コロナ禍で加速したテレワーク。働き方の変化に伴い、都心部を離れる移住の動きも広がっている。今年3月に東京都港区から佐賀県鳥栖市へ移住したギフトモールのエンジニア・市川主馬さんに、地方移住のメリット・デメリットや率直な感想を聞いた。

  • 佐賀県に移住したギフトモールのエンジニア・市川主馬さん(インタビューはオンラインで実施)

移住して「いい意味で大きな変化なし」

市川さんはギフトモールのエンジニアとして、システム開発や運用、顧客の要望に沿った対応などを行っている。ギフトモールは、月間来訪数3,600万人超のオンラインギフトサービス「Giftmall」などを運営する企業。2014年の創業当初から東京とシンガポールの拠点があり、オンラインツールの活用やリモートワークのスタイルが定着している。

勤務はフレックスで、コアタイムは3時間。市川さんは午前11時から行われるチームミーティング以外は自分の裁量で仕事を進めるそう。リモートワークの良いところは「起きて20分で仕事を始められることと、家事などを含めて自分のペースで進められるところ」。加えて、 同社のように全員がリモートの場合、全員が同じ条件でコミュニケーションに参加できるのでズレが起きにくいという。

さらに、佐賀での暮らしを始めて感じることは、家の寝室・居室・仕事場を別の部屋にできたことで気持ちの切り替えがしやすくなったことと、余裕ができたこと。

  • 移住後のリモートワーク環境(市川さん撮影)

「店の閉店時間が東京より早めなので、生活リズムが少し朝方になりました。野菜や魚が安く、食事も東京にいた頃より健康的になっています。家がワンルームから2LDKになりましたが、家賃は東京の家より3割くらい安くなりました。家が広くなってメリハリをつけて仕事に集中したり、穏やかに暮らせたりするようになりました」(市川さん)。

地方暮らしでも不便さはなく、家の周辺にはスーパーやドラッグストア、100円ショップなどが自宅から5分圏内で揃うほか、繁華街・博多までも電車で20分程度。都内にいるときの「ちょっと新宿に出る」のと同じような感覚で、不便は感じていないそうだ。「いい意味で大きな変化はないですよ」と、現在の暮らしを語る。

引っ越すならいっそ地方移住もアリ

  • 休日は散策に(市川さん撮影)

市川さんが移住を考え始めたのは昨年7月頃。自宅でフルリモートワークをしていく中で、それまでの住空間には限界があると感じ、転居を考えたことがきっかけだった。「当時住んでいたワンルームの家ではオンオフの気持ちの切り替えも難しいし、デスクを置くにも狭かった。この仕事で長く働きたいと思っていたので、引っ越しを検討し始めた」と当時を振り返る。

昨年3月からギフトモールで働く市川さんは、同社にもともとあるリモートワーク文化に加え、同年4月の緊急事態宣言もあって、入社当初からフルリモートが当たり前のものになっていた。

会社の制度も後押しに

生まれも育ちも首都圏で、地方暮らしを経験したことのなかった市川さん。両親や友人と離れることや、東京に暮らしていた方が仕事は安定的ではないかという不安もあり、2カ月近く迷った。そんなとき会社がより一人一人が働きやすい環境を作ることを目指してリモートワーク⽀援制度を導⼊したことが、背中を押した。

同社では、今年1月に新制度として2つの支援を発表。モニターやデスク・椅子などの購入に最大15万円、さらにリモートワークしやすい住宅への引っ越し費用に最大30万円が支給されることになった。

市川さんは「東京にいても人と会う頻度は低かったし、会いたい時は飛行機に乗って行けばいい。会社もリモートを推奨してくれたので決めました。仕事の環境はあまり変わらないし、大丈夫だと思えた」と、振り返る。同僚も遠方への引っ越しに驚きはしたが、職場的にも問題はなかったという。

「職務内容や状況が整わなければ難しいかもしれないが、地方でのフルリモートは生活や心に余裕ができる。都内企業に勤める人の地方移住は、かなり現実的な選択肢のひとつだと思います」と語った。

  • 移住先でお花見(市川さん撮影)