モビリティ時代の“らしさ”づくり なぜソニーがEV開発なのか?

新たな感動体験をもたらす

 3月28日、小雨交じりの東京・二子玉川。駅前で電気自動車(EV)の無料展示会が行われた。米テスラや独ポルシェ、日産自動車など、各国の自動車メーカーが最新のEVを披露する中で注目されたのが、ソニーが開発中のEV『VISION-S』。

 同社がEVを一般展示するのは初めて。車の横には開発中のドローン『Airpeak』やロボット犬『aibo』も展示。この日は日曜日ということもあってか、子供連れのファミリー層を中心に多くの人でにぎわっていた。

「ソニーグループが目指すものは、新たな感動体験をもたらすモビリティの世界を実現すること。クルマの進化への貢献を目的として、安心・安全、快適さ、その先にあるエンタテインメントなどを追求する目的で、VISION-Sという取り組みを推進している」(ソニー関係者)

 世界中でEVの開発が進む中、昨年1月、米ラスベガスで行われたITと家電の見本市『CES 2020』でEVの開発を表明したソニー。

 ソニー社長兼CEO(最高経営責任者)の吉田憲一郎氏(肩書は当時、現在はソニーグループ会長兼社長CEO)が「過去十年の間、スマートフォンをはじめとするモバイルが私たちの生活を根本から変えたと言っても過言ではないが、次のメガトレンドはモビリティだと信じている」と語り、世間を驚かせた。

 現在、開発中の車には、車内外の人やモノを検知し、高度な運転支援を実現するための車載向けCMOS(相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサーなど、40個のセンサーを配置。

 各シートにスピーカーを内蔵し、360度サラウンドで没入感のある立体的な音場を実現する音響機器もあり、シート前方にあるスクリーンから車内で様々なエンタテインメントコンテンツを楽しむことができる。これまで家電製品やスマートフォンなどで培ってきた技術を集約した同社ならではのEVだ。

 同社は今後、自動車分野でも最先端の技術を組み合わせ、”安心・安全”で新たな感動をもたらす車内エンタテインメントの実現を目指そうとしている。

「近年、変化が著しい自動車・モビリティ業界で表現されるCASE(つながる車、自動運転、シェアリング、電動化)分野では、これまでソニーが培ってきた通信(C)・センシング(A)・AI(人工知能)・IT技術(C・A・S)などとの親和性が高いと考えており、安心・安全による快適さとエンタテインメントのさらなる進化を目指したモビリティへの貢献に寄与できると考えている」(同)


”ソニーらしさ”を発揮することはできるか

 世界中でEVの開発が進む自動車業界。日本政府も2030年代半ばまでに全ての新車販売をEVや燃料電池車(FCV)などの電動車に切り換える方針を打ち出し、地球温暖化防止の観点から今後、従来のガソリン車は急速に縮小することが予想される。

 そのため、近年は既存の自動車メーカーだけでなく、異業種も参入。先日、石油元売り大手の出光興産がEVの開発に乗り出すとして話題になった他、米アップルや中国バイドゥ(百度)などIT企業も意欲を示しているという。

 こうした異業種が入り乱れたEV開発の流れの中にあるソニー。すでに昨年12月から技術検証のための公道走行をオーストリアで開始。同社は、あくまでもEVの開発は”将来のコンセプトを示すもの”として、市販する予定はないとしている。ただ、周囲では「いつか量産・市販するのではないか」との観測は尽きない。

「現時点で車両の一般販売の予定はないが、ソニーグループの有する要素技術を最適に組み合わせ、ソリューションビジネスに貢献することを目指している。その過程において、車両製作と共に開発・設計を進めていくことで、自動車への理解度をさらに向上させ、業界各社との連携を深めていくことが重要」(同)

 今から75年前の1946年に東京通信工業として設立されたソニー。今年4月からは社名を「ソニーグループ」へと変更し、新たな船出を果たした。

 産業構造が大きく変わろうとしている中での、ソニーのEV開発。いつの時代も独自性・独創性が求められる同社にあって、車づくりでも”ソニーらしさ”を発揮することはできるか。