大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)第8回「栄一の祝言」(脚本:大森美香 演出:村橋直樹)はサブタイトル通り、栄一(吉沢亮)が結婚。花嫁・千代(橋本愛)の美しいことこの上なかった。

  • 大河ドラマ『青天を衝け』第8回の場面写真

序盤、「おまえが欲しい」と栄一が思い切って告白すると、なぜかたぬき(ホンモノ)が登場して話の腰を折る。その後も「ちょっと待ったー」的に喜作(高良健吾)が現れ、一筋縄ではいかない。千代をめぐって喜作と剣術勝負が行われ、あわやピンチというとき、「お気ばりくださ~い」と喜作を応援するよし(成海璃子)の声が聞こえ、千代は思わず「栄一さん気張って」と応援する。それを聞いた喜作は勝負には勝ちながら、千代を栄一に託す。この行為によって喜作の株がぐっと上がった。

『青天を衝け』の良いところは、喜作が振られてしょんぼりすることなく、よしと結婚し幸せそうになること。誰も傷つくことがなくてよかった。だがその代わり、徳川パートのほうは、人と人が不信感を抱き陥れ合うドロドロな状況が描かれる。

サブタイトルは「栄一の祝言」ながら、第8回の主たる内容は、一橋慶喜(草なぎ剛)と徳川慶福(磯村勇斗)の次期将軍問題。13代将軍で慶福の従兄弟・家定(渡辺大知)が大老に任命した井伊直弼(岸谷五朗)を、器じゃないと周囲の者たちは陰口をたたく。もともと直弼は「茶歌ポン」とあだ名がつくほど茶や歌や能(鼓のポンという音からポン)などが好きで、政治的なことには縁のない人物だった。それが突然、思いがけない大任を命じられ、大きなプレッシャーを感じ「実力なき家柄だけの男」と嗤われる悪夢を見たりもする。

これまであまり描かれてこなかった直弼の「実力なき家柄だけ」の面にフォーカスが当たったことで、威厳のない分、逆に親しみを感じることができた。

たまたま引き受けてしまった大役ながら、直弼は家定のために働く。家定が慶喜を将軍にするのは「いやじゃ」と言うので、慶福を推し、一橋派弾圧を始める。

安政5年、直弼の目が届かないうちに、朝廷の許可も得ずに日米修好通商条約が調印され、違勅だと斉昭(竹中直人)が激怒。慶喜に直弼は呼び出される。

慶喜はただの御老公(斉昭)の傀儡、おそるるに足りぬと自分を奮い立たせる直弼は、こわい上司に呼び出された勤め人のように見える。対して、慶喜はなかなか冷静で理知的。普段は何を考えているかわからないほわんとした雰囲気を醸しているが、この場では毅然と応対。遠くまで言葉と意思を届けようとする姿勢を感じる発声に変えているように感じた。

「すべて徳川のためじゃ」と個人的な野心ではなく視野を広くもってことに当たろうとする慶喜に直弼「へ?」と気の抜けた反応を返す。なんだか頼りなげで、おそれいってばかりいる彼に、次期将軍は紀州殿に決まったのだと察する慶喜。それについても穏やかに受け入れる慶喜を心配そうに見守る円四郎(堤真一)。

そうはいっても慶喜も、「(次期将軍の可能性はなくなったらしいことは)、ほっとしたようなどこかさみしいような不思議な気持ちじゃ」と美賀(川栄李奈)だけに本音を漏らす。最初はあんなにすれ違っていたふたりだが、いつの間にか“ザ夫婦”という雰囲気になっている。

「それはそれは」と余裕の貫禄でお腹をさする美賀君。妊娠中のようだが、それをあえてセリフにしないで、お腹をさすっているだけで、なんとなく夫婦関係が伝わってくることが興味深い。妙に泰然としている美賀君に膝枕してもらう慶喜。