【新しい教育のカタチ】角川ドワンゴ学園の卒業生が早慶始め東大、京大、海外の有名大学に続々入学

開校5年で日本一の高校に──。学校法人川ドワンゴ学園が設立した『N高等学校』が通信制高校の生徒数で国内1位に。卒業生は国内外の有名大学にも進学、フィギュアスケート日本代表の紀平梨花さんなど多様な人財を輩出して話題となっている。「引きこもりを自立できるようにする」という信念でスタートした学校が教育業界全体に影響を与える存在になっている。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako


偏差値30台から東大生まで

「普通の学校は偏差値で輪切りにされていますが、多種多様な生徒がいるのがN高の特徴。偏差値35くらいの子たちもたくさんいて、でもプログラミングが得意、スポーツが得意、起業をしたとか、偏差値以外の要素で強みを持っている生徒もいれば、強みのない生徒もいる。ある種、日本社会の縮図です。幼稚園からお受験している東大生が多い中、多様な社会を知っているN高の生徒が東大に入るということに、僕はすごく意味があると思っています」(川上量生・角川ドワンゴ学園理事)

 今年3月31日『N高』第3期生・4155名の卒業式が行われた。

 卒業生には東大、京大、早慶、英エジンバラ大、加トロント大など国内外の有名大学に進学する生徒もいれば、フィギュアスケート日本代表の紀平梨花さんなど一芸に秀でた生徒もいる。

 今年は新たに7304人の新入生が入学。

「将来やりたいことが決まっていないので、授業や部活を通して決めていきたい」という生徒や「12歳で起業して社長をしている。自分のやりたいことに集中したいと入学を決めた」生徒、「世界で活躍するプロサーファーを目指す」生徒など多様な人財が入学する。

『N高(N高等学校)』とは、学校法人角川ドワンゴ学園が2016年4月に開校したインターネットと通信制高校の制度を活用したネットの高校。

 15年10月に開催した会見で、川上氏は学校参入の思いを次のように語っている。

「引きこもりや不登校が社会問題になっているが、彼らが逃げているのはネットということも多い。『ニコ動(ニコニコ動画)』のユーザーだったり、角川のライトノベルに救われている人も多い。社会では落ちこぼれに見えても優れた能力を持っている人もいるだろうし、ネットの時代、彼らのほうが先端を行くかもしれない。コンピュータを使った最先端の教育を作り、大学進学、もしくは手に職をつけて就職できる学校を目指している」

 学校運営にはKADOKAWA グループの力を結集。参考書に強い中経出版が大学受験の教材を制作したり、N高の人気授業・プログラミングコースをドワンゴがサポート。またクリエイティブ人財を育成するバンタンを買収し、課外授業で専門スキルを身に付けられる環境を整備。

 角川のコンテンツ、ドワンゴの技術力、『ニコ動』のコミュニティづくりのノウハウを活かした〝ネット完結〟の高校としてスタートした。

 開校当時からレポートはネットで提出、生徒の声をリアルタイムで拾うシステムなど双方向性を活かしたオンライン授業を開始。コロナ禍の20年には、その教材を無料で開放。多くの人がN高の教材に触れる機会ができると、社会的評価が上がり、生徒数も拡大。

 開校時1482人でスタートしたN高は21年5月、1万8731人が通う生徒数日本一の通信制高校となっている。


職業体験、部活など課外授業を充実

「N高では他の学校では体験できないことを体験させてあげたい。職業体験で最初に打ち出したコンセプトも『リクナビに広告が出せず、消えゆこうとしているような伝統的な職業体験』。結局、生徒の人生を変えてなんぼだと思っている。生徒に届かない正しいことを言うよりも、限られた生徒でもいいので、人生を変えるきっかけを学校側が与えてあげたい。そう思ってカリキュラムを作っています」

 N高の授業は「ネット学習」「年5日程度のスクーリング」「テスト」で構成される。

 普通の高校よりも自由が多い分、職業体験や大学受験対策、プログラミングやWebデザイン、留学プログラムなど課外授業を豊富に用意している。

 また「起業部」や「投資部」「政治部」など部活動も充実。起業部からはすでに7つの法人が誕生。投資部では村上世彰氏、政治部では三浦瑠璃氏を特別顧問に招くなど力を入れる。

 だが、全ての生徒が意欲的なわけではない。

 クラスごとに担任の教師が付き、チャットツールのSlack でコミュニケーションを取っているが「担任の先生のクラスルームに、どれだけ生徒がコメントを返したか、数字を取っています。ネットを通じたコミュニケーションを活性化させていくかは毎年のテーマ」だ。

 また、コミュニケーションに参加しない生徒もいる。「学園生活は任意参加で強制するものではないので、面白いイベントや授業がありますよ、と生徒に紹介するところまでだと思っています。僕たちが最終的に担保するのは高校の卒業資格を取ること。単位認定が遅れている生徒に対しては電話を掛けるなどフォローしている」という。

 ネットの高校でもリアルの高校でも、どんな学校生活を送るかは生徒次第。また、高校の役目である「生徒を卒業させ、自立した社会人にすること」も変わらないというわけだ。

 だが、リアルの学校にどうしても劣るのが、身体的感覚がない中でコミュニケーション能力をどう身に付けるかということ。そこで、今年から教材に導入したのがVR。

 握手をしたり、肩を組んだり、キャッチボールをしたり、オンライン授業ではできなかった体験をできるようにする。

「通信制高校は、ITとネットを使った個別教育を提供する未来の教育のスタンダードだと思っている。だが、日本では既存の教育システムから外れてしまった人たちの学校というように、1段低く見られている。僕らは、むしろこれが学校の未来だと訴えて実践してきた」

 今年4月からは沖縄が拠点のN高に加え、筑波に拠点を置くS高もスタート。少子高齢化の中、規模を拡大させている。

 学校法人角川ドワンゴ学園は、N高、S高の他、ダブルスクールで通える『N中等部』、小1〜高3向けのプログラミング教室『N CodeLabo』を運営。

 また、ドワンゴでは受験アプリの『N 予備校』を提供。株式会社KADOKAWA の教育事業は「その他」事業に含まれるが、単年度ですでに黒字を達成。N高があることでバンタンのプロモーション費用を共通化できるなど、バンタンの収益向上にも寄与している。

 人財育成の重要性が言われながら、長年変わらなかった日本の教育。5年の実績を手に、名実ともに角川ドワンゴ学園が日本の教育を変えている。