日本病院会・相澤孝夫会長が語る”なぜ「松本モデル」が成功したか?”

≪このインタビューは3月11日に開催≫

医療逼迫と言われるが、「しっかりとしたデータに基づいた議論が必要だ」と警鐘を鳴らすのは日本病院会会長で長野県松本市にある相澤病院の最高経営責任者・相澤孝夫氏だ。例えば、コロナの重症化率も低いことが判明しており、それに基づいた医療体制が求められる。同氏は3市5村で形成する「松本モデル」について「普段から連携を進めてきた」と語る。相澤氏が語る公立病院と民間病院の連携の姿とは?

重症化リスクが低下

 ─ 病院の持続的な発展を目指す中で、足元の医療現場をどう見ていますか。

 相澤 日々、コロナウイルスに対する様々なデータが出てきているのですが、最初の頃のデータと今のデータは随分違ってきています。例えば、重症化する人の割合を見てみると、昨年1月から4月の間は9・8%と言われていましたが、6月から8月のデータでは1・62%しかありません。それだけ重症化リスクが低いということです。

 重症化した患者さんは集中治療室に入って人工呼吸器で治療を受けますが、その重症化率が1割と思われていたのが、現実には1・
62%しかいないと。そうすると、必要なベッド数も変わってきますね。毎日何人の方が新たに感染し、そのうちの何人の方が重症化するかと考えた場合、毎日1千人いたとしても重症化した患者さんは16・2人という計算です。

 そして重症化した患者さんの治療には15日くらいかかると言われていますので、16・2人×15日というのが必要なベッド数になります。ですから、感染者数が1千人から減って500人になれば、ベッドはその半分で済みますし、もっと減って100人になれば、1千人のときの10分の1になるわけです。

 したがって、細かい数字をたくさん公表するよりも、新規の感染者数を減らすことが重要になります。感染者数を減らすことができれば、当然、医療現場の逼迫もなくなります。また、治療法が改善して重症でいる期間が短くなれば、重症者のベッドはもっと少なくて済みます。

 ただし、これは大雑把な計算で、年齢によって重症化の比率が異なりますから、どういう年齢の方が1日平均何人いらっしゃるかによって必要なベッド数も変わってきます。例えば90歳以上の人の重症化率は16・64%。ですから、90歳以上の方が毎日どれくらい新規の感染者になっているかによっても、90歳以上の方に必要な重症ベッド数も決まってくるわけです。

 こういう計算を積み重ねていくと共に、治療法の進歩や国民の努力によって随分今は新規の感染者数が減ってきていますので、多分医療現場の逼迫というのは、相当和らいでいるというふうに思います。ベッド数を計算することによって、すぐに予測がつくということです。



 ─ それでも医療現場の逼迫が情報として数多く発信されているのはどうしてですか。

 相澤 政府の発信が一つですね。逼迫度も重症者の方に用意したベッド数のうちの何%が埋まっているかが、逼迫しているかどうかの判断の一つの基準になっています。その意味でいくと、何をもってそう判断するのかがよく分かりません。

 というのも、患者さんも重症化のベッドにずっと留まっているわけではありません。状態が落ち着けば中等症のベッドに移されますし、検査で陰性になったりすれば、一般病棟にも移されます。その患者さんにとって一番適切な治療あるいは療養を受けられる場所に移動していけばいいのですが、その移動がうまくいかないと詰まってしまう。

 ─ どうやってそのミスマッチを解消すべきですか。

 相澤 今では患者さんの治療データはレセプト(保険者に請求する診療報酬明細書)を見れば、その日に何をやったか分かる仕組みになっています。入院して10日目で何をやっているか患者さんごとに分かるのです。

 例えば、呼吸器管理をやめれば、呼吸器管理の項目がなくなりますので、その患者さんは呼吸器が外れたと分かる。そういう人たちが重症者のベッドにいるとすれば、他のベッドに移してもいいのではないかという判断ができます。そういう患者さんが何割かはいらっしゃったと。

 ─ 救急車の搬送先がないという問題がありましたが。

 相澤 搬送先が見つからないという問題はコロナ以前からありました。例えば脳卒中やくも膜下出血で重体の病気になっても、受け入れ先が見つからず、十何番目の病院でようやく引き受けてくれるということは普段から起こっていたのです。ですから、感染症だから起こったわけではなく、普段から円滑な仕組みが構築されていなかったと。

 目先の物事について感情的になってしまうのではなく、しっかりとしたデータに基づいて物事をきちんと見ていかなければいけない。なぜうまくいってなかったのか。もともと連絡・調整がうまくいかないような仕組みになっていなかったか。本当の真実は何かというところを捉えて、物事をきちんと話していかなければいけません。

 ─ これは危機管理上、日本全体の仕組みの問題として考えなければいけないですね。

 相澤 そうです。米スタンフォード大学で医療の統計を専門としている私の知り合いからは「日本はデータをよく集めるけど、そのデータを使って何をしたいかというビジョンがないね」と言われました。きちんとデータを集めて、そのデータを基に分析をして、それを使える情報として出すと。レセプトのデータなどは世界に冠たる医療情報なのですからね。



 ─ その中で日本には約8千の病院があり、そのうちの8割は民間病院です。コロナ対応は主に公立病院が行いましたが、この民間病院と公立病院の連携をどう進めるべきですか。

 相澤 全国の病院の中で急性期の患者さん、コロナで言えば急性期の重症・中等症の患者さんを診られる機能と施設設備、それに対応できる職員を備えている病院はいくつあるかというと、実は統計がないのです。

 厚生労働省の統計を見ると、病院は一般病院、精神病院、療養型病院、感染症病院と分けられているのですが、一般病院とは、かつて「その他」に分類されていた病院です。これが70000超あるのですが、この中には「回復期病院」と言われる回復期リハビリテーション病院なども含まれています。この病院に感染症の急性期の患者さんを診てくれと言えるでしょうか。

 それなのに、一般病床のベッドが98万床あるのだから、重症者患者も受け入れることができるはずだというのはおかしな話です。間違ったデータ、あるいは確かでないデータで何かを言うと感情だけの問題になってしまうということです。そこをしっかり見て病院ごとの連携を進めなければなりません。

 ─ その連携という点では、相澤さんが経営する相澤病院がある「松本モデル」が成功事例と言われていますね。

 相澤 私たちは30年くらい前から松本医療圏の中で、救急医療と災害医療について皆で話し合ってきました。救急医療災害対策委員会を作り、医療圏にある各病院が委員会のメンバーとなって来年度の救急医療の体制をどうしていくか話し合ってきたのです。各病院の医師や看護師、事務員などにも参加してもらい、各病院で起こった事例や困った事例を発表し、この医療圏では、こういう事象についてはこう対応しようということもきめ細かく決めてきました。

 災害に対しても、どこの病院がどんな役割をするかも全部決めてきました。救急では広域消防局にも入ってもらいました。そうすることを続けてきたことで、各病院の強みや弱みが次第に分かってきたのです。ですから、搬送する方もこの病院にはこういう患者さんを頼めばいいということが分かってきたと。


24時間365日体制の救急医療を中心に、先進的ながん治療施設なども整えている「相澤病院」(長野県松本市)

 ─ 長年にわたって連携の実績を積み上げてきたのですね。

 相澤 そうです。コロナでも2月にパンデミックになるという情報が入り、保健所や行政にも参加してもらいました。何度か議論を重ねて、4月には「松本医療圏新型コロナウイルス感染症入院病床調整計画」をつくり、コロナの感染拡大のレベルによってベッドを増やしていこうという形になりました。

 松本モデルの特徴としては、レベルによって病院の参加を増やしてベッドを増やしていったことです。最初から何床と決めてしまうと非常に非効率になってしまうからです。重症と最重症を分けたり、疑似症患者さんをどうするか、あるいは発熱外来をどうしていくか。また、透析の患者さんや子供の患者さんといった特殊な患者さんについても役割を決めていきました。



 ─ 日頃からの連携ですね。

 相澤 そうですね。突然やろうとしても難しいでしょうね。最初は救急医療を何とか地域で完結させるにはどうすべきかから始まって、医師会長や大学、各病院、保健所もメンバーに加わり、3市5村の首長にも参加していただくようになりました。

 そして、救急医療検討委員会、災害医療検討委員会、ドクターヘリに関する委員会などを開いて討論し、最後に大本の会議で了承する。これを毎年続けていきました。自治体も大学も、病院も医師会も皆が一緒になって考え、準備を進めてきたことは大きいと思いますね。

 ─ 地域医療のあるべき姿の1つと言えるでしょうね。

 相澤 個人的には人口50万~ 60万人を1つの医療圏にして重篤な疾患を治療する病院が2つくらいあればいいのではないでしょうか。例えば、松本地域では信州大学医学部附属病院と私どもの相澤病院が担っています。それを支える2次救急では曜日ごとに2次救急をやる病院を決め、整形外科が強い病院や外科が強い病院、内科が強い病院など、特徴に合わせて補完してもらうようにしています。

 ─ 双方向でいつも協力しているということが強みだと。

 相澤 そうですね。救急の患者さんも相澤病院から信大に紹介したり、信大から頼まれたりします。相澤病院に来た救急の患者さんの話を聞いて、主治医が他の病院だったり、今はそんなに重症ではないけれども、入院は必要だという患者さんの場合は、私たちの病院から私たちの病院の救急車を使って、そちらの病院に逆搬送することなども頻繁に行っています。

 ─ コーディネーターとしての役割を果たしていますね。

 相澤 ええ。長い年月をかけて役割分担をしてきたのです。ですから、もうそれが当たり前になっています。自分のところで全部抱えようとはしません。大きな病院が1つあって、それが全部を仕切ってしまっていたら、今の松本モデルにはなっていなかったと思います。

 病院も大きな病院から中規模、小規模の病院があるわけです。そういう病院が、各々の持ち分の中で病院機能と自分たちができることをきちんと踏まえた上で、各々の機能を担って、お互いに足りないところを補完する。それが持続可能な医療の形ではないでしょうか。