こんにちは、科学コミュニケーターの渡邉です。この1年を振り返ってみると、新型コロナウイルスの感染拡大により人と直接会うのを控える、不要不急の外出を控えるなど、日常生活の様式が大きく変わったことを実感します。それは、仕事においても例外ではありません。在宅勤務のほか、イベントの企画の調査や成果発表のために、今まで直接現地に足を運び参加していたシンポジウムや学会も、ほぼ全てオンライン開催となりました。

このような状況のなか、私・渡邉と同僚の科学コミュニケーター櫻井は、2020年11月16日から20日の5日間、AI(人工知能)に関するオンラインの国際シンポジウムHuman-centric Artificial Intelligence : 2nd French-German-Japanese Symposium(人間中心のAI:第2回仏独日シンポジウム)に参加してきました。本シンポジウムでは、AIに何らかの形で関わりをもつフランス・ドイツ・日本の研究者や民間企業・公的機関の方々が集まり、様々な分野のAI研究の現状を共有しつつ、今後のAI研究開発や国際協力のあり方などに関して議論がなされていました。そのシンポジウムのスペースをお借りし実施したのが、英語版の「みんなでつくるAIマップ」を用いた、シンポジウム参加者とのオンライン上での対話です。「みんなでつくるAIマップ」(以下、AIマップ)とは、未来館が意見収集端末「オピニオン・バンク」から拾い上げた皆さんからのご意見などに基づいてつくりあげた地図のこと。つまりAI技術に対する日本の市民の感情や意見を可視化したものです。AIマップを英語に翻訳した英訳版を新たに用意し、その英語版AIマップを閲覧したシンポジウム参加者から、感想やこれからのAI社会のあり方に関する意見を集めました。

Human-centric Artificial Intelligence : 2nd French-German-Japanese Symposium (人間中心のAI:第2回仏独日シンポジウム) ウェブサイト (英語)

https://www.ai-symposium-france-germany-japan.com

オピニオン・バンクでのアンケート「ハロー!AI社会~人工知能で何したい?」

https://www.miraikan.jst.go.jp/resources/miraikanfocus/202006121367.html

「みんなでつくるAIマップ」

https://www.miraikan.jst.go.jp/resources/miraikanfocus/202006121367.html

実際の対話で使った英語版はこちら

https://www.miraikan.jst.go.jp/en/resources/provision/aimap/

「みんなでつくるAIマップ」

この国際シンポジウムの面白いところは、ZOOMのようなビデオ会議システムを使うのではなく、参加者一人ひとりが自分のアバター(バーチャル分身)を作成し、仮想世界上のシンポジウム会場で対話を行うという点。つまり、私たち科学コミュニケーターが皆さんと未来館の展示フロア(現実世界)で行っているような対話を、仮想世界で行うということです。(※1)

でも、現実世界と同じようなやり方で、仮想世界上でコミュニケーションを取ることは果たして可能でしょうか?シンポジウム開催の5日間は、仮想世界上ではどのようなコミュニケーションが可能か、試行錯誤する機会となりました。本記事では、その奮闘の記録とともに、挑戦の結果得られた気づきを、渡邉のモノローグスタイルでお届けします。

オンラインシンポジウムでの対話奮闘記

【シンポジウム開催前】

在日フランス大使館の方のご厚意により、"Miraikan: Perspectives on AI"という仮想世界上の展示ブースを使わせていただけることになった。ありがたい!

仮想世界上のシンポジウム会場にて
各々の端末からアクセスすると、この世界の入り口(渡邉のアバターが立っている場所)に飛ぶことができる

初めてのことで使い慣れていないところもあるけど、フランス大使館の方のサポートにより、基本的な使い方は概ね分かった。対話で使えそうなアイテムは、スクリーン複数個と付箋。短時間で自分の思い通りに、自由に空間の設計ができるのは、とても便利だ。お借りしたスクリーンに英語版AIマップを映し出し、来訪者との対話に使おう。それにしても、このシステムでは、現実世界のように、まだ会ったことのない不特定多数の人たちと出会えるようだ。それに没入感があり、マイク越しでも、あたかも現実の世界で話をしているような感覚になる。まるで未来館の科学コミュニケーターが来館者の皆さんとお話しするかのようだ。本番が楽しみだ!

【シンポジウム1日目】

未来館の展示ブースに訪れる来訪者は予想よりも少なかったが、来てくださった方は英語版AIマップをじっくりご覧いただいていた。とても嬉しい。ただ、マイク越しで話しかけても、何故か反応が返ってこなかった。それも複数回...どうして!?

未来館の展示ブース"Miraikan: Perspectives on AI"にて
このアバター、立つ座るといった基本動作から、相槌や踊るといった動作まで選べるようになっている

あとで気づいたのだが、何らかの原因で自分の声が相手に聞こえていなかったようだ。話す前にマイク等の動作確認はすべきだった。

もし、マイクの不調に気づかずにいたら、展示ブースを訪れた方々と対話し、意見を集めること自体が難しくなる。それに私たちもほかのブースを見て回りたい。だったら、自分たちが展示ブースにいない間でも、英語版AIマップを自由に閲覧し、付箋に自由に意見を書き込んでもらえるように準備しよう。やるべきことはAIマップの説明ガイドの準備、そして意見書き込み用の付箋を予め壁に貼っておくこと。英語版AIマップで引用している市民の意見も付箋に書き込み貼っておけば、来訪者にも気軽に書き込んでもらえるかもしれない。

2日目】

AIマップの説明ガイドの作成や付箋を予め壁に貼るなどの工夫を行った。ただ1日目同様、来訪者が少ない。来てくださった方に話しかけても、話し相手から反応が返ってこないことがある。マイクの調子は大丈夫そうなのに...その来訪者はじっくりと英語版AIマップをご覧になりたいのか、オンラインで話すことに抵抗があるのか、それともアバターをAIマップの前に立たせたまま、本人はたまたま離席しているだけなのか...?仮想世界上では話している相手の本当の表情が読み取れず、不安な気持ちになる。そういえば、現実世界の未来館の展示フロアでは、来館者と対話する時、相手の表情や場の雰囲気から皆さんが何を感じているのかを伺っていたな。仮想世界が得意なこと、現実世界が得意なことがそれぞれある、ということを実感した1日だった。

未来館の展示ブース"Miraikan: Perspectives on AI"にて
一日目と違い、「スクリーンにAIマップの背景情報を映し出す」「マップの横に付箋を貼りだしておく」などを試してみる

それにしても、「恋愛」「医療」「防災」「死後」4つのカテゴリーを1枚の地図として見せると、初見の人にとっては情報が多くて混乱しそうだ。櫻井さんの提案通り、4つのカテゴリーをそれぞれ分けた地図を別途作成しよう。

3日目】

櫻井さんにカテゴリー別の英語版AIマップを別途作成してもらい、別のスクリーンに掲示した。感謝!展示ブースを訪れたら、カテゴリー別の英語版AIマップをご覧になっている方がいたし、AI開発のあり方に関する意見が記されている付箋もあった。昨日までの工夫が功を奏したのかもしれない。それに、私も櫻井さんもそれぞれ、来訪者と深い対話を行うこともできた!

未来館の展示ブース"Miraikan: Perspectives on AI"にて
3日目にして、ついに対話の様子が捉えられた(画像右奥の相手と櫻井の間に吹き出しがあるの、気づきましたか?)

ドイツやフランスという、日本と離れた場所にいる人とリアルタイムで対話をし、考え方を共有できるのは、素敵なことだ。こういう便利なツールが今後世の中に普及していくと、どんな未来が描けるのだろう?

4日目】

4日目終了。今まで、有意義な対話を行えた場面はあったけど、もっと多くのシンポジウム参加者の意見を聞いてみたい。どうすればいいかな...?(この時、付箋を宙に浮かべて遊んでいました)ん?天井を見上げると、宇宙空間に浮かぶ塵やガスが集まって太陽や惑星ができる様子に似ている...?そこから地球という多くの生き物が共有する惑星が生まれるように、AIに対する様々な意見や価値観が集まることで、より良いAI社会が作られると良いな...そうだ、付箋を宙に散りばめて、展示ブースをプラネタリウムのようなデザインに変更したら、意見を書き込んでみたいと思う来訪者が増え、より多くの意見が集まるのでは?残り1日、まだできることはあるはず。最後まで諦めずに挑戦しよう!

未来館の展示ブース"Miraikan: Perspectives on AI"にて
時差の関係で、夜遅くまで付箋の貼り付けを続ける渡邉

5日目】

この日は、展示ブースとは別に口頭発表の時間があり、AIに関する未来館の取り組みを発表した。聴衆の反応が直接見えないのは残念だけど、これを期にもっと多くの方が未来館の取り組みについて知っていただけると良いな。

口頭発表の会場にて
リアルと同じく、壇上にあがって発表する渡邉
頭上のスクリーンには、ここ数日間の努力の結晶である資料が映されている

その後展示ブースにいくと...昨日よりも多くの方が見に来てくださっている!それに付箋のコメントの数が結構増えている!これは、展示デザインの影響なのか、口頭発表の影響なのかはわからないけど、最後の最後で、ようやく日の目を見ることができた。

未来館の展示ブース"Miraikan: Perspectives on AI"にて
右横のスクリーンには、カテゴリー別の英語版AIマップを映し、床・天井には付箋を広げている

この5日間を通して、英語版AIマップに掲載されている市民の意見に対するコメントや、これからのAIと人間・社会の関係に関する考えについて、様々なコメントを頂けた。その中に、AIに関する議論はこのAIマップのように、もっと公の場に、世界に開かれるべきだというご意見もあった。光も影もあるAI技術を今後どのように発展させ、社会実装を行っていくべきか、市民を含む様々な立場の方々が集まって議論していくことが重要になってくるのかな。こういう対話の場をもっと増やし、これからのAI社会について考え、語り合う場が増えればいいな...

試行錯誤の末感じたバーチャルの可能性、リアルのありがたみ

いかがでしたでしょうか?会期中5日間の渡邉と櫻井の体験が伝わりましたでしょうか?この5日間を通して、AIに何らかの形で関わりを持つシンポジウムの参加者に対して、市民の価値観や感情を届け、さらにそれに対する貴重な意見をいただけたことは大きな収穫の一つでした。同時に、仮想世界の展示ブースで対話を行い、オンライン上でのコミュニケーションのあり方を考える機会があったことは、今後の科学コミュニケーションのあり方を考えていく上で有意義な体験でした。今回のシンポジウムのような仮想世界では、普段なかなか話すことのできない遠隔地の人たちと話すことができるようになり、さらにその空間設計も柔軟に、臨機応変に変えていくことができます。そして、現実のシンポジウムと同様、見知らぬ不特定多数の人たちと出会い、話ができることは大きなメリットだと思いました。

ただその反面、現実世界には、話し相手の表情や声、場の雰囲気を読み取り、臨機応変に話の流れを変えていくことができるという価値があることにも気づきました。例えば、未来館の展示フロアでは、科学コミュニケーターが科学の魅力を来館者に伝えようとしても、声や表情から共感を得られないと感じ取ったら、他の話題に切り替えることができます。それが、仮想世界上の場合、話し相手の感情を読み取る唯一の判断材料が声であり、臨機応変な対話がしづらいということです。私が未来館の展示フロアで多様な来館者の皆さんと科学に関するいろいろな話題が可能なのは、たくさんの方々と出会えるという未来館の環境、そして話し相手の様子を伺いながらface to faceのコミュニケーションが取れるという、現実世界の特徴に起因しているということに気づきました。(改めて、展示フロアという環境と来館者の皆様に感謝いたします!)

今回仮想世界上の展示ブースで来訪者と対話を行うことにより、仮想世界、そして現実世界それぞれの価値を再発見することができました。オンラインだからこそできること、現実世界だからこそできることの切り分けのヒントは、展示場だけではなく、皆さんの日常生活の中にも隠れているはずです。新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後、私たちの日常生活はどのように変わるのでしょうか。現実世界のほうが得意な部分があれば、元通りになる部分もあるかもしれませんし、オンラインに新しい価値が見いだせれば、新しいサービスなどが生まれるかもしれませんね。

より多くの方と対話を行い、科学の面白さを共有し、意見を集めてよりよい社会を創っていくためには、どのような環境が最も適しているのでしょうか。そしてそのためにオンラインに関係する技術を、場面に応じてどのように使い分けていけばいいのでしょうか。私はこの春に未来館を離れますが、これからも一介の科学コミュニケーターとして、新しい時代の科学コミュニケーションの方法を考えていきたいと思います。皆さんの生活の中でオンライン化が進んだらどんなメリットがあるのか、オンラインには変えられない価値はどこにあるのか、そしてどんな未来が描けるのか。未来館を訪れた際には、皆さん自身のご意見を後輩の科学コミュニケーターたちに、ぜひお聞かせください。

【脚注】

(※1)オンラインの国際シンポジウム「人間中心のAI:第2回仏独日シンポジウム」は海外の企業VirBELA, LLCが提供するプラットフォーム"Laval Virtual Green Center"上で実施されました。

【謝辞】

本イベントの企画の準備・運営にあたり、在日フランス大使館のMaximilien様、Barraud様、松本様、東京大学の江間先生、ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京 (DWIH Tokyo) Sofinowski様をはじめとするシンポジウム運営関係者の皆様にご支援をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。また、AIマップの作成にあたり、一般社団法人 人工知能学会の市瀬先生、植野先生、株式会社 ボウルグラフィックスの德間様、その他関係する皆様からご協力いただきました。改めて御礼申し上げます。そして、展示ブース"Miraikan: Perspectives on AI"にご来訪いただき、対話をしていただいた皆様のおかげで、AI社会に関する様々な意見を集めることができました。この場を借りて御礼申し上げます。



Author
執筆: 渡邉 吉康(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【2021年まで在籍】「第二の地球は存在する?」その答えを探すために、大学院では生命の住める惑星の条件について研究しました。そして研究やアウトリーチ活動を通して、様々な考え方を共有する重要性を感じました。様々な立場の人たちをつないで化学反応を起こし、科学技術と社会の発展に貢献したいと考え未来館へ。特技は外国語(英仏西伊)。国を問わず様々な人とお話ししたいです!