私たちは年齢や性別はもちろん、得意なことや苦手なこと、好きなこと、嫌いなこと……人それぞれ違っています。違っているのは困る? いいえ、むしろ一人ひとりが多様に違っているからこそ、この社会は面白いのではないでしょうか。

そんな“ちがい”を科学や技術の側からみてみたら、これまで気づかなかった視点が得られるのではないか――そう考えて、未来館では2020年12月の障害者週間に合わせて、“ちがい”や“障害”に触れ、楽しみ、考えるイベントを開催しました。

耳の聞こえる方も聞こえない方も一緒に楽しめるデバイスを使った展示体験や、ハプティック(触覚)を活用した特別支援学校での授業を紹介する展示など、期間中に展開したさまざまなコンテンツの中から、2つの展示コーナーをご紹介します。

展示風景

“ちがい”に思いをめぐらせる

会場では“障害”という言葉について2つの問いを投げかけて、来場者が付せんに自分の考えを書いて貼るコーナーを作りました。

1.“障害”と聞いて、まずどんな“障害”が思い浮かびますか?
2.“障害”のない社会に必要だと思うものは何ですか?

一枚ずつ“ちがう”手書きの文字。絵で示しているものもありました。どんな人が書いたんだろう? と想像するのも楽しいのが、この方法のいいところです。

来館者からいただいた意見の一部

1つ目の問いに対する答えはバラエティ豊かなものでした。視覚障害、聴覚障害、コミュニケーション障害などの具体的なものから、「ヘルプマーク」、「ひと工夫しないといけない状態のこと」、「どうして『害』なんだろう?と思っていました」という疑問まで。「障害」というたった2文字から、一人ひとりがさまざまな状況に思いを巡らせた様子がうかがえます。

2つ目の問いに対する答えで多かったのは、「知識」や「思いやり」、「助け合い」という言葉。印象に残ったユニークな回答に、「お金」、「障害の考え方をリフレーミングする力」、「それを当たり前にするまでの時間と努力」、「他人の当たり前と自分の当たり前を埋めること」というものがありました。

確かにお金がなければエレベーターやスロープなどのインフラも整備できないし、研究や技術開発も進みません。もちろんお金さえあれば前に進むわけではありませんが、それでも「どれだけのお金をかけていいと思うか」は、読みかえると、「どれだけ現状を変えていきたいと思っているか」と聞かれているように感じ、とハッとさせられました。

「障害の考え方のリフレーミング」も「当たり前を問うこと」も、“障害者”や“健常者”などの言葉について、知らず知らずのうちに凝り固まっている私たちの考え方を客観的に見つめ直す重要性を、違う言葉で伝えてくれているように感じました。

そして、時間と努力。当たり前ですが、明日急に障害がない社会がやってくることはありません。それでも人類の努力により、人の意識も科学技術も進化して、昔の常識が変わることもあります。今を生きる私たちの世代では解決できないことも、あきらめず、時間をかけて、努力し続けることが必要なのでしょう。


“ちがう”世界にふれる

障害について知る方法は色々とありますが、ここでは“ちがう”世界を気軽にのぞいてもらえるように書籍コーナーを作りました。科学コミュニケーターが自由な発想で障害を捉えたおススメの6冊です。推薦コメントとともに紹介しましょう。


『ガチガチの世界をゆるめる』澤田智洋

足が速い、力が強い、ボールのコントロールがうまい――どれも持ち合わせていない「スポーツ弱者」なら、ガチガチに固定されたスポーツのルールを変えればいい。こうして「ゆるスポーツ」を生み出した筆者が贈る、生きやすさのヒントとなる一冊です。大嫌いだったスポーツは、いまや筆者の活動の主軸に。あなたなら、どんなガチガチを、どんなルールでゆるめる?

(科学コミュニケーター 田中沙紀子)


『コーダの世界 手話の文化と声の文化』澁谷智子

あなたが幼いころに自然と身につけた言語はなんですか? 耳の聞こえない親を持つ子ども「コーダ(CODA:Children Of Deaf Adults)」の中には、この質問に「手話」と答える人がいます。それは、単なる日本語の代わりではありません。手話だから表せるものがあり、手話を使う人たちの常識や文化がある――そんな手話の文化を、コーダへのインタビューを通して描き出した一冊です。

(科学コミュニケーター 田中沙紀子)


『五体不満足 完全版』乙武洋匡

常に誰かがバズッてる今、改めてオススメしたい一冊。障害者のイメージを前向きに書き換えたベストセラーに、その本に影響を受けた社会によって大変な目にあう筆者の後日譚が追記されたのがこの「完全版」。最初から読めば、障害と障害者に対するイメージが変わるかも。追記まで読めば、偏見が上書きされただけで、また別の偏見を抱いている自分に気付くかも。

(科学コミュニケーター 山本朋範)


『さわる絵本 これ、なぁに?』バージニア・アレン・イエンセン/ドーカス・ウッドバリー・ハラー

目の見える人も見えない人も、さわって一緒に楽しめる絵本。ザラザラ、ポツポツ、バラバラなど、触感の個性をもったキャラクターが登場します。コロナ禍で接触を控えるようになった今だから、改めてさわることの奥深さや大切さを考えさせられるかも。さぁ、忘れかけていた指先の感覚をいっぱいに使って、さわって感じる世界をお楽しみください!

(科学コミュニケーター 川﨑文資)


『発達障害当事者研究―ゆっくりていねいにつながりたい』綾屋 紗月/熊谷 晋一郎

「自分のお腹が空いているかわからない」といった不思議な記述が次々に現れる一冊。読んでいると、逆に「わかる」側の多数派も不思議な存在に思えてきます。不思議な少数派の当事者が、不思議な多数派とのミスマッチを研究し、合わせようと奮闘する詳細な記録。筆者の事情が想像しやすくなると同時に、合わせてもらう一方でいいのかと悩みが深まったりもします。

(科学コミュニケーター 山本朋範)


『みえるとか みえないとか』ヨシタケシンスケ/伊藤亜紗

自分やみんなの“ふつう”を捉え直すきっかけになる絵本。子どもも大人も一緒に楽しめます。目が3つあることがふつうの星に降り立った主人公。目が2つの人は、その星では後ろが見えないかわいそうな人のようです。もし、〇〇がふつうなら、どんな世界だろう? と想像して、考えたくなります。そこにどんな発見やちがい、共感、分り合えなさがあるでしょうか?

(科学コミュニケーター 川﨑文資)

科学コミュニケーターおススメの書籍

『コーダの世界』を手にとった来館者の方は、「最近、友人の子が難聴ということを知ったので、この本とは立場が違うけど興味があるので読んでみます」と言われていました。私も読みましたが、これまで知らなかった“ちがう世界”に触れるきっかけとして、おすすめの一冊です。みなさんもぜひ、お手に取ってみてください。


さて、駆け足でご紹介した未来館の障害者週間。「ちがうっておもしろい!」というメッセージを感じていただけたでしょうか?

周囲に障害のある方がいなくても、私たちにある“ちがい”や“障害”に触れ、楽しみ、考えることができるきっかけは意外と身近なところにあるかもしれません。

私たち未来館では、日々いろいろな“ちがい”を発見し、さまざまなことに思いを巡らせながら2021年の障害者週間にどんなイベントをするか企画中です。内容が決まったら未来館HPでお知らせしますので、楽しみにお待ちください。

関連リンク

  • ちがうっておもしろい!~未来館の障害者週間2020


Author
執筆: 三ツ橋 知沙(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
「食糧問題の解決に貢献できる研究に携わりたい」と、大学では植物分子生物学を専攻。世界を見るたくさんの物差しのなかに科学も仲間入りするためにはどうしたらいいか? 試行錯誤を続けています。