アルファレコード元ディレクターとともに1980年代の作品を振り返る

日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2021年4月はアルファレコード特集。第2週は、2015年に行われたライブ「ALFA MUSIC LIVE」の音源を聴きながら、元アルファレコードのディレクター・プロデューサー、現在は株式会社シティレコードのプロデューサー有賀恒夫とともに、1980年代のアルファレコードの作品を振り返る。

田家秀樹(以下、田家)こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人、田家秀樹です。今流れているのは「WE BELIEVE IN MUSIC」。作詞が山上路夫さん、作曲が村井邦彦さんの新曲です。お聞きいただいているのは、2015年9月27、28日に渋谷Bunkamuraオーチャードホールで行われたライブ音源です。このライブのために書き下ろされた曲でした。歌っているのは小坂忠さん、小坂さんの娘・Asiahさん、ギタリスト大村憲司さんの息子・大村真司さん、ドラマー林立夫さんの息子・林一樹さん、村井邦彦さん、そして先日亡くなった村上"ポンタ"秀一さんです。今月の前テーマはこの曲です。

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WE BELIEVE IN MUSIC / 小坂忠、Asiah、他

今月2021年4月はアルファミュージック特集。当時24歳だった若手作曲家・村井邦彦さんが1969年に設立した音楽出版社アルファミュージック。新しい日本のポップミュージックの流れを作った会社です。1977年にはレコード会社アルファレコードも発足、そこからはサーカス、YMO、カシオペア、シーナ&ザ・ロケッツなども羽ばたいていきました。お聞きいただいている「ALFA MUSIC LIVE」は、村井さんが70歳を迎えた2015年に行われたライブでアルファゆかりのミュージシャンが大集結。夢の一夜を繰り広げました。



タイトルの「WE BELIEVE IN MUSIC」は、アルファが設立された時のスローガン。今年の3月にこのライブの映像作品が発売されたんです。今月はそのライブ音源を振り返りながら、アルファレコードの功績を振り返っていこうという1ヶ月であります。先週と今週のゲストは、元アルファレコードのディレクター・プロデューサー、現在は株式会社シティレコードのプロデューサー有賀恒夫さん。鬼の有賀と呼ばれた伝説のディレクターです、こんばんは。

有賀恒夫(以下、有賀):こんばんは。鬼じゃないですけども、優しい有賀です(笑)。

田家:今もこういうお仕事をされているんですよね?

有賀:今はあまり日本でやっていなくて、今はニューヨークが拠点で企画ものの制作をしています。

田家:シティレコードはそのレコード会社の名前ですよね?

有賀:はい、ニューヨークにも設立した現地法人がありまして、ジャズ・シティ・プロダクションというんですけど。

田家:ジャズに特化されている?

有賀:そうですね、所属しているミュージシャンはジャズですね。企画ものだと、映画音楽をニューヨークのピアニストにソロで弾いてもらうとか。そのシリーズは200曲くらいありますね。

田家:そこでは鬼と呼ばれていないわけですね(笑)。そういう今のニューヨークのシーンをご覧になっている方が、2015年の「ALFA MUSIC LIVE」をご覧になってあの時代への感慨みたいなものも感じましたか?

有賀:参加していた人は1980年代に活躍していた方々で、懐かしいですよね。でも音楽的には懐かしいじゃなくて、今も生きているものだと思うので。当時の偉大さが再び認識できました。

田家:今週は3月に発売になったライブ映像『ALFA MUSIC LIVE』のDisc2、1980年代編です。有賀さんに選んでいただいた今週の一曲目「あの頃のまま」。

あの頃のまま / ブレッド&バター

田家:1979年6月に発売になったブレッド&バターの「あの頃のまま」。コロンビアからアルファに移籍してきた一作目。作詞作曲がユーミンで、アルバム『Late Late Summer』と同時発売でした。この曲を選ばれたのは?

有賀:私のところにブレッド&バターを紹介した人がいて、最初にシングル曲を決めないといけないということでユーミンに頼んで。会議室で、どの曲がシングルにいいか決めるわけです。彼らは自分たちの曲が一番いいと思っているわけで、僕は結構俯瞰で見ていて「あの頃のまま」がいいと。作詞作曲はユーミンですから、実は歌うのは難しいんじゃないかなと思ってたんです。先週、ユーミンの曲には一回も文句を言ったことがないと話したんですが、この曲については文句があったんですね。歌詞の内容が、学校を卒業して会社員になったけれど、相変わらずサーファーのままでいたいという男の人の話だったんです。サーファーのままでいたい男が、会社員になった人を羨ましい、と思う表現が歌詞にあった。それは違うと思った。君の生き方も素晴らしいんだけど僕の生き方も素晴らしいんだ、という内容にしてくれないかとユーミンに言って。彼女はしばらく考えて、明くる日に出来てきたのが素晴らしい作品になっていたんですね。

田家:なるほど、サラリーマンになれないからサーファーをやってるわけじゃないんだ、という曲になった。それはディレクターの一言が名作を生んだというエピソードですね。お聴きいただいたのは、3月に発売になったライブ映像『ALFA MUSIC LIVE』から、ブレッド&バターの「あの頃のまま」でした。この後は彼らのMCを聴いていただきます。

ブレッド&バターステージMC

田家:有賀さんにありがとうと言っておりましたね。

有賀:恐れ入っちゃいますけど(笑)。

田家:本当にこういうやりとりがあったんですか?

有賀:そうですね。特にブレッド&バターの楽曲は、大体一番最初に僕に持ってきて聴かせるわけです。ここが良くないと指摘すると、それでまた作り直してきたり。大サビがいるんじゃないの? ってアドバイスした曲は、結局僕が作っちゃったりして(笑)。結局プロデュースってどうなっているかというと、アーティストの一番いいところをまず引き出すというのがありますね。でも、それだけじゃなくて、自分の持ってる感性とブレンドしちゃうんです。ブレンドして別のものを作るという感じです。ブレッド&バターは特にそういうのが多くて。つまり、手作りで楽曲として完成させるまでに何回かのやりとりがあって。それで、楽曲が完成すると、山上路夫さんに聴いてもらって、こうしたいんだと伝えて生まれる作品が多かったですね。特にこの海三部作と言われているのは、湘南というカラーにしようと思ったんです。湘南というカラーにすると、恋の歌でも食事してる歌でも全部ブレッド&バターのカラーになる。そういうところを考えて作っていきましたね。

田家:湘南、海というのは一つのプロデュースの柱になっていた。そういうコンセプトが生まれなかったら、アルバムも生まれなかったですしょうし。ブレッド&バターはもう一曲歌われているんですが、いま有賀さんがお話したように、作詞が山上路夫さんです。「MONDAY MORNING」。

MONDAY MORNING / ブレッド&バター

田家:1980年6月に発売になった2枚目のアルバムのタイトル曲でした。この作り込み方は、ブレッド&バターの中でもかなりスケールの大きな曲になっていますね。アルバムの演奏はパラシュート。当時のスーパーバンドの一つですよね。ブレッド&バターにこういう演奏力がある人たちが加わることによって、違うところに行けるんじゃないかと思われたということだったんでしょうね。

有賀:バンドの選定はメンバーから出たのかもしれないですね。忘れちゃった。なんでもよければいいんです(笑)。

田家:さっき岩沢さんが「出入り禁止」というお話がありましたが、これは険悪な感じだったんですか?

有賀:険悪ではないんですけど、最初に『Late Late Summer』というアルバムを作る前の会議は険悪だった気がしますね。レコーディングが進んでいくうちに、僕をプロデューサーとして認めてくるんですよ。例えば彼らがやったことないハーモニーを僕がアレンジで加えたり、譜面でCって書いてあると普通はドミソの和音を付けるんですけど、僕はミソシレを付けるんです。これは−1と言って一度を抜かして、代わりに9thを加えるんですね。こういうジャズ手法のハーモニーを彼らはやったことがなかったし、譜面も読まなかったので。僕がピアノを弾きながら旋律を口伝いに伝えて、彼らが覚えて二人一緒にレコーディングするんです。彼らは自分たちがどういうサウンドになるのか分からない。それでも、レコーディングが終わってミックスするとすごいサウンドが耳に届くわけで。それで、僕にやらせてみようと思ったんじゃないかな。

田家:なるほど。「MONDAY MORNING」はその成果みたいな曲ですね。

有賀:そうですね、アルバムのレコーディングが終わる頃には僕がプロデューサーになってましたね。今は僕のことを認めてくれたから、すごくいい関係です。彼らのライブに僕もサックスで出演しちゃったりして。

田家:ありがとう、という結果がそこに表れていますね。続いて、有賀さんが選ばれた3曲目、日向大介 with encounter「Hot Beach」。

Hot Beach / 日向大介 with encounter

田家:日向さんはバークレー音楽院に在学中にYMOに影響されて、1982年にアルファレコード内の細野晴臣さんの¥ENレーベルでテクノバンドInteriorsとしてデビュー、グラミー賞のニューエイジ部門にもノミネートされた。有賀さんがこの曲を選ばれたのは?

有賀:普通じゃないんですよね。コード的に構成がしっかりして、A,B,Cメロとかなくて発展しないけど気持ちいいんです。それは素晴らしいなと思って。本当に大好きでした。シンセサイザーの音色や多彩さなどとても上手ですし。

田家:¥ENレーベルというのは、有賀さんがおやりになっていたのとは違うセクションだったんですか?

有賀:全然違っていて。すごくアイデンティティがあっていいんですよね。僕にはできない音楽を作っているとすばらしいと思ってました。

プレゼンターMC(荒井由実)

田家:荒井由実時代の作品は有賀さんがお作りになりました。今のMCでもスタジオの話が出てましたけど、アルファスタジオというのは必ず話に出てきますね。

有賀:村井さんが作ったスタジオなんですけど、当時のスタジオは吸音材でスタジオの共鳴を極端に抑えたものが多かったんです。でも、アルファスタジオは、スタジオ自体が楽器として鳴るようなものがいいんじゃないかということで、それまでの設計図をやり直してある程度中でストラディバリウスのような共鳴を出すんだと村井さんが言っていました。

田家:アルファスタジオは色々な方が使ったんでしょうけど、YMOみたいな人たちはスタジオの使い方が普通じゃなかっただろうし……。

有賀:時間食いますからね。最初はスタジオAでやってたんですけど、時間を食って他の制作ができなくなることがあったので。じゃあ気の済むまでできるLDKを備えたスタジオを作って、YMOが常駐すると。

田家:YMO専用スタジオになっていたんですね。YMOの初期の頃やアルファでやるようになった頃のことはどう思ってますか? 海外志向が強かったですよね。

有賀:僕にとって彼らのやっていることは全然違いましたからね。なので、YMOとか他のグループの人と僕はあまり接点がないんですよ。でも、出てくる作品は素晴らしいと思っていました。

田家:なるほど。村井さんが日本の音楽を海外に通用させたいということはご存知だったんですよね?

有賀:そうです。海外にあるような音楽だと、海外に出ていく時に頭打ちになっちゃうじゃないですか。なので、全然違うものを作ろうと思っていたと思いますよ。

田家:「ALFA MUSIC LIVE」というのは村井さんの古希を祝ってミュージシャンが集まったライブでもありました。次にお聴きいただく曲は村井さんが参加した最初で最後のYMOでしょう。村井さんは、参加の理由も語っていますので、MCからお聴きください、「RYDEEN」。

RYDEEN / YMO, 村井邦彦

田家:ミュージシャンは武部聡志さん、鳥山雄司さん、大村真司さんなどが加わっております。村井さんはアレンジもご自身でされていて、ピアノも弾かれる作曲家・ミュージシャンの村井邦彦の面目躍如という感じですね。この曲はどうお感じになりました?

有賀:面白いですね。元々の「RYDEEN」もいいんですけど、このコードチェンジもいいと思いました。

田家:ご自分で音楽を作れる、弾ける方だったからアルファもできたということなんでしょうか?

有賀:普通のレコード会社と一番違うところはそこですよね。社長がミュージシャン、作曲家。素晴らしい人だから、ああいうプロダクツができたんだと思います。普通の会社員の社長じゃ、ユーミンが売れるまでに3枚はかかるでしょうしね。こういう採算の取り方は普通のレコード会社じゃできないですね。最初がダメだったら、2枚目までは我慢するけどそこで終わってたでしょうし。

田家:さっきユーミンが、YMOはアルファを世界に羽ばたかせた。でも、幕を閉じることになってしまった、と言っていました。

有賀:ただ、YMOが閉じさせたわけではないんですよ。アルファアメリカという会社を作ったんだけど、起用したプロデューサーにお金がかかったとか、作ってたものが思っていたよりも売れないとか色々原因があって採算を崩して、本家のアルファレコードも滅亡したわけです。YMOが潰したわけじゃないんですね。

田家:それはちゃんと言っておかないといけないですね。有賀さんの中でアルファの最後のシーンというのはどんなシーンですか?

有賀:そうですね。僕は先にアルファを退社したんですけど、その後に村井さんがお辞めになって。その時のスピーチはスタジオAで行われて、僕は社員じゃなかったんですけどスピーチを聞きに行ったんです。こういうわけで会社を閉めるということになったとスピーチして。

田家:それはどんな雰囲気だったんですか?

有賀:なんか悲しかった……。

田家:そうですよね。有賀さんには先週と今週ゲストに参加いただきましたが、最後はこの曲「翼をください」です。

翼をください / Asiah、大村真司、林一樹、村井邦彦 他

田家:作詞・山上路夫、作曲・村井邦彦。オリジナルを歌ったのは赤い鳥。お聴きいただいたのは、小坂忠さん、小坂さんの娘・Asiahさん、ギタリスト大村憲司さんの息子・大村真司さん、ドラマー林立夫さんの息子・林一樹さん、村井邦彦さん、紙風船。そして先日亡くなった村上"ポンタ"秀一さんが演奏されていました。赤い鳥はプロになるのを渋っていましたが、村井さんがロンドンまで出向いて「プロにならないか」ということで始まりました。上京してきた赤い鳥のファミリーには、村上"ポンタ"秀一さんや瀬尾一三さんもいました。さて、アルファミュージックが残したものってなんだったんでしょうね?

有賀:今回は出てこなかったんですけど、ハイ・ファイ・セットの山本潤子さんはアルファにものすごく貢献した方です。それで、旦那の山本俊彦さんが亡くなってから潤ちゃんはしばらく声が出なくなっちゃったものですから。残念ながら、このパーティには参加していませんけども。ハイ・ファイ・セットがここで語られていないのが残念ですね。いっぱいいい曲があるんですけど。

田家:有賀さんはもし村井さんにお会いになっていなければ、今のようにニューヨークで音楽を作ったりしていなかったですか?

有賀:そうですね。やはり、彼から得た部分は多いんでしょうね。僕が何も知らないところからプロデュースを始められたのも彼のおかげですし、僕もアルファの仕事ができるようになってからは少しは役に立てたんじゃないかと思います。教えてもらったことは大きいですね。ですから、今のプロデュースの仕事ができるようになったと思います。

田家:有賀さんに、ありがとうと言う人がたくさんいますね。ありがとうございました。

有賀:ありがとうございました。


有賀恒夫(左)と田家秀樹(右)




田家:FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」アルファミュージック特集Part2。日本のポップミュージックの流れを変えた音楽制作会社アルファミュージックの特集。2015年のライブ「ALFA MUSIC LIVE」の映像作品が今年3月に発売されました。この映像の音源を使いながらの特集です。ゲストには、元アルファレコードのディレクター・プロデューサー、現在はニューヨークに拠点を置く株式会社シティレコードのプロデューサー有賀恒夫さんをゲストにお送りしました。流れているのは、この番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。

この「ALFA MUSIC LIVE」は日本のトリビュートライブの中でも、屈指の演出、精神、物語が綴られているライブでした。音楽ビジネスが1970年代から発展していく中で、音楽出版やレーベルというシステムが生まれてきたわけです。有賀さんも仰っていましたが、日本のそれまでのほとんどのレコード会社には親会社があって、社長は銀行から来ている人だったりして、音楽好きな人が偉くなれないのが慣習でもあった。でも、アルファミュージックは村井邦彦さんという作曲家が作った会社だったんです。出版社やレーベル、レコード会社と規模が大きくなって形も変わってYMOまで来た。一貫していたのは、洋楽と肩を並べる音楽を日本でも作りたいと。これは1970年代からミュージシャンがずっと思っていたことでしょうけど、企業として形にしていったのはアルファがパイオニアだったと思います。その中心には村井邦彦さんがいた。来週と再来週は村井さんご本人の話が聞けます。彼は今ロサンゼルスに住んでいるのですが、リモートでお話を聞けることになりました。村井さんがどんな方で、どんな夢と理想を持っておられたのかということを楽しみにしながらインタビューを迎えたいと思います。



<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
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