量がその条件に当てはまるため、火星のコアにも水素が存在している可能性があるとしている。

  • 地球のコア

    シミュレーション結果の一例。先行研究において中心核の形成が起きたとされている、さまざまな温度・圧力パス(左上)で、水素が核とマントルにどのように分配されるかがシミュレーションされた。横軸は、地球質量の何%まで計算を進めたかの結果が表されている(100%で地球サイズ、10%で火星サイズ)。ここでは、地球に一定の水が降ってくる場合が仮定されている。右上図にあるように最終的にマグマオーシャンに690ppm(地球のマントルの水 + 海水の合計の最小値)の水が残るように計算が行われた。その結果、地球の10%の質量を持つ惑星(たとえば火星)でも、その多くの水は中心核に分配され、水素が核の主要な軽元素といえるという(下図)。また地球の場合には、現在の海水のおよそ30~70倍相当もの水素が核に存在していることがわかる。なお下図右の「海水の何倍相当か」の軸は、惑星のコアとマントルの質量比が地球と同じと仮定して表されている (出所:東大Webサイト)

今回の研究から、地球形成時に水が継続的にもたらされていたと仮定した場合、現在の海水の約30~70倍の水が地球の内部に含まれていることが示され、そうした大量の水のほとんどがコアに水素として取り込まれた結果、地球の表層では、ほどよく海と陸が共存するようになったと研究チームでは説明しており、このような調整メカニズムは地球の1/10以上の質量を持つ岩石惑星ならどれでも働くと考えられることから、系外惑星を含めて考えると、地球のような表層環境を持つ惑星や衛星は宇宙に数多く存在する可能性があるともしている。

ただし、今回のシミュレーションでは、常に同サイズの微惑星が地球に集積していくという、シンプルな地球の成長モデルが採用されたことから、研究チームでは今後、実際の地球形成であったであろうさまざまなサイズの惑星の衝突などを加味できる最先端の惑星形成モデルに、今回の知見を取り入れることで、地球誕生の謎や、地球の材料物質や詳細な集積プロセスの解明につなげたいとしている。

また、今回の研究からコアの主要な軽元素が明らかになったため、コアの軽元素の全容解明に近づいたともしているが、水素が主な軽元素であるとしても、それ以外の元素の候補として硫黄、ケイ素、酸素、炭素なども考えられることから、それらのコア中の存在量を明らかにすることで、コアの実態解明にも迫っていきたいともしている。