なぜトヨタはEVやFCVなどの「電動車総動員」戦略なのか?

「EV(電気自動車)で日本は後れをとっていないか?」──。自動車の電動化を巡っては混迷状況が続くが、主軸になるのはEV、そして水素を使った燃料電池車(FCV)だ。ただ、コストやインフラの面で実用化に時間がかかっている。その中でトヨタ自動車はハイブリッド車(HV)とプラグインハイブリッド車(PHV)を加えた4つの電動車を準備する。同社の対応策とは──。

初代「ミライ」で学んだ教訓

 「いよいよ地球温暖化の影響を皆が身近に感じるようになってきた。この温暖化対策は本腰を入れてやらなければいけない。これが次の産業競争力を高めるチャンスでもある」とトヨタ自動車会長の内山田竹志氏は語る。

 菅義偉首相の2050年を目標としたカーボンニュートラル宣言を受け、日本でも自動車を巡る環境規制が急速に進んでいる。それを象徴するのが国内販売車の電動化について、35年までに新車販売で電動車100%を実現するという目標だろう。

 それに対し、トヨタのスタンスはエンジンをモーターが補佐するHV、自宅でも充電ができるPHV、電気だけで走るEV、そして水素を燃料とするFCVの4つの電動車両を総動員するというものだ。

 テスラをはじめ、欧米の自動車メーカーや中国の新興メーカーがEVに特化する戦略をとるが、「電動車のフルラインナップメーカー」(社長の豊田章男氏)でもあるトヨタはEVを含めて、あらゆる電動車を取り揃える戦略をとる。その中で今後期待されるのが量産車「ミライ」に象徴されるFCV。FCVは燃料となる水素と空気中の酸素を反応させて電気を発生させ、走行中は水しか排出しない
「究極のエコカー」(開発責任者の田中和義氏)だからだ。

 しかし、普及に関してトヨタはてこずった。初代ミライは2014年に発売したが、車両価格の高さや水素を充填する水素ステーションの少なさなどもあって大苦戦。国内の累計販売台数は僅か約3700台で、世界でも約1・1万台にとどまった。執行役員の前田昌彦氏は「水素社会の実現を加速させるには力が及ばなかった」と反省する。

 ただ、ミライの販売を通じて得た教訓もある。それが「乗用車以外のモビリティーへの転用ニーズが多かった」(同)ことだ。具体的に、バスやトラック、鉄道、船舶、フォークリフト、産業用発電機などだ。昨年末に全面改良した新型「ミライ」は、この転用ニーズを汲み取った。

 トヨタは2代目のミライを開発するに当たり、汎用性の高いFCシステム(発電装置のFCスタックや水素を貯蔵する高圧水素タンクなど)を一から開発。さらに、パッケージ化して簡単に装備できるようにした。その成果の1つが、ヤンマーホールディングスが開発を進めている水素で動く船舶だ。ミライのFCシステムをボートに搭載することで、ディーゼルエンジンで排出される二酸化炭素(CO₂)をゼロにするという考えだ。

トヨタがサプライヤーの役割

 これらの取り組みはトヨタが「FCシステムを提供するサプライヤー」(関係者)となっていることを示す。水素関連の特許を開放することも一例だ。こういったケースは他にもある。

 JR東日本と日立製作所とは、水素を動力源とした鉄道用ハイブリッド試験車両「HYBARI」を開発中。こちらもディーゼル車両をCO₂フリーの動力源を活用した車両に置き換えることで、電気を通す架線を整備しなくても走行が可能になる。

 モビリティーだけではない。半導体シリコンの世界大手・トクヤマではトヨタのFCシステムを活用した定置式の燃料電池発電機を同社の徳山製造所内に設置。工場内で排出される副生水素を利用し、事務所内の電気を賄う実証運転を開始している。

 乗用車の電動化はEVかFCVかといった点で混沌としている一方、水素の実用化が着々と進んでいるのは配送トラックだ。既に「セブン-イレブン」の配送センターから店舗に物資を運ぶ小型の配送トラックを水素で走るFC小型トラックに置き換える実証実験を行っている。

 実験ではFCの配送トラックが東京都内の8~10店舗を回って商品を配送し、これを1日に3回繰り返す。水素の充填は「イワタニ水素ステーション芝公園」などで行う。トラックを走らせるコンビニ各社にとってCO₂の削減は急務だ。そのため、この実証実験にはファミリーマートとローソンも参画している。

 前出の田中氏は「ランニング時間の長いクルマに水素の可能性がある」と語る。トラックなどの商用車はFCVと親和性が高いというわけだ。理由は3つ。

 1つ目は大型になればなるほど航続距離の長いFCVが適する点だ。EVでは電池の搭載量が多くなると積載スペースが犠牲になる。

 2つ目は水素の使用量が多い点。前出の関係者によれば「小型トラック1台につき、ミライ30台分の水素を使う」。

 3つ目は決まったルートを走るため、水素ステーションが設置しやすい上に、乗用車と違って、ほぼ毎日使用されるため採算がとりやすいという点だ。こういった背景もあって、トヨタは、いすゞ自動車との2度目の資本提携に踏み切った。

 ただ、トヨタは「電動車=FCV」というスタンスではない。EVの展開にも力を入れていく。なぜなら「インフラの整備状況や充填時間、航続距離など、電動車でも得意分野が異なるし、消費者のニーズによっても変わる」(幹部)からだ。

 販売台数で鎬を削るフォルクスワーゲンやEVで急速に台頭してきたテスラ、さらにアップルなどの異業種と競いながら「消費者がどのメニューを選ぶか分かるまで全方位でいく」(豊田氏)という戦略をとるトヨタ。

 トヨタの電動車の元祖はHV「プリウス」だが、このクルマに課されたミッションは「21世紀のクルマ」であり、「社会課題を解決するクルマ」であった。環境問題という人類共通の課題の解決にトヨタがどこまで踏み込めるか。水素がその鍵を握る。