この1年間、世界中の人が新しい生活様式に適応することを余儀なくされました。特に教育現場では、今回のような大規模な「リモート授業」は想定外のことで、オンライン授業を導入した大学などでは、すべての生徒に平等な学習環境を提供できるのかなど、さまざまな問題が表面化しました。

そんな中、デジタル移行を実現した大学もあります。オーストラリアのシドニー大学では、パンデミックだけでなく、山火事や洪水などさまざまな災害で20%の生徒がキャンパスに戻れない状態でした。

その対策としてITチームは、授業、アプリケーション、データへのリモートアクセスを可能にする、完全にデジタルな環境をわずか7日間で展開しました。それはただ、アクセスを可能としただけなく、学生が使用している、物理的コンピュータに大きな計算能力を要求する統計、学術、および技術関連のアプリケーションの仮想化を通じ、クラウド内で実行できるようにしました。

イギリスのノーザンブリア大学では、1999年からリモート学習のトライアルを行い、約500人がリモートアクセスできる環境を準備していました。しかし、コロナ禍、残りの生徒をすべて遠隔学習への移行する必要がありました。同大学では、物理デスクトップやオンプレミスやパブリッククラウド上の仮想デスクトップインフラにリモートPCへのアクセスを提供することで、教職員や学生が必要とするアプリケーションやデータへの安全なアクセスを提供し、使い慣れた画面の仮想デスクトップを迅速に実現しました。

急遽必要となったデジタル移行やデジタル環境の拡張を実行できた大学の共通点は、以前からBCP対策やキャンパスに通えない生徒のためにリモートアクセスを想定し、対策を講じてきた大学です。

ワクチンの普及で日常に戻りつつある今こそ、今後、学生に良質な教育機会を与えるためにどのような対策を講じていくべきか、多くの教育機関が問われています。

この問題を考えるにあたり、英国の大学を対象とした最新の調査結果で、大学教育の在り方を見直す重要なヒントが隠されていました。

学外での一貫した学習体験

今回の調査では、半数以上(53%)の学生が、今後の学習方法として柔軟性のあるアプローチを希望しているという結果が出ました。学生がキャンパスにいても、リモートで学習していても、大学は同等の質の高い体験を提供し、いつ、どこで、どのように学習するかを選択できるようになることが期待されています。

私たちは今、「ハイブリッドな学習モデル」がどうあるべきかを考える時を迎えています。

コロナ禍で多くの企業がそうしているように、キャンパスをベースにした学習は、人との関わり、ディスカッション、実習、対面での指導、スポーツ、社交の場とし、一方で正式な授業はバーチャルで提供されるべきです。そのためには、生徒が必要とするデジタルアプリケーションやプラットフォーム、オーディオビジュアルやコラボレーションツールなどを深く検討する必要があります。

しかし、これらはすべてコストがかかります。今回の調査では、10人に7人(71%)の回答者が、新型コロナウイルスをきっかけに、大学がすでに不動産を売却していると答えています。このことは、コストや間接費を削減することで、IT投資やイノベーションのための資金を確保できる可能性を示唆しているのです。

すべての生徒にアクセシビリティを確保

ハイブリッドな学習環境は、コロナ禍での学生生活を充実させるために不可欠なものです。子供がいる生徒、仕事がある人、留学生など、それぞれのニーズに合わせて最適な方法で情報にアクセスできるようにオンライン環境は整えられるべきです。また、障害や経済的な理由でキャンパスでの学習が困難な学生の助けにもなるでしょう。

教育格差はコロナ禍で悪化しています。過去1年間、ノートパソコンやテクノロジーの提供に関する問題が大きく報じられ、調査では現在、リモートで行われている大学での授業は半分(52%)にとどまることが明らかになりました。このまま放置しておくと、学習体験や受けられるサポートにおける格差が広がり、すでにIT環境が充実した大学やコースなどに対し、ほかの学校は大きく後れを取ってしまう可能性があります。

大学に通うことは特権であり、一部の人にとっては手の届かない費用がかかります。しかし、テクノロジーを活用すれば、格差を是正することができ、誰もが大学に通える社会の実現も可能となるのです。学外で最高の学習体験をするためのテクノロジーに投資することで、大学はこれまで入学を断念していた学生にも門戸を開き、人材の幅を広げ、最終的には労働力の多様性を促進することができます。

持続可能性の支援

今回の調査で、環境問題への関心が高い世代にとって、「持続可能性」がますます重視されていることがわかりました。現在、43%の学生が、大学選びの際にサステナビリティの評価をすると答えています。学生たちは、自分たちが通う大学が、環境保護の課題に取り組んでいることを期待しています。

コロナ以降の未来を考えると、サステナビリティはテクノロジーを含めた大学の意思決定のあらゆる側面に組み込まれる必要があります。ハイブリッドワークのシナリオには、環境に配慮したデータセンターから、移動時間やキャンパス内での活動の削減に至るまで、多くの持続可能なメリットがあります。

職場との並走

今回のパンデミックでは、教育システムが職場と同じペースで進歩していないことが明らかになりました。コロナ後もハイブリッドな職場環境になると予想される今、大学のIT環境を整えることは学生が社会人として生きていくための準備をすることにつながります。

パンデミックから脱却した時、われわれはより前進していく必要があります。まず、大学教育から柔軟な学習モデルを始めれば、その学びを初等・中等学校を含む教育機関全体に広げることが可能です。正しい方法で行えば、大きな力を発揮することができます。

コロナの心配がなくなった時、学生も教師もキャンパスに戻りたくなるかもしれません。しかし、大学が変革のチャンスを逃さずに取り組み続ければ、すべての人を受け入れる魅力的なサービスを構築でき、同時に、予測不可能な事態にも備えることができるのです。

著者プロフィール

國分俊宏 (こくぶん としひろ)

シトリックス・システムズ・ジャパン 株式会社 セールス・エンジニアリング統括本部 エンタープライズSE部 本部長

グループウェアからデジタルワークスペースまで、一貫して働く「人」を支えるソリューションの導入をプリセースルとして支援している。現在は、ハイタッチビジネスのSE部 部長として、パフォーマンスを最大化できる働き方、ワークライフバランスを支援する最新技術を日本市場に浸透すべく奮闘中。