米国国立電波天文台(NRAO)は4月21日、アルマ望遠鏡による観測で、太陽から最も近い約4.2光年の距離にある恒星「プロキシマ・ケンタウリ」(αケンタウリ星系に属する3番目の恒星)において、太陽で発生するものよりも100倍も強力な、これまで同星で観測された中で最大規模の巨大フレアを観測したと発表した。

  • プロキシマ・ケンタウリ

    2019年5月1日に多波長で観測されたプロキシマ・ケンタウリの巨大フレアの想像図。右は惑星のプロキシマ・ケンタウリb。約700万kmしか離れていないにも関わらず、巨大フレアが最低でも1日1回発生する環境は、生物にとって棲みやすいとはいえない (c) S. Dagnello, NRAO/AUI/NSF(出所:NRAO Webサイト)

同成果は、米・コロラド大学ボルダー校のメレディス・A・マクレガー氏らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

フレアは恒星の表面で磁気エネルギーが解放されることで起きる爆発と考えられている。太陽で大型のものが発生すれば、衛星軌道上の人工衛星や国際宇宙ステーションへの影響や、さらには地上の発電施設を破壊する危険性すらあり、宇宙天気予報において常に警戒されている現象である。

フレアの規模は、恒星のサイズに比例して大きくなるようなイメージがあるが、意外なことに太陽よりも小さくて暗い赤色矮星の方が、頻繁に起きていることが知られており、さらには巨大フレアも発生しやすいという。

プロキシマ・ケンタウリも赤色矮星の1つで、アルマ望遠鏡は2018年に初めて赤色矮星のフレアをミリ波で観測。そしてプロキシマ・ケンタウリのフレアをさらに詳しく調べるため、2019年4月から7月にかけて、地上と宇宙の9つの望遠鏡による一斉観測が合計40時間にわたって実施された。ミリ波以外の波長でフレアによって明るくなるかどうかは、これまではわかっていなかったという。

その一斉観測の期間中である5月1日に、アルマ望遠鏡、豪州の電波望遠鏡ASKAP、ハッブル宇宙望遠鏡(紫外線)、NASAの太陽系外惑星探索衛星TESS(可視光)、チリのデュポン望遠鏡(可視光)が、プロキシマ・ケンタウリで発生した巨大フレアを検出・観測。その継続時間は7秒ほどだったが、太陽以外の恒星のフレアがこれほどさまざまな波長で観測されたのはこのときが初めてだったという。

今回の巨大フレアは、まず紫外線で数秒のうちに1万4000倍も明るくなったことが判明。アルマ望遠鏡の扱うミリ波帯でも、通常の1000倍以上明るくなったという。複数の波長で同時にフレアを観測することに成功したことから、フレア発生時のプロキシマ・ケンタウリにおける表面の磁場の強さや、荷電粒子のエネルギー分布を見積もることもできたとする。

また、フレアで発生する紫外線とミリ波の関係がわかったことも重要な結果だったという。電磁波の波長において、ミリ波のような電波と紫外線は、間に赤外線と可視光線を挟んで離れた関係にある。しかし今回のフレア観測により、ミリ波から紫外線強度を推測できるようになったとした。この推測を行えるようになると、星の周囲の惑星に与える影響を見積もれるようになるという。

プロキシマ・ケンタウリについては、2016年にヨーロッパ南天文台(ESO)から惑星「プロキシマ・ケンタウリb」が回っていることが発表された。

  • プロキシマ・ケンタウリ

    巨大フレアの発生をプロキシマ・ケンタウリb側の視点で描いた想像図。11日で1周していれば、それだけフレアの直撃を受ける確率も高いものと思われる (c) S. Dagnello, NRAO/AUI/NSF(出所:NRAO Webサイト)

  • プロキシマ・ケンタウリ

    ESOが公開した、プロキシマ・ケンタウリbの地表の想像図。プロキシマ・ケンタウリは赤色矮星のため、日が当たっていても、ヒトの目には夕暮れのような常に赤く染まった世界に見えると思われる。この想像図には海洋や湖など、液体の水らしいものは描かれていないようだ (c) ESO/M. Kornmesser(出所:ESO Webサイト)

プロキシマ・ケンタウリbはプロキシマ・ケンタウリから平均して約700万km(太陽~地球間の約5%)の距離を公転しており、その1年はわずか11日。太陽系の感覚からすると、とてつもない近距離で主星を巡っている。地球型の岩石惑星とされ、質量は少なくとも1.3倍と推測されている。

  • プロキシマ・ケンタウリ

    ESOが公開した太陽系の水星の軌道と、プロキシマ・ケンタウリとプロキシマ・ケンタウリbの軌道の比較。プロキシマ・ケンタウリは赤色矮星のため、放射されるエネルギーも少なく、水が液体として存在できるハビタブルゾーンは、太陽系に比べると非常に小さく、プロキシマ・ケンタウリにあまりにも近い。フレアが発生しなくても、プロキシマ・ケンタウリbは常に紫外線や放射線などの強い影響を受けていると思われ、生物にとっては過酷な環境である可能性が高い (c) ESO/M. Kornmesser/G. Coleman(出所:ESO Webサイト)

しかし、プロキシマ・ケンタウリ自体が赤色矮星として小型のため、プロキシマ・ケンタウリbはハビタブルゾーン内にある。仮に、地球のようにある程度の厚さがある大気があれば、表面に液体の水が存在する可能性もあるとされる。わずか4.2光年と最も地球から近い地球型(と推測される)の系外惑星であることから、生命が存在するかどうか注目されている。

しかし、強い紫外線やX線、高エネルギー粒子などを放出するフレアは、惑星に大きな影響を与え、まして生命にとっては非常に厳しい。現在の太陽の場合は11年周期で活動が変化し、強力なフレアが発生する頻度は1周期に数回程度だ。穏やかといっていいだろう。しかも、1億5000万kmと離れている。

ところが、プロキシマ・ケンタウリの状況はまったく異なる。プロキシマ・ケンタウリbは最低でも1日に1回、多いときは1日に何度も巨大フレアを受けている可能性があるという。フレアがプロキシマ・ケンタウリの表面のどこで起きるかはわからないため、必ず直撃を受けるとは限らない。しかしフレアがあってもなくても、そもそも約700万kmというわずかな距離しかないため、プロキシマ・ケンタウリの発する紫外線やX線、放射線などは、容赦なくプロキシマ・ケンタウリbの表面に降り注いでいることだろう。そのような環境で生命が誕生できるのかはわからないが、もしいるとしたら紫外線などをしのぐために地下や海底などにいるものと考えられる。

国際共同研究チームの代表であるマクレガー氏も、もし生命がいたとしても地球の生命とはまったく異なる見た目をしていると思われるとしている。また、仮に人間がプロキシマ・ケンタウリbに行ったとしたら、あまりにも過酷な環境にひどい目に遭うだろうともコメントしている。

なお、なぜプロキシマ・ケンタウリのような赤色矮星が巨大フレアを発生させられるのか、そのメカニズムはまだ明らかになっておらず、今後も、プロキシマ・ケンタウリの観測を続けることで、その謎に迫ることが期待されると研究チームでは説明している。