アパホテル・元谷芙美子社長が語る”コロナ禍でのホテル黒字経営”

もとや・ふみこ
福井県福井市出身。福井県立藤島高校卒業後、家庭の事情で大学進学を諦め、地元の福井信用金庫に入社。22歳で結婚し、翌1971年、夫の元谷外志雄が興した信金開発株式会社(現アパ株式会社)の取締役に就任。94年アパホテル社長。2006年早稲田大学大学院公共経営研究科修士号を取得し、11年には同博士課程を修了。

夫でアパグループ創業者の元谷外志雄氏は代表。芙美子氏はアパホテルの社長を務め、同社はコロナ禍の今も拡大路線を敷く。ホテル業界では同業他社が赤字に陥っているのに対し、アパグループは黒字を確保。「所有と運営、そしてブランドの3つを自前でやっているのが当社の強み」と強調する。昨年にはいち早くコロナの無症状者・軽症者の受け入れを表明し、ホテル業界の新たな道筋を開いた。コロナ禍を生き抜く経営者の覚悟と今後の成長戦略とは。

過去5年間の経常利益の蓄積

 ─ コロナ禍でホテル・旅館業が大打撃を受ける中でアパグループは2020年11月期の連結決算で約9・5億円の最終黒字を実現しましたね。

 元谷 今までは3000万人規模の海外観光客のお客様が日本にいらっしゃいましたが、コロナでこれがほとんどゼロになりました。我々にとってもその影響は大きく、経常利益は前期比97%減となりましたが、我が社は黒字を計上することができました。

 当社は19年11月期までの過去5年間で平均330億円以上の経常利益を上げ、経常利益率も30%前後で推移。今年で創業50周年になりますが、その間、一度も赤字になりませんでした。この貯えがあったわけです。

 そして、アパグループでは直営ホテルのほとんどを所有しています。一般的なホテルでは、土地、建物の所有と運営、そしてブランドの3つがそれぞれ別の事業体で運営されていることが多いのですが、アパグループのホテルは全て自前になります。

 海外の有名なホテルチェーンも不動産の所有と運営、ブランドが別々になっており、ホテルの運営会社は不動産のオーナーに家賃を払ったり、ホテルチェーン本部に10%程度のロイヤリティを払ったりしています。しかし、我々はホテルを借りて運営したり、ブランドを借りてロイヤリティを払っているわけではありませんから、それだけ収益力は高くなります。

 ─ それでも未曽有の危機下を生き抜くには、それなりの備えが求められますが。

 元谷 これは代表(夫・元谷外志雄氏)がよく言っていたのですが、危機は大体10年ごとにやってくると。例えば、当社は今年で創業
50年になりますが、最初の危機は1970年代前半に起こったオイルショックでした。その後もバブル崩壊、耐震強度不足報道、リーマン・ショック、そして今回のコロナ危機。そういう気構えを持っていたことが危機管理につながったと。

 その結果、一度もホテルの新築計画を止めることなく続けることができました。さらに、コロナ禍でも当社は今年2月に旅行会社のホワイト・ベアーファミリーのグループ会社から「ホテルWBF新大阪スカイタワー」を買収し、「アパホテル〈新大阪駅タワー〉」として3月30日に開業しました。

 このようにコロナ禍でも4棟ほどのホテルを買収したことをはじめ、「頂上戦略」として打ち出した新築計画については、1つも止めることなく進めています。その結果、4月12日時点ではアパホテルネットワークとして建築・設計中、海外、フランチャイズ、パートナーホテルを含めて665ホテル、10万2708室にまで拡大しています。

 さらに、20年4月にスタートした「SUMMIT 5-Ⅲ(第三次頂上戦略)」では、25年3月末までに15万室の展開を目指しており、現在も27棟、1万376室を建築・設計中です。

 ─ 資金調達についてはどのように行っているのですか。

 元谷 メインバンクからは「どうぞお使いください」ということで、常に買収資金やプロジェクト資金の提案がありますし、大型チェーンの買収案件が出てくれば2000億~3000億円規模の資金は協調融資で用意しますと言っていただいています。その他にも過去の利益の蓄積で自己資金も豊富にありますので、お金は万全です。


1泊2500円のキャンペーン

 ─ ホテル経営では宿泊料の設定がポイントになります。

 元谷 ええ。コロナ禍では当社にとっても、これまで経験したことのない稼働率、宿泊単価の低下に見舞われました。それに対し、当社の強みは他にはない独創的な企画力です。そこで当社は1泊2500円という「コロナに負けるなキャンペーン」を打ち出したのです。

 ビックリするような価格ですが、これを期間限定で全ホテルで展開しました。その後も、今年の5月10日で創業50周年でもありますので、1泊3900円で宿泊できるキャンペーンや映画・アニメなどが見放題になる「アパルームシアター(客室VOD)」も1泊1000円のところを無料にしたり、お得に1000円で連泊ができるクーポン券を差し上げる企画を実施したりするなど、とにかくどこにも負けない独創的な企画を打ち続けています。

 ─ アプリも自社開発しましたね。

 元谷 当社の自社開発サイト・アプリでホテルを予約していただくことで、旅行代理店などに支払う10~18%の手数料の負担がなくなり、その分をお客様に還元することができます。アパホテルのメインのお客様は30代後半から50代ぐらいのエリートビジネスパーソンの方々で、若い方々といった新しいお客様の獲得が課題でした。

 しかし、これらのキャンペーンで20代の方々にも使っていただけるようになり、顧客層が広がりました。アプリのダウンロード数も200万を超えています。優秀なビジネスパーソンを中心とするアパホテル会員の累積会員数は1900万人を超えていますが、その会員の中には、今までアパホテルを使ったことがない若いお客様が新規で増えているということです。


なぜ軽症者を受け入れたのか?

 ─ アパグループは政府の意向打診を受け、先駆けてコロナの無症状者と軽症者の受入れを表明し、その後の流れをつくったわけですが、その経緯とは。

 元谷 政府の意向打診に対しては即座にお引き受けしたのですが、これはかねてからパンデミックが起こり得ることを予想していたからです。先ほど10年ごとに危機が来ると申し上げましたが、ホテル業にとっての最大のリスクはパンデミック(感染症)であると代表は数年前から言っていました。

 100年前のスペイン風邪のような感染症が世界中で蔓延した場合に、ホテル業界は大打撃を受けるぞという危機感から、社員も全員そういう認識を持って心の準備をしていました。

 コロナの感染が拡大する中で、増え続ける感染者を全ての病院だけで受け入れていては満床になり、本当に重篤な患者を受け入れるベッドが確保できなくなってしまいます。また、医療関係者の方々の負担も大きくなる。医療機関が活発に動けるようにするためにもホテル業界のリーディング・カンパニーである我々が最初に手を挙げようと。

 昨年4月2日の夜に政府筋の方から電話が入り、代表は即断即決で受け入れましょうと回答し、私も賛成でした。社員も先ほど申し上げたように、心構えができていましたから、誰一人驚くことはなく、いよいよ来たぞと。そして、最初に「アパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉」を1棟丸ごとお貸ししました。

 ─ 日本で一番客室が多く、新しいホテルでしたね。

 元谷 はい。日本で最大級となる2311室で、開業して6カ月のホテルでした。ただ、周辺の住民の方々からは最初は反対の声も上がりました。「空気感染するのではないか」と不安の声もいただきました。そこで、自治体側に資料を作成していただき、一定の距離を保てば感染の恐れがないことや患者さんの送迎も車で行うので、接触の心配はないということを周知しました。

 ─ 従業員の安全に対する不安にはどう応えたのですか。

 元谷 もちろん従業員が感染してはいけませんから、専門家によるゾーニングや感染対策を行った上で、そのホテルで働いている従業員がそのまま対応するのではなく、希望者を募りました。すると、私の思いの5~6倍の従業員が申し出てくれたのです。これが本当に嬉しくて、少し手当も出して「頑張ってね」と励ましました。

 その後も東京都からの要請を受けて「アパホテル&リゾート〈両国駅タワー〉」も新築オープン前に1棟丸ごとお貸ししました。こちらも1111室と大きなものなのですが、こちらでも周辺の方々からは不安の声が出てきました。そこでホテルの建設を担当した一級建築士が直接出向いて説明するなど、当社としても様々な手を尽くしました。

 すると、その甲斐もあって東京都に引き渡す日には「コロナ患者さんが早く回復するように」と町内会の方々が折った3000羽もの千羽鶴を持ってきてくださったのです。ホテルで働く従業員の士気も上がって私も胸がいっぱいになりましたね。


東京都からの要請を受けて新型コロナウイルス無症状者と軽症者を受け入れた「アパホテル&リゾート〈両国駅タワー〉」

 ─ 患者さんにとっても新しいホテルに泊まれると。

 元谷 そうです。治った方々からは「横浜の綺麗な夜景が見られました」「隅田川を見て心が和みました」といったお手紙やメールが届きました。そして「ホテルの従業員から優しく元気に声をかけていただいた」と。

 また、医療関係者の方々にとっても、1カ所のホテルでたくさんの患者さんを診ることができるので、お医者さんも看護師さんも効率的に動くことができたと思います。そして従業員にとってもアパで働いて良かったと胸を張ることができます。


海外にも積極的に進出

 ─ では、今後の成長戦略について聞かせてください。

 元谷 代表はコロナ禍収束まで2年かかると予測しています。ですから、あと1年はこのような状況が続いていくでしょう。しかしコロナが収束すれば、ビジネス需要、国内観光需要も一定数、回復することが見込まれます。そして、今後も力を入れていくのは海外になります。

 当社は既に北米で39ホテル・4711室を展開するホテルチェーンを運営しています。まずは国内で断トツNo.1のホテルチェーンになることを目指しますが、その後は我々が進出していない周辺のアジア諸国への進出も検討していきたいと考えています。アジア諸国の所得水準も今後は上がり、海外旅行離陸期を迎え、夢の国・ジパングとして日本に行きたいと思う外国人の方々が増えていくでしょう。

 ですから、当社はあくまでも長期的な視点に立ってホテルの開発を行い、コロナによる一時的な需要の落ち込みがあったとしても、長期戦略を変えることはありません。さらに、コロナ禍で経営の厳しくなったホテルの売り情報が増えてきますので、積極的に取得を検討し、出店ペースを加速させていきます。

 ─ 最後に社長としてのご自身の役割を聞かせてください。

 元谷 会社がどんどん大きくなっていますが、私はより一層、家族経営という点を大事にしていきたいと思っています。ですから、いつも明るく元気で前向きな姿勢で、従業員1人ひとりに声をかけていく。代表は織田信長のようなカリスマ経営者ですが(笑)、私は代表とは真逆です。女性社長かつ母としての私の役割を果たしていきたいと。

 孫子の名言に「拙速は巧遅に勝る」という言葉があります。大企業では時間をかけて100点をとる会社はありますが、当社は80点でも85 点でもいいから瞬時に世の中の要請に応えて、その時の最善の答えが出せる企業になると。そういった経営者でありたいと思っていますね。

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