みなさんこんにちは!間取り好き科学コミュニケーターの高橋明子です。

こちらのブログは、1/23(土)に実施した「どう付き合う?どんどん変わるカラダとココロ~思春期の体調不良からHPVワクチンまで~」というイベントの振り返り(後編)です。

埼玉医科大学の産婦人科医 髙橋幸子先生、国立成育医療研究センターの小児科医 永井章先生をお招きし、視聴者のみなさんからの疑問や不安にそって進めていきました。前編では思春期に起こる変化と健康についての話題を振り返りましたが、後編では思春期のときから考え始めたい、それ以降の健康の話題について振り返っていきます。

(前編はこちら https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20210409post-410.html)

性感染症の感染リスク

思春期に脳からの指令で活動しはじめる生殖器の、思春期からその先の健康についても考えていきます。

前編で述べたような体の変化はもちろんですが、年齢とともに性交渉を経験する機会が増えてきます。

そうすると当然増えてくるのが、性感染症への感染リスクです。

性感染症にかかかるって、「昨日、風邪引いちゃって…」みたいに気楽に言うようなことでもなく、うしろめたいような世の中の空気がありますが、高橋先生いわく「性感染症は生活習慣病」。

性交渉があればかかるかもしれない病気なんだ、と認識し、必要に応じて検査・治療をし、さらに予防をしていけばよい、とのこと。特にパートナーが変わるときに、検査をする「リセット検査」がオススメだそうです。生活習慣病という考え方が目からウロコでした!

子宮頸がんのリスク

そして女性の場合、避けて通れないのが子宮頸がんのリスクです。20代から40代にかけて多く見つかる病気で、日本では2019年に2921人の方が亡くなられています(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(人口動態統計))。ちょうど出産が多い時期とも重なることから、「マザーキラー」とも呼ばれます。

その原因となっているのが、ヒトパピローマウイルス(HPV)です。子宮頸部(子宮の出口の狭くなっているあたり)に感染し、時間をかけてがんを引き起こします。

子宮頸がんとは?月経や子宮頸がんについて「男性にも知ってほしい!」というコメントがたくさんありました。(よく見ると子宮頸部の漢字が間違っている、すみません…!)

子宮頸がんになるまで

さてこの子宮頸がん、どのようなステップでがんに進行するのでしょうか?

まず、子宮頸部にHPVが感染します。感染のきっかけのほとんどは性交渉ですが、たった一回の性交渉であっても相手がHPVを保有していれば、感染する可能性があります。

このとき、子宮頸部の細胞にウイルスが侵入しますが、免疫の働きによってその多くは排除されます。もし排除されない場合そのまま居座り、時間をかけて細胞に異常を引き起こします。この状態はがんになる一歩手前ですが、このままの状態で留まるものもあります。そして一部はさらに進行し、がん化します。

感染後、一部ががんまで進行する。

子宮頸がんの治療

子宮頸がんの前がん病変の場合、子宮頸部を円錐の形に切り取って異常のある細胞を切除する、という治療が行われます。この治療は、子宮頸部以外にもがんが広がっていないかどうかの検査も兼ねています。

もし円錐切除でがん化した細胞を切除しきれなかった場合、進行度合いに応じて、子宮全体を取り除きます。もっと進行している場合には放射線療法や化学療法で治療を行います。

治療によって命を取り留める方もいらっしゃいますが、進行度合いによっては子どもを持つことができなくなったり、妊娠できても早産のリスクが上がることがあります。また治療ができた場合でも再発の不安を抱えながらの生活になります。そして妊娠中に子宮頸がんが見つかるケースでは、お腹の中で赤ちゃんが成長する時間と自分の治療開始のタイミングの両方を考えないといけなくなることも。子宮頸がんにかかると、自身の命、赤ちゃんの命が非常に厳しい状況に置かれてしまうかもしれないといえます。

子宮頸がんの進行度合いによって治療内容が変わり、治療の結果生じる体の機能への影響も変わる。

私たちができる対策は?

さて、そんな子宮頸がんに対して私たちができることは2つあります。

まず一つ目は子宮頸がん検査です。

子宮頸部の表面をブラシやヘラでこすり、異常な形の細胞がないか確認する検査で、20歳以上の女性が対象です。がんの一歩手前の状態(異形成)から見つけることができます。

この検査がきっかけで産婦人科に初めて行った、という方も多いかもしれません。とはいえ、抵抗感があるためか、受診率がまだまだ低いとのこと。対象だけど行ったことのない方は、これを機会にぜひ受診を検討してみてください!

子宮頸がん検診受診率(国立がん研究センターがん情報サービス)

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening_p01.html

そしてもう一つは、HPVワクチンの接種です。

HPVは100種類以上の型が存在しますが、そのうち少なくとも15種類が子宮頸がんを引き起こすといわれています。中でもハイリスクな型の感染予防に効果があるのがHPVワクチンです。2価、4価、9価ワクチンがありますが、それぞれ感染予防できるウイルスの型の数を表しています。2価、4価では65~70%、9価は約90%の子宮頸がんを予防する効果があります。他にもHPVウイルスによる肛門がん、中咽頭がんなどの予防効果も確認されています。

現在国内で定期接種されているのは2価と4価で、定期接種対象者(小学校6年生~高校1年生の女子)は無料で接種できます。男性やそれ以外の年齢の女性(9歳~)は任意接種となっています。男性は4価のみ、適用になりました。そして9価ワクチンはこの放送の後、2月に発売開始され、女性は任意接種可能です(2021年3月23日現在)。…とってもややこしい…。

2つの対策を紹介しましたが、この2つはどちらも完璧ではありません。ワクチン接種で多くのHPV感染を防ぐことができるけれど、カバーしている型以外のHPVに感染する可能性はゼロではありません。検査についても完璧ではなく、そもそも異常な状態にならないと見つけることができません。そして2つの対策は役割が違います(下図参照)。

高橋先生は子宮頸がんのことを考えれば「両方の対策を併用するのが理想」、つまりワクチン接種で感染自体を減らし、万が一感染に進んでしまったとしても、子宮頸がん検診で早めに異常な状態を見つけるのが望ましいとのこと。

どちらか片方やっとけばいいや、というものではないのですね。

ワクチンと検診の役割は違うので、併用が望ましい

ワクチンの副反応、どう受け止めたらいい?

HPVワクチンは2013年に国内で接種が開始されましたが、その後の副反応疑いの報告を受けて、厚生労働省は対象者に積極的におすすめするのをやめました。すでに上に書いた通り、接種で得られる利益、つまり子宮頸がん予防の効果については確認されていますが、接種のリスクについて考えてみようと思います。

一般に、ワクチン接種の後に、ワクチンのせいで起こった望ましくない体の反応のことを副反応といいます。例えば打った場所が腫れて痛い、なんていうのはよく見かける副反応です。一方で、接種後の望ましくない体の反応の中には、ワクチンのせいではなくたまたま、といったものもあり得ます。そのため、ワクチンの安全性を評価する際には、ワクチンのせいなのかどうか(因果関係)、というのを慎重に議論します。その確認のために、ワクチンを接種した人としていない人で、同じような望ましくない反応が起きていないかどうかを調べる研究がしばしば行われます。

HPVワクチンでもこのような研究が行われています。実際に名古屋市で行われた研究では、3万人を対象に聞き取り調査が行われ、さまざまな症状の解析の結果、ワクチンとの因果関係は認められませんでした。他にもこの結果を支持する研究が蓄積されてきており、ワクチン後に起きた不調については、その多くはワクチンのせいではなく、たまたまそのタイミングで起きた不調、と考えるのが科学的には妥当、ということになります。ワクチンのせいがゼロとはいえませんが、前編で述べたような、思春期心身症や月経に関連した症状が接種と同時期にかぶってしまったケースが多く含まれるのかもしれません。

HPVワクチンの副反応に関する,名古屋スタディ-の最終結果(YOKOHAMA HPVプロジェクト)

http://kanagawacc.jp/vaccine-jp/226/

次に接種の効果とリスクのバランスも見てみましょう。日本では2015年時点までで、338万人が接種し、2584人(0.08%)の副反応疑い報告、うち186人(0.005%)が未回復(2015年時点)と報告されています。そして効果ですが、338万人が接種したおかげで、28,000人が感染予防でき、9000人(0.3%)が子宮頸がんで死亡しないで済んだ、という推定があるとのこと。

資料4-1 副反応追跡調査結果について(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000097681.pdf

データから言えることは、接種の利益がリスクよりもとても大きいということです。

あらゆる医療行為には、期待できる効果だけでなく、副作用(副反応)のリスクが必ずあります。医師や行政の判断として、期待できる効果が副作用よりも十分大きい場合、その行為を推奨します。HPVワクチンは推奨されるべきワクチンとして、実際に日本産婦人科学会、日本小児科学会を始め、多くの学会や専門家が推奨の声明を出しています。

そして私たち個人がワクチンを接種するかどうかを判断する際にも、利益とリスクを天秤にかけることになります。子宮頸がんという自分や子どもの命、人生に大きく影響する病気を防ぐことができるのは、本当に素晴らしいことです。実際、このワクチンで多くの命が救われています。

一方で、同じ数値であっても怖いと感じるか、許容できると感じるかは人それぞれ。そこには価値観やリスクとの心理的な距離(身近な人が子宮頸がんになった、まだ若いので子宮頸がんにかかるのは先だし、想像もつかないなど)も影響します。打つ選択はもちろん、打たない選択もあり得る、ということですね。(そしてもしも打たない選択をする場合には、「打つ人以上に子宮頸がん検診を欠かさずに!」by高橋先生)。

イベント講師のお二人の先生の共通の見解として、打つことをおすすめするワクチンであるのは間違いない、一方で他のあらゆる医療行為同様、副反応のリスクはゼロではないので、どのような効果とリスクがあるのかを知り、納得の上で接種してほしい、とのことでした。HPVワクチンは今打つことで、将来の健康が守れるかもしれない強力な武器です。納得の上、うまく付き合えるとよいですね。

HPVワクチンに関する通知・事務連絡(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/notifications.html

子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために(日本産婦人科学会)

https://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種推進に向けた関連学術団体の見解(予防接種推進専門協議会)

https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20160418_HPV.pdf

大人だって知らない

今の保護者世代は十分な性教育を受けていないし、子宮頸がんワクチンなんて自分が子どものときにはなかったし、大人だってわからないことだらけ…今子どもたちが直面する性に関わるさまざまな問題、大人の一緒に学んで、悩んで、考えてもらえると、きっと思春期の子どもたちも心強いです。

そして何か困ったときには信頼できる情報源にあたってください。

性に関わること全般の情報源のオススメのひとつは、命育というサイト。今回登壇してくださった高橋先生も監修に入られています。

大人にも子どもにも、かゆいところに手が届く内容になっているので、必見です!ぜひ「命育」で検索をして、のぞいてみてください。

トークの中では他にも、自分でできる月経のケアや低用量ピルの話、起立性調節障害の治療の話など、気になる話題が盛りだくさんでした。

詳しく内容を知りたい方は、番組動画もぜひご覧ください!番組動画はどなたでも無料でご覧いただけます。

番組URLはこちら

https://live2.nicovideo.jp/watch/lv329948572



Author
執筆: 髙橋 明子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【2021年まで在籍】子供のころから生き物が好きで研究に没頭し、色々な場所で色々な対象相手に研究をしていました。前職では宮崎県の幸島でニホンザルを追いかけていましたが、社会の中で研究はどうあるべきなのかを考えるため、未来館で勤務しています。今興味があるのは、科学の使い手である人間の認知や行動。物件の間取り図をながめるのが好きです。