東京都市大学(都市大)は4月7日、同大 理工学部自然科学科の津村耕司 准教授(総合研究所宇宙科学研究センター長兼務)が代表を務める研究グループが提案した、「宇宙の明るさ」を特殊な方法で観測するという天文観測計画が、NASAの「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の第1期観測(Cycle-1)に採択されたことを発表した。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、口径が6.5mもある巨大な宇宙望遠鏡。天文学において革命的な観測成果を何度も成し遂げてきたハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年10月に打ち上げが予定されており、その成果が期待されている。

  • ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

    NASAゴダードスペースフライトセンターのクリーンルームに移されたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。(c) NASA/Desiree Stover (出所:NASA Webサイト)

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    米・テキサス州オースティンで開催されたフェスティバルで展示されたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の1/1フルスケールモデル。テニスコートと同じぐらいの大きさで、高さは4階建ての建物程度 (C)NASA (出所:NASA ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡公式Webサイト)

2021年3月30日、稼働開始に向けて採択された観測計画がNASAより発表された。今回、津村准教授らが提案した観測計画「Absolute Brightness Measurement of the Extragalactic Background Light Using Galilean Satellites Eclipse Occultations」は、第1期観測の1つ(「宇宙の大規模構造」カテゴリーのGO 2134)として選ばれた。

同計画の内容は、「宇宙の明るさ」、専門的には「宇宙赤外線背景放射」を、特殊な方法を用いて観測するというものだ。宇宙赤外線背景放射とは、これまで誕生した星々や銀河などの光の積算のことだ。ちなみにビッグバンの直接的証拠とされる「宇宙マイクロ波背景放射」とは別物である。ただし、どちらも「宇宙背景放射」とあるのは、起源が銀河系外にあり、全天からほぼ一様に届く電磁波であるからだ。

宇宙赤外線背景放射を高精度に測定することでわかるのは、まだ人類が観測できていない未知の光源の有無だ。仮に宇宙赤外線背景放射の方が、現在までに観測できているすべての天体の光の積算よりも大きければ、まだ観測できていない未知の光源があることを意味することになる(これまでの観測では宇宙赤外線背景放射の方が大きい結果が出ている)。宇宙赤外線背景放射を精度よく観測できれば、点源としても観測できないほど暗い天体までを含めた星形成史を調べることができるようになることが考えられている。

しかし、宇宙赤外線背景放射は高精度に観測することが難しい。星や銀河などの点光源は、周囲の暗さから明るく浮き上がっているため、その周囲の暗さとの差し引きから明るさを求めることが可能だが、宇宙赤外線背景放射は面光源であり、手前の明るさである太陽系の明るさと、本来の宇宙赤外線背景放射である奥の明るさを分離することが難しいからである。

太陽系の明るさとは、いい換えれば「黄道光」のことだ。黄道光とは、地球の公転軌道が描く面である黄道面付近に存在する、彗星のまき散らしたダストや小惑星同士の衝突で生じた破片などによる太陽の散乱光のことだ。

黄道光は地上からはなかなか見えず、光害の少ない暗い場所でようやく見えるという具合だ。天の川よりもさらに淡く、ぼんやりとした面光源である。しかし、これが宇宙赤外線背景放射を高精度に観測しようとすると、逆に光害となってしまうという。黄道光は空の明るさの8割以上を占めており、宇宙赤外線背景放射の値を求めるには、それを正確に差し引く必要があるが、その正確な見積もりが難しいためである。

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    弧を描いている天の川の中央付近から、地面へ向かってやや左斜め下に向かってぼんやりと光っているのが黄道光。地上では非常に淡いので光害のない人里離れた土地へ足を運ばないと見るのは難しい (c) Jingyi Zhangr (出所:NASA Webサイト)

この黄道光の影響を受けずに観測する手法は2つある。1つは、黄道光の原因であるダストや小惑星の破片などは太陽に近い位置に集まっているため、その影響がほぼ無視できるレベルになる木星軌道の辺りに宇宙望遠鏡を設置するというものだ。将来的にはそうした計画もあるが、これは簡単にはできない計画である。

2つ目の手法は、何らかの掩蔽体による掩蔽を用いて地上の大型望遠鏡もしくは軌道上の宇宙望遠鏡で観測するという手法だ。可視光波長域では暗黒星雲を掩蔽体として宇宙背景放射が測定されたことがある。しかし、赤外線波長域では暗黒星雲は明るすぎるため、掩蔽体としては使えないという問題があった。

そこで津村准教授らが考案したのが、ガリレオ衛星食を利用して黄道光の影響を受けないようにするという方法だ。ガリレオ衛星食とは、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストの木星4大衛星が、木星の影に入って暗くなった状態、つまりは木星版の月食の状態のことを指す。

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    木星4大衛星。右上の黄色みがかった衛星がイオ、その左下がエウロパ、その右下がガニメデ、その左下がカリスト (C)NASA (出所:NASA Webサイト)

木星の影に入って食により暗くなったガリレオ衛星を掩蔽体として用いることで宇宙赤外線背景放射を遮断し、黄道光だけをあぶり出すこと。これにより正確な黄道光の明るさを見積もることができれば、宇宙赤外線背景放射と黄道光のどちらも写っている観測データから黄道光を差し引けば、宇宙赤外線背景放射の正確な値を導き出せるというわけである。ちなみに、掩蔽体として利用する際は極限まで暗い状態である必要があるため、硫黄を吹き出す活火山のあるイオはその火山が明るいために利用できないという。

これまで津村准教授らは、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡でこの方法を用いて宇宙赤外線背景放射の観測を行ってきた。そして、ハッブル宇宙望遠鏡よりも格段に優れるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡での観測なら、これまでに以上に高精度な観測結果を得られるものと予想される。そのため研究チームとしても、「この観測を成功させることで、人類の宇宙に対する理解をさらに一歩前進させられることが期待される」とその成果に期待を寄せている。