三菱UFJ銀行・半沢淳一頭取に直撃 IT勢が銀行に参入する中、 新しい銀行の姿をどう構築するか?

変革のスピードを上げ持続可能な銀行に
 ─ コロナ禍、そして大きな金融の変革期にある中での頭取就任ですが、抱負から聞かせて下さい。

 半沢 我々商業銀行にとって、もちろんデジタル、環境・社会問題もありますが、大前提には超低金利の恒常化がありますから、今のレールの延長線上には大きな展望は開けないというのは間違いないと思います。

 新たな環境の中で持続的に成長できるビジネスモデルを再構築しなければ展望は開けません。その意味で、デジタル技術は非常に大きな武器ですから、しっかり活用しながら我々の損益分岐点、コスト構造を変えることによって、未来につなげられるような銀行グループにしていきたいと思っています。

 ─ 世界全体が危機的状況にある今ですが、行内に対してどう呼びかけていますか。

 半沢 行員の皆さんには健全な危機感を持ってもらいたい一方で、あまり暗くなってもしょうがないと思うんです。今の延長線上で物事をやっていれば暗くなりますが、デジタルなどの活用で我々の働き方さえ変えれば、新しい未来はしっかり描けます。我々経営の思い、新たに目指す姿を、行員の皆さんと共有し、共感してもらって、共に働き方を変えていきたい。

 これまでも変革に取り組んできたわけですが、私の役割は変革のスピードを上げて、未来に持続可能な銀行をつくり上げることだと思っていますから、その思いをしっかり伝えたいと思っています。

 今回、中期経営計画を策定しました。これを行員の皆さんに丁寧に説明しますが、それを受けて「もっとこういう風に変えた方がいいのではないか」といった声を吸収し、見直すべきは見直して、よりよい銀行グループにしていきたいと思います。

 ─ 具体的に、この3年間の中計で目指す姿は?

 半沢 まず、今はコロナ禍ですから、最優先でお客様の資金繰り支援に取り組んでいます。これを中心に、金融サービスの提供を通じて、お客様を支え続けることが非常に重要です。

 その上で、この4月から始まった三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の中計ですが、具体的な計数を含めた詳細は、5月の決算発表の際に亀澤(宏規・MUFG社長)からご説明することになると思いますので、私は概要について触れさせていただきます。

 3年後に「めざす姿」として「金融とデジタルの力で未来を切り拓くNo.1ビジネスパートナー」を掲げています。デジタルシフト、環境・社会課題に対する意識の高まりなど、社会が大きく変化する中で、お客様を始め世界が新たなステージに進もうとしています。

 我々は、それを推し進める力になるために、新たなものに挑戦し、自分たちも変わっていかなければいけません。

 我々が積み重ねてきた信頼、人材、顧客基盤、グローバルネットワークという強みと、デジタルを組み合わせることで、さらにその強みを磨き上げていきたいという思いを持っています。

「稼ぐ力」の強化に取り組んでいく
 ─ 顧客を支えるために、自らの形も変えていくと。

 半沢 ええ。めざす姿を実現するための主要戦略は、第1に企業変革です。その中における3つのキーはデジタルトランスフォーメーション(DX)、環境・社会課題への貢献、新しいことに挑戦するためのカルチャー改革です。

 成長戦略、「稼ぐ力」の強化については個人領域でのウェルスマネジメント(富裕層向けの資産運用)にしっかり取り組むとともに、法人のお客様に対しては経営課題解決型のアプローチで、付加価値の高い提案をしていかなければなりません。

 海外市場ではアジアビジネスに注力します。コロナ禍でアジア経済も少し踊り場ですが、今後の成長はもちろん見込めますし、デジタルも活用して成長をしっかり取り込みたい。

 さらにGCIB(海外法人金融・投資銀行部門)とグローバルマーケッツ(機関投資家営業・株式調査)とで一体で事業に取り組みます。そしてグローバルで資産運用と投資家向けサービスにも注力していきます。

 ─ 体質を変えながら、新しいことに挑戦していくという攻めと守りが共に必要だと。

 半沢 そうです。構造改革を進めて強靭性も確保していきます。経費、リスクアセットのコントロール、ビジネス基盤・プラットフォームの改革、そしてROE(株主資本利益率)向上のために事業ポートフォリオの見直しにも取り組んでいきます。

 ─ 半沢さんは銀行のトップですが、銀行単体としてはどう取り組もうと考えていますか。

 半沢 今お話したのはMUFG全体の取り組みですが、銀行のトップとしては3つの重点テーマを考えています。

 第1に国内収益基盤の徹底的な強化、第2にグローバル事業の強靭化、第3に環境・社会課題の解決へのさらなる貢献です。

 まず国内収益基盤の強化ですが、この5年間で我々の店舗への来店者数が半減した一方、インターネットでのサービス利用は2・5倍になっているという流れの中で、非対面のオンラインサービスをお客様視点で使い勝手のいいものにしていくビジネスモデルを作り上げていかなければなりません。また、業務プロセスをデジタル化することで損益分岐点を引き下げ、基盤を強化していきます。

 グローバル事業の強靭化については、19年にインドネシアの中堅銀行であるバンクダナモンを連結子会社化したことでパートナーバンクの拡大に一旦目途を付けたと考えています。今後は、これを強く、収益化していくかということで「量から質へ」と転換した取り組みにしていきたいと思います。

 さらに環境・社会課題への取り組みについては今、脱炭素の流れが続いていますが、これは環境問題というよりも産業構造の転換を迫るような動きになりつつあると思います。我々はお客様に丁寧に寄り添って、ご支援できるように取り組むことが大きな方向性です。



本店を建て替えグループ一体の拠点に
 ─ 社会の大きな変化に対応することが求められますね。

 半沢 私は銀行のトップですが、グループの総合力をしっかり活用していくことが重要だという問題意識を持っています。

 その観点で三菱UFJ銀行の本館を建て替えて、MUFGの本館として、ここに持ち株会社、銀行、信託、証券が集約するような形にしたいと思っています。

 そうすることで丸の内・大手町にある拠点のファシリティコストを引き下げることができると思っていますし、グループが一体的に揃うことで、お客様への提案をスピード感を持ってできるといった効果も期待できます。

 ─ これまで海外事業に注力してきましたが、今後はどのような姿勢で臨みますか。

 半沢 従来はどちらかというと国内が低成長の中で、海外に成長を求めてきました。先程申し上げたようにアジアは引き続き成長しますし、成長を取り込んでいくべきだと思いますが、欧米は再び金利が下がりましたから、再構築をしなければならないのではないかと思います。

 今回は国内業務にしっかり向き合って、そこでしっかり収益を上げるということに徹底的に取り組みたいと考えています。

 ─ デジタル化に関連して、今はITプラットフォーマーなど異業種が金融に入り込んできています。その中で、改めて銀行の役割をどう考えますか。

 半沢 我々の捉え方は、まず自分たちのネットバンキングなどの強化はもちろん進めます。加えて、外部事業者との提携も考えていきます。

 例えば、我々は様々なデータを持っていますが、それを外部事業者が持つ行動データと掛け合わせることで、お客様にとって最も適切なサービスを提案できるようにすることが必要になってきます。

 また、その外部事業者のプラットフォーム上に我々のサービスを載せることで、お客様との接点を拡大し、活性化するという形で取り組んでいく必要があります。

 我々だけで単独でできることは限られていますから、そこは外部事業者の皆さんと提携をして、しっかりやっていこうと思っています。

「一念天に通ず」を胸に置いて
 ─ ところで半沢さんはこれまで、主に企画畑を歩んできたわけですが、印象に残っている仕事は何ですか。

 半沢 若い頃に、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)と一緒に持ち株会社をつくる時に関与させていただきました。当時は、まず一緒になることを優先し、例えば信託銀行さんが行っている融資業務を、どちらかに寄せたり、合理化をしない形の緩い統合から始まりました。

 それを徐々に見直して、3年前に事業については基本的にグループベースで考える体制にカジを切り、そこで信託銀行の法人貸出を銀行に寄せ、役割分担と合理化をさらに進めるということに大きく踏み込みました。

 その意味で、グループ経営の有り様を10年以上、経験させていただきました。今回、私が大きな責任を持つのは銀行経営ですが、グループの総合力を発揮しながらお客様に提案させていただくことに、効率的かつ強く取り組むことができるようになったことについて、最初の統合に関わった者として感慨深いものがあります。

 ─ MUFGの社長である亀澤さんとはどのようにコミュニケーションを取っていますか。

 半沢 お互いに、課題があった時にはすぐに飛び込んで相談できます。また、現時点ではありませんが、今後グループと銀行とで意見が違うこともあり得ます。そういう時には時間をかけずに、一緒に打ち合わせの中に入って、その場で決めるという形で迅速に判断していきたいと思っています。

 ─ 大学を卒業する際に、銀行を志望した動機を聞かせて下さい。

 半沢 私が卒業したのはバブル期で多くの企業が成長しているタイミングでした。そして銀行も証券業務を行うことが認められるような方向性が見えていましたから、主に中堅企業の成長を銀行、証券などグループ力でご支援できるということに魅力を感じました。この考えは間違っていなかったなと思います。

 ─ 入行から1年半後にバブルが崩壊し、銀行業界全体が苦しい時期に入っていきます。どういう気持ちで仕事をしていましたか。

 半沢 バブル崩壊後は、不良債権をどう処理し、しっかり収益を上げられる銀行にできるかが目先の課題となりました。ただ、いま振り返れば我々は体力がありましたから、不良債権さえ処理すればV字回復できると思っていましたし、実際にできたのではないかと思っています。

 ─ 銀行に入って良かったなと実感したことは?

 半沢 お客様に対していろいろな提案をさせていただき、それを認めていただいて、実際に効果が出て「ありがとう」と言ってもらった時は、やはり嬉しかったですね。

 ─ 改めて座右の銘を聞かせて下さい。

 半沢 「一念天に通ず」という言葉です。自分が信念を持って取り組んでいれば、物事は実現できると、苦しい時に自分に言い聞かせてきました。