ビジネスでは、ステップごとにさまざまな書類が存在します。そのなかでも発注者が発注時に作成する「発注書」は依頼先に発注内容を明確に伝え、ビジネス上のやりとりをスムーズにする大切な書類です。
発注時には発注書のほかにも「注文書」や「見積書」など同時に確認しなければならない書類も多く、その違いが明確に把握しにくいこともあります。
この記事では「発注書」の基本や作成方法のほか、汎用性の高いテンプレートなどもご紹介します。
発注書の基本
発注者が発注の意思表示をするための書類として「発注書」があります。その基本についてみていきましょう。
発注書とは
「発注書」とは、発注者・注文者が商品やサービスなどを発注する際に、売主に対して発注の意思表示をする目的で作成する書類です。基本的に発注書は売主から見積書が提示された後、発注者が売主に対して提示します。発注書は注文書の意味合いでも使われることもあり、形式はPDFやFAXのほか、郵送による書面、クラウド形式のものなどさまざまです。
発注書には、発注者と売主との間で金額や発注の具体的な内容を相互確認する意味があり、発注書によって発注に関するトラブルを事前に防止できます。また発注書があることで取引がスムーズに進み、取引先との友好的な関係を構築することにも役立ちます。
実際には電話やメールでだけで取引を行うケースもありますが、電話内容の記録漏れやメール未受信などが原因で、発注者・受注者間に発注内容の認識相違が生じてしまう可能性もないとは言い切れません。
また公正取引委員会では下請法における親会社の義務として「発注の際は、直ちに3条書面を交付すること」と定めています。下請法の遵守義務がある事業会社はもちろん、ビジネスをスムーズに進行するためにも発注書は作成したほうがいいでしょう。
商取引の基本
商取引では検討段階から納品までの間に見積や提案、検討など複数のステップがあり、取引が完了するまでには一定の時間がかかります。
それぞれのステップで見積書や発注書、納品請書など異なる種類の書類が必要です。便宜上口頭やメールで済ませてしまった場合でも、後々トラブルにならないよう後付けでも書類を残しておくようにしましょう。
また発注書と契約書は異なりますが、発注書に「見積に対する申し込みである」ことが明記されている場合、その発注書は契約書とみなされます。
【一般的なビジネスのフローと書類】
【(1)検討】
商品やサービスなどにおいて発注候補先を検討し、発注対象物の相談をします。必要に応じて秘密保持契約書(NDA)を締結します。
【(2)提案・商談・交渉】
発注者からの相談に対して、売主は企画立案・見積などの提案をおこないます。発注者は複数の発注候補先から、納期や価格などを比較するための相見積・企画書・提案書などをもとに発注先を決定します。
【(3)契約】
発注先が決定したら、初めての取引相手の場合は基本契約書を締結します。企業によっては基本契約書を交わさない場合もあります。
【(4)発注・注文】
見積書金額に同意後、売主である受注者に対して発注します。発注は注文内容や納期・部数などをお互い明確にするためにも、発注書を作成して進めましょう。また発注書の代わりに「個別契約書」「注文書」「注文請書」などが使われることもあります。
【(5)発注受託・注文受託】
発注書や注文書、個別契約書などで受けた発注・注文を、受注者が受託します。その際、受注者は発注を受けたことを確認するために「発注請書」「注文請書」などの書類を作成し発注者へ提示します。
【(6)納品・検収】
受注者は商品やサービスを受け渡す準備が整ったら、納品書と合わせて納品をおこないます。発注者は発注・注文した商品やサービスが正しく納品されているかを確認後、検収通知書を受注先に対して作成します。
【(7)支払】
受注者は納品後、請求書を発行します。発注者は請求書を受領後、指定期日までに支払いを行います。
発注書は全ての取引に必要?
下請法の対象となる取引においては、事業者の資本金規模と取引の内容によって発注書が必要となります。対象となる取引・事業者の規模などは下記の通りです。
【下請法の対象となる取引】
取引の種類 | 親事業者(発注側) | 下請事業者(受注側) |
物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物・約務提供委託を行う場合 | 資本金3億円超 | 資本金3億円以下 (個人を含む) |
資本金1,000万円超3億円以下 | 資本金1,000万円以下(個人を含む) | |
情報成果物・役務提供委託を行う場合 | 資本金5,000万円超 | 資本金5,000万円以下(個人を含む) |
資本金1,000万円超5,000万円以下 | 資本金1,000万円以下(個人を含む) |
参照:公正取引委員会「下請法の概要」
下請法に該当しない取引においては、売買や請負などの契約は民法上の諾成契約に該当し、原則としてお互いの意思さえあれば契約は成立します。そのため発注書の発行が無くても取引上は問題ありませんが、発注書がある方が無用なトラブルを避け、ビジネスをスムーズに進められるでしょう。
発注書の作成方法
それでは具体的な発注書の作成方法をご紹介します。
(1)発注書タイトル : わかりやすく大きめに記載しましょう。
(2)発注先 : 発注先の企業名を記載する欄です。
(3)発注No.日付 : 請求処理や類似した内容の発注がある場合、個別の発注書番号があると便利です。
(4)発注者名 : 発注元の企業名や担当者名を記載する欄です。発注時に上席者や複数者名が必要な場合はその欄も作成しましょう。
(5)発注内容 : 発注内容の詳細を記載する欄です。発注書は注文書として使われることもあり、発注内容の欄は発注書・注文書いずれの場合も利用できるフォーマットになっているケースがあります。
(6)発注金額 : 小計・税額・税込合計額を記載します。
(7)納期・支払い条件・見積NO : 納期は発注時に決定していないこともあるので、その場合は「別途ご相談」などと記載しましょう。発注時に決定している場合はその日付を記載します。また発注根拠となっている見積がある場合、その見積番号を記載します。
(8)備考欄 : 特筆事項がある場合は記載します。
発注書とそのほかの書類の違い
発注時に使用する書類には、発注書のほかに「注文書」もあります。発注書と注文書には違いがあるのでしょうか。
発注書と注文書の違い
一般的な商取引において発注書と注文書の意味合いは同じです。主に「発注書はサービスや作業など形のないものを依頼する場合」、「注文書は形のあるものを注文する場合」に使用します。
例えばデザイン作成やルームクリーニングサービスなど明確な形がないものを依頼する場合は発注書、文房具やお弁当など数で数えられるものや形があるものを依頼する場合は注文書となります。
【発注書と注文書の違い】
発注書 | 注文書 | |
使用対象 | 形のないもの | 形があるものや数量を数えられるもの |
具体例 | デザイン・クリーニングサービス・システム・イベント司会・ケータリング など | 文房具・お弁当・本・衣服・住宅・コンピューター・スポーツ用品 など |
なお、法律上は発注書と注文書の効果に変わりはありません。
発注書と見積書、契約書の違い
発注書・見積書・契約書は、「発注者・受注者間の同意」「法的拘束力の有無」をポイントとするとその違いがわかりやすくなります。次の表で確認してみましょう。
【発注書・見積書・契約書の違い】
発注書 | 見積書 | 契約書 | |
用途 | 依頼内容(主に形のないもの) を発注する意思表示する書類 | サービスや商品など、依頼予定内容について事前に価格を示す書類 | 発注者・受注者が契約内容に合意したことを示す書類 |
発注者・受注者の合意 | なし 発注者から受注者へ一方的な意思表示 |
なし 受注者から発注者へ一方的な意思表示 ※ただし発注者の要望を反映した見積書の場合はあり |
あり |
法的拘束力 | 原則単体ではなし ※双方の捺印や見積に同意する文言がある場合はあり |
原則なし ※契約締結後に価格が変更になった場合などは法的な根拠として法的拘束力が認められることもあり |
あり |
ここで注意したいのが、法的拘束力がない書類についても諸条件によっては例外があるということです。
例えば発注書に見積に同意する内容が記載されている場合や、双方の捺印がある場合は契約書と判断され、法的拘束力を持つことがあります。また見積書は商取引上契約前の条件確認で提示されるため法的拘束力はないとされていますが、契約締結後に価格が一方的に変更された場合は、契約前の見積書を法的な根拠とし、法的拘束力が認められることもあります。
発注書テンプレート集
それでは実際発注書を作成する場合に参考となる、テンプレートをご紹介しましょう。
公正取引委員会のサンプル例
参照: 下請代金支払遅延防止法第3条に規定する書面に係る参考例 汎用的な第3条書面の例
参照: 下請代金支払遅延防止法第3条に規定する書面に係る参考例 汎用的な第3条書面の例(当初書面に記載することができない特定事項がある場合)
そのほかの発注書例
Web上にはさまざまな発注書のフォーマットがあります。ニーズに合わせてカスタマイズしてみましょう。
発注書を活用してビジネスをスムーズに進めよう
発注書は主にサービスやシステム・デザインなど形がないもの、数量で数えられないものを発注する場合に使う書類です。
発注書の提示は下請法で定められている以外の取引については必要なものではありません。しかし発注者・受注者双方が発注内容を確認できる発注書があることで、トラブル防止だけでなく、ビジネスパートナーとの友好的な関係を築く一助となります。発注書を必要に応じて作成し、ビジネスをスムーズに進めましょう。