名車の祭典「AUTOMOBILE COUNCIL 2021」(オートモビル カウンシル)でファン垂涎のメルセデス・ベンツを発見した。ヤナセクラシックカーセンターが初めてフルレストアを手掛けた1958年式「190SL」など3台だ。写真もあわせてメルセデスの名車をじっくり紹介したい。

  • メルセデス・ベンツ「190SL」

    1958年式のメルセデス・ベンツ「190SL」(W121)、本稿の写真は撮影:原アキラ

ちょっと古いクラシックカーが集結するだけでなく、気に入れば展示車両を購入することも可能なユニークなイベント「オートモビル カウンシル」(千葉県の幕張メッセで4月9日~4月11日まで開催)。コロナ禍で多くのイベントが中止や延期を余儀なくされている中、主催者は自動車そのものがいかなる困難も不屈の思いで乗り越え、今日まで走り続けたという事実を受けて、開催を決意したのだという。

会場で目を引いたのは、ヤナセクラシックカーセンターのブースに展示してあった3台のメルセデス・ベンツだ。デジタル化・電動化・自動化が進む移動手段としてのクルマではなく、クラシックカーを楽しむ文化を日本にも醸成すべく、「クルマはつくらない、クルマのある人生をつくっている」をスローガンに掲げるヤナセ。展示車両3台は同社の思いが具現化したようなクルマだった。

1958年製W121型「190SL」

ブース中央奥にはシルバーに輝く1958年式の「190SL」(W121)が。プロトタイプのデビューは1954年のニューヨーク国際モータースポーツショーで、翌年3月のジュネーブモーターショーで生産モデルが公開された。

  • メルセデス・ベンツ「190SL」

    シルバーに輝く「190SL」

全長4,290mm、全幅1,740mm、全高1,320mmのボディは、伝説の名車「300SL」の弟分とされる流麗なスタイル。今日まで続くメルセデス・ベンツ「SL」の伝統は、この2台によってスタートしたというわけである。215PSの3.0リッター直6エンジンを搭載する300SLに対し、190SLは120PSを発生する1.9リッター直4という扱いやすいエンジンを載せたため、セールスは好調だったそうだ。

W121型190SLの生産は1963年まで続いた。合計2万5,881台のうち80%を輸出し、そのうち40%をアメリカで販売したという。スポーティーでエレガントなスタイルが、アメリカの自動車ファンのハートをガッチリとつかんだのだろう。

  • メルセデス・ベンツ「190SL」

    そういえば、筆者の大好きな大藪春彦氏の小説「汚れた英雄」にも「190SL」は登場していた。当時、日本に駐留していた米軍属の持つそれを、主人公の北野晶夫が軽井沢の別荘からこっそりと持ち出し、擂粉木山に通じるワインディングロードでタイヤがボロボロになるまで走り込むシーンを思い出す

展示車両の190SLは、ヤナセクラシックカーセンターが初めて手がけたフルレストアの第1作で、作業の主な内容は以下の通りだ。

■ボディ色をアイボリーからシルバーに変更。シルバーは当時のメーカー調合データに従って調色。
■再塗装の過程でボディの腐食やサビを補修、歪みを修正。
■内装色を赤茶色から当時の明るい赤本革に変更。本国から赤の色調やシボの入り方などのサンプルを数種類取り寄せ、ボディ色と照らし合わせながら決めていったとのこと。カーペットの材質と色調も同様の方法で決定。
■幌は黒色と内側のアイボリーを採用し、その過程でフレームを修正。
■エンジン、トランスミッションを分解し、不具合箇所の修理と調整を実施。
■ブレーキはブースターのオーバーホールと各部品の整備、交換、調整を実施。
■足回りも分解、ショックの交換、ブッシュなどゴム類を交換、調整。

ほかにも多数の作業を実施したそうだが、ただし、全てがフルノーマルというわけではない。背の高いオーナーのために運転席側のシート座面を少し低くするなど、細かいオーダーにも応えているそうだ。修理期間は約1年半を要し、その費用は2,500万円ほどかかったという。筆者が2020年に同センターを訪れた際に見たこの190SLは、まだボディがスケルトン状態で、修理ブース全体にパーツが山積みされているような状態だっただけに、こうして再びすばらしい姿で登場したのを見ると、かなり感慨深いものがある(自分のものではないけれど……)。

  • メルセデス・ベンツ「190SL」
  • メルセデス・ベンツ「190SL」
  • メルセデス・ベンツ「190SL」
  • メルセデス・ベンツ「190SL」
  • フルレストアは内装全てにも及ぶ。レッドカラーのレザーシートは、背の高いオーナーに合わせて座面が低い位置に調整されている。ステアリングセンターのスリーポインテッドスターがクラシカルで素敵だ

ゴールドのW113型「280SL」

W121型の初代SLに続き、1963年に登場したのがW113型SLだ。展示車両の2台目は、1968年に登場した後期型の「280SL」である。

  • メルセデス・ベンツ「280SL」

    2代目SLとなったW113型「280SL」は、並行輸入車をベースにヤナセクラシックカーセンターが整備したもの。直列6気筒エンジンを搭載し、ゴールドのボディカラーとブラックのレザー内装がいい味を出している

全長4,400mm、全幅1,750mm、全高1,330mmのボディは、フランス人のポール・ブラックによるもの。初代に比べてシャープな印象になった。屋根の中央部が左右より低い「パゴダルーフ」を採用したハードトップモデルが今でも人気だが、今回の280SLは格納式の幌がついたロードスターモデル。正規輸入ではなく並行輸入されたモデルということで、スピードメーターがマイル表示だ。

  • メルセデス・ベンツ「280SL」

    「280SL」のロードスターモデル

ヤナセクラシックカーセンターでは、こうした並行輸入車にも対応している。専属メカニックが総点検を行ったうえで不具合箇所の修理や部品交換を行い、さらに、ウィークポイントの予防整備や部品交換も行って販売することになる。純正部品が入手できない場合はリビルト部品(再構築部品)やリプロダクト部品(社外品)、リサイクル部品(中古部品)などを使用。展示車ではオートマチックトランスミッションの修理やミシュラン製の新品ホワイトウォールタイヤへの交換まで実施しているそうだ。

  • メルセデス・ベンツ「280SL」
  • メルセデス・ベンツ「280SL」
  • ヤナセでは並行輸入車も対応可能とのこと

ゴールドのボディにブラックのレザー内装はなかなか渋い。価格は1,760万円と高価だが、これらの整備付きであることを考えれば妥当な額かもしれない。ただし、並行輸入車のため保証対象外となるのは仕方がないポイントか。

初代Sクラス! 1953年製W187型「220」

現在まで連綿と続く「Sクラス」の初代モデルとなるのが、第2次世界大戦以降、最初に開催された1951年のフランクフルト国際モーターショーでデビューした「220」(W187)である。展示車両の3台目だ。

  • メルセデス・ベンツ「220」

    「Sクラス」の原型となった「220」。センターピラーを中心に開く観音式ドアや日本で製作されたというレースのシートカバーを取り付けた立派なシート、高性能な直列6気筒エンジンなどが特徴だ。今と変わらぬスリーポインテッドスターのマスコットがボンネットに輝く

展示されていたのは、1953年当時、メルセデス・ベンツのインポーターだったヤナセ子会社のウエスタン自動車が輸入し、そのまま保有車として今に至っている車両だ。ボディは全長4,510mm、全幅1,685mm、全高1,610mm。4気筒エンジンを搭載していた「170S」をベースとし、新しい6気筒エンジンを搭載するためにノーズを延長したモデルである。

  • メルセデス・ベンツ「220」

    70年近く前にウエスタン自動車が輸入したクルマだ

大きなフェンダーに埋め込み式のヘッドライトというデザインは当時はモダンで上品とされたものだが、今見るとクラシックカーそのもの。80PSという当時としては高出力な2.2リッターSOHC直列6気筒エンジンにより、最高時速は140キロを達成。これに対応し、前輪は新型ブレーキを搭載したという。

  • メルセデス・ベンツ「220」
  • メルセデス・ベンツ「220」
  • メルセデス・ベンツ「220」
  • クラシックカーの典型ともいえるデザインだ

その後のSクラスは、1954年のポントン6気筒モデル(別名:ダルマベンツ)、1959年のW111「羽ベン」、1965年の250S/300SEL、1972年のW116、1979年のW126、1991年のW140、1998年のW220などを経て、最新のW223へと続いていくことになる。

3Dプリンターで部品を再生

ヤナセクラシックカーセンターでは「乗って楽しむクラシックカー」を維持するための体制作りとして、3Dプリンターによるパーツ製作を得意とするスタークラフト社と提携。入手が困難になりつつある純正部品の代わりとして、同等の精度を保った新たな部品作りにも対応していくという。会場では実際に、スタークラフトが手がけたランボルギーニ「ミウラ」のヘッドライトベゼルやホイールカバー、メルセデス・ベンツW124の伸縮式ラジオアンテナのゴムブーツなどを展示していた。

  • ヤナセが3Dプリンターで作成した部品

    3Dプリンターで作成した部品

聞けば、希少なクルマを所有するオーナーほど普段はこうした部品を使用していて、大事なイベントがあるときだけ純正パーツに付け替える方が多いのだという。こうした取り組みが行われるようになると、クラシックカーに乗って運転を楽しむ機会がより増えるのではないだろうか。朗報である。