【 川上量生・学校法人角川ドワンゴ学園理事】「大事なのは1人でも多くの生徒を自立した社会人にすること」

2016年からオンライン授業を実施、今年のN高/S高の新入生は約7300人。卒業生は早慶始め東大、京大、海外の有名大学に進学、またフィギュアスケート日本代表の紀平梨花さんなど一芸に秀でた生徒も。参入以来、学校法人角川ドワンゴ学園が日本の教育界に与えたものとはーー。(聞き手・本誌 北川)


学校は実社会に出るための準備機関

 ─ ネット完結の高校創設でこだわったことは何ですか?

 川上 1つは、オンラインの教材でオンライン専用の最先端の仕組みを作ること。それと同時に、それに合わせた質の高いオリジナル教材を作ること。

 これが僕たちが最初に目指したことで、去年あたりから評価されてきたなと感じています。

 ─ 完成系に近いものができてきたということですか?

 川上 教材は1年目から充実していましたが、一部の人には届いても、世間一般には認知していただけなかった。それが去年、コロナで学校が休校したときに教材を無料で開放したところ、他の学校の先生方も含めて多くの方に使っていただき、「結構ちゃんと作っているな」という評価をこの1年でいただいたという感じですね。

 ─ 有名大学への進学者も増えていますね。

 川上 はい。ただ、これは、僕たちが無理やり出した数字ではないんです。20年度を見ると、東大をはじめとする国立大学への進学が37名、36の海外大学への進学者も出ています。

 僕たちが国立大学の実績を上げようと頑張ったわけではなくて、多様な進路を、生徒に後押しした結果として出た数字に過ぎないということです。進学だけでなく、いろんなジャンルで活躍する特徴的なN高生がいますので、そういう形にできたのは良かったなと思っています。

 ─ 開校当初から「高校を出た後の〝出口〟を作ることが重要」と言ってきました。

 川上 そうですね。

 教育って、生徒本位になると、生徒の気持ちに寄り添い過ぎて、「生徒が高校の中で幸せであることが重要で、ちゃんと見てあげることが大切」という風潮が多少なりともあると思います。

 僕らの考え方は違っていて、3年間、いい気持ちでN高にいられたとしても、卒業した後に、独り立ちできないとなると、高校としての責任を果たしたとはならないと思っています。

 歴史的に考えても、学校というのは実社会に出るための準備をする機関だと思っています。

 N高の場合は当初、不登校生が多かったのですが、不登校生に対して、学校が果たす社会的役割は何だろうと考えたら、公的扶助に頼らない生活を送れる、自立した社会人にすることが一番大事だろうと。

 不登校の子たちは部屋から出ず、20代、30代でもそれが続くと、その子の人生はおそらく公的扶助に頼る生活になってしまう。そういう潜在的な可能性のある生徒を1人でも自活できるようにすることが大事ということを基本的な方針にしています。

 普通の学校はかわいそうな子の面倒をすごく見るので、先生がその子1人を見ることで、他の10人、20人の生徒を見られなくなってしまう。10人、20人の犠牲のもとに面倒を見て、高校3年間は精神的に安定できても、卒業した後、自活できないのでは本末転倒ではないかと。

 それよりも、潜在的に公的扶助に頼らなければいけない生徒を、いかに普通に自立できる社会人にするか。それは純粋に数で考えるべきだと思っています。

 こういうことを数で語ると、教育界では非情なように思われてしまうのですが、僕はやっぱり数じゃないかと思うんです。

 一番かわいそうな子を助けるのが社会の公平性からいうと正しいと思いがちですが、僕は、確実に救えそうな多数派のボーダーラインの子たちをできる限り救う。それをまず優先する。数を救うというのが一番大事なんだということは、教員にも最初から何度も説明して、納得していただいています。

 ─ 数にこだわるというのも、角川ドワンゴ学園が教育に参入した意義とも言えますね。学校の役割分担としても、手厚く支援する学校とそうではない考えの学校があってもいいですね。

 川上 はい。例えば、授業料だけ考えたら、面倒みなくても、いてもらって授業料だけ払ってもらえればビジネス的にはプラスという考え方もあるのでしょうが、僕たちは、僕たちの掛けられるリソースで面倒を見られない子は基本的にお断りしようという方針なんです。

 なので、入ってから「思っていたのと違った」ということにならないよう、生徒に寄り添う、手厚くケアするといった言葉をHPやパンフレットに載せることを禁止しています。


寄り添うのではなく、自主性を重視

 ─ 引きこもりだった生徒も多いと思いますが、優秀な生徒も多く、表彰などもしているので、プレッシャーを感じる生徒はいませんか?

 川上 優秀な子がいる学校に通っていると思うだけで、あまり取柄のない子たちも「N高を卒業している」「N高に通っている」と言えるようになると思うんです。僕は、それってすごく大事なことだと思っています。

 というのは、通信制高校に通っているほとんどの生徒は、友だちに自分が通っている学校のことを言えないんです。

 今はまだ社会的偏見が存在している世の中ですから、「そうじゃない」ということをN高が世の中に見せることで、通信制高校に通う生徒が自分の通う学校を胸を張って言えるようになることが大事だと思っています。

 ─ 他の高校にはない取り組みとしては、直近、どんなことに力を入れていますか?

 川上 「研究部」というものを今年から始めます。これは、高校生のうちから論文を書いたり、関心のある研究を応援する仕組みです。

 これはN高の枠組みを超えて、全国の高校生でやろうと思っています。

 僕たちがやろうと思っているのは「単純な偏差値で輪切りされているのとは違う軸を作ろう」ということで、高校生のうちから、優秀な大学生や大学院生の人に教えてもらいながら、高校の範囲を超えた勉強をする機会を提供しようと。

 ─ どの学校に所属していても入部できる?

 川上 審査があります。僕らは力を入れている部活動は必ず審査をします。大勢で来られると面倒を見切れないという現実的な理由と、生徒が自分から選んだと自覚してもらうためです。

 参加すると言いながら来ない。また、そのことに何の責任も感じないという生徒ばかりになるのは良くないので、「本当にやりたい」という表明をしてもらって、それを信じられる生徒しか入れませんと。

 ドワンゴがIT企業なのでプログラミングコースに力を入れているんですが、そこの方針でもあるんです。

 プログラミングって、自分で作りたいものがある人でないと伸びない。受け身の生徒って伸びないんです。だから、僕たちはプログラミングコースに入りたいという生徒は面接しています。面接では知識は問わないけれど、「作りたいものはありますか? 」と聞いて、ない生徒は落としているんです。

 本人がやりたいと思うことが一番重要だと思っているので、むりやりやらせて寄り添おうとした瞬間に、受動的な態度になってしまい、本人のためにならないというのが、学校全体の考え方として存在します。


かわかみ・のぶお

1968年愛知県生まれ。91年京都大学工学部卒業後、ソフトウェアジャパン入社。
97年8月ドワンゴを設立、2000年会長に就任。2014年KADOKAWAとの経営統合を経て、
現在はKADOKAWA取締役、ドワンゴ顧問