「在庫はリスクではなく競争力の源泉」 トラスコ中山社長・中山 哲也の『在庫哲学』

eビジネスは堅調に推移
 ─ まずはコロナ禍における業績への影響から教えていただけますか。

 中山 前期(2020年12月期)は、売上高2134億円(前年同期比3・3%減)、経常利益115億円(同18・6%減)と大変厳しい結果になりました。

 ただ、その中でもいろいろな気づきがあって、打撃を受けたのはメインのファクトリールート。いわゆる、設備投資や工場の稼働に必要な物流保管用品、空圧・電動工具、切削工具などの需要は減少しました。

 一方で、eビジネス(ネット通販企業)向けやホームセンター向けのビジネスは2ケタ成長しました。この勢いは今も続いていまして、今期(21年12月期)は増収増益(売上高2275億円、経常利益138億円)の見通しです。

 ─ これは巣ごもり需要が結構あるということですか。

 中山 ええ。やはり、今年に入ってから、景気も全体的に持ち直しの傾向が見られますし、設備投資に関しても、決して力強くはありませんが、徐々に回復傾向になります。

 特に、eビジネスとホームセンター向けは好調です。中でも、ホームセンターさん自身が近年はeビジネスを強化している。どちらかというと、今までホームセンターさんはお店ありきで、eビジネスにそこまで注力してこなかった。それがここまでeビジネスが普及してきますと、自分たちでもやらなければならないということで、今期も堅調に推移すると思います。

 ─ トラスコ中山は、そうした需要の増加に対応できる仕組みをつくってきたということですね。

 中山 これはたまたまなんですが、3~4年前から人手不足が問題になっていましたから、お客さんもそのうち人手不足になって、当社から直接ユーザーの元に配送してほしいという依頼が増えるような予感をしていたんですよ。

 そこで当社としてもユーザー直送への準備をしようということで、『I-Pack』という高速自動梱包出荷ラインを導入していたんですね。前にもお話したように、例えば、商品をお届けするには段ボールが必要になるのですが、この出荷ラインは商品の大きさを自動で計測し、その大きさに応じて段ボールに蓋をしてくれるのです。

 だいたい1ラインあたり3億円ぐらいの投資が必要になるんですけど、これをすでに全国で5ライン導入していました。

 ─ eビジネスの需要拡大を見越して?

 中山 eビジネスというよりは、人手不足対応ですよね。ところが、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、人手不足というよりも、巣ごもり需要でeビジネスが急拡大した。だから、ネット通販の会社さんは今、物流センターがてんてこ舞いで大変です。それで当社にも依頼が来て、ユーザーへ直送してほしいと言われるようになっています。

 ─ このユーザー直送というのはどういう意味ですか。

 中山 例えば、あるネット通販会社さんが注文を受けたら、商品を探してきて荷造り梱包と運賃をかけてユーザーさんの元へお送りするわけです。しかし、商品が手元に無かったら、メーカーさんから取り寄せなければならないので、お取り寄せするのに2~3日かかってしまって、ユーザーさんの手元に届くまで1週間くらいかかるんです。

 ところが、当社には『I-Pack』があるので、1ラインで1時間最大720ケースの高速梱包出荷が可能になります。これを人手でやろうと思っても1時間でせいぜい30個くらいだと思います。それが当社にはすでに5ラインありますので、かなりの数を一気にさばけるというので、当社からユーザーへ直送する仕事が増えているのです。

 ─ これは在庫を持つ経営を信条とするトラスコ中山だからできたのですか。

 中山 ええ。おかげさまで、われわれのような卸問屋で自動梱包ラインを持っているところは他にないです。その意味では、前から投資をしてきて良かったと思いますね。


本来あるべき姿を日頃から考えて
 ─ 同業他社がやらないのに、投資をしようと思った理由は何でしたか。

 中山 今回は本当にたまたまですけど、一つだけ言えるとしたら、どんな業種、どんな企業であっても、自分たちの本来あるべき姿というものを日頃から考えておくべきだということですね。世の中はどう変化しているのか。そして、自分たちの業界はどう動いていて、お客さんは何を求めているのか。そうした原点を常に考えて、準備していくことが大事だと思います。

 ─ これは危機管理にもつながる話ですね。

 中山 仰る通りです。だから、わたしは〝備えなければ憂いあり〟と。

 ─ 備えあれば憂いなしではなくて?

 中山 そうです(笑)。本来、商売で競争するということは、ライバルと競い合って勝つか負けるかという話ではありません。A社には負けるな、B社にも負けるなというのも大事ですが、しかし、それは商売の本筋から考えたら間違っている。われわれの商売の本筋というのは、お客さんが求めているモノを早くお届けすることであって、ライバル企業と競争するために商売をしているわけではありません。

 やはり、大事なことはお客さんが何を求めているか。そのために必要なサービスを提供することでわれわれは対価をいただく。それが商売の本質ではないでしょうか。

誰もが思いつく発想と方向に成長のエネルギーはない
 ─ これは大事なことですね。全産業に共通して言えるんじゃないですか。

 中山 はい。ですから、言葉が難しいんですけど、われわれはお客さんのご機嫌を取って、ヨイショして買ってもらおうなんて思っていません。

 その証拠に、どこの企業でもよくお客さんのネットワークとして懇親会などをつくるじゃないですか。でも、当社では15年くらい前に止めました。

 ─ それはなぜですか。

 中山 というのも、いわゆる昭和スタイルの営業と言いますか、お客さんのご機嫌をとって商売するスタイルはもう時代に合わないのではないかと。昔ながらの努力と根性、熱意による営業で、あそこの会社のセールス、よく顔を出してくれるから買ってあげようという営業スタイルは、今は少し違うのではないかと思うんですよ。

 もちろん、仕事をする中で人と人との接点を持ち、信頼関係をつくることは決して無駄ではありません。ですが、お客さんの立場で考えたら、どこの会社と付き合えば、自分たちの会社が成長できるかというのが第一で、本筋を間違えてはいけないなと思います。

 ─ しかし、社内でもったいないという意見は出なかったんですか。

 中山 そういう意見もあったかもしれませんが、わたしの一存で決めました。

 そもそも多数決で決める答えというのは、どこの会社でもだいたい同じ結論になります。それに多数決で出た結論というのは、仮に失敗しても結果に対して皆、無責任なんです。多数決で決めていいこともありますが、やはり本当の意味での最後の経営戦略というのは、トップの決断になるかと思います。

 ─ 多数決で決めたことは結果に責任を持たないというのはあるかもしれませんね。

 中山 そうなんです。誰もが思いつき、誰もが進む方向に成功の文字はないんですよ。

 わたしは企業の成長にとって、一番のエネルギーは独創力だと考えています。独創力とは、誰もが思いつかないことを考え、誰もやらないことをやる力だと思います。誰もが思いつく発想と方向に成長のエネルギーはないのです。