ある春の日。最寄り駅の壁に、ツバメの巣をみつけました。
ツバメのヒナはどんどん大きくなり、飛べるようになって、そこからいなくなりました。
そして次の年の春、またツバメたちが同じ場所で子育てをしはじめました。

…あれ? そういえば、冬の間、ツバメってどこにいるのだろう。

こんにちは!科学コミュニケーターの遠藤です。さて、みなさん。新緑の季節が近づいてきましたね。この季節にぞくぞくと街にあらわれる鳥、それが冒頭に登場した「ツバメ」です。

渡ってきたツバメたち(2019年、著者撮影)

このツバメたち、秋から冬の間は街中でほとんどみることはありませんでした*。
いったい、ツバメたちは冬の間どこに行っていたのでしょうか?

冬のあいだ、ツバメたちはどこへ?

鳥たちがどこに行くのか。

その謎を解くため、これまで、そして今も世界中で調査が行われています。
例えば鳥に足環をつける標識調査。この調査により、1羽1羽を見分けることが難しい鳥たちを、それぞれ区別できるようになりました。そのため、同じ足環をつけた鳥が2つの離れた地域でみつかれば、その鳥がそれらの地域間を移動していたとわかるわけです。

また、人工衛星から発信機をつけた鳥たちの移動を追跡する方法もあります。この方法では、鳥たちの移動するルートまで知ることができます。 ほかにもさまざまな方法で、渡り鳥たちがどこに、どのようなルートで移動しているのかについて調べられています。

山階鳥類研究所が2002年に発表した、1961年から1995年に実施された標識調査の結果によると、日本にいたツバメたちが冬のあいだにフィリピンなどの東南アジアの国で発見されていました。ツバメの平均体重は、およそ20g程度。500円玉3つほどの重さがツバメの体重です。こんなに小さなからだで、海を渡る壮大な旅をしていたのです。

この調査報告から、日本で子育てをするツバメたちは、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム南部などで冬の間は暮らしていると考えられています。

ツバメのように、子育てする場所(繁殖地)と冬に暮らす場所(越冬地)とのあいだを移動することを「渡り」と呼んでいます。 今もツバメの渡りについては活発な調査が行われているため、ツバメたちがどのようなルートをたどって日本に訪れているのかなど、今後も新たな発見があるかもしれません。


ツバメの場合は子育てのために日本に渡ってきますが、冬を越すために日本にやってくる鳥たちもいます。

オナガガモ(オス):都市部の公園の池などでもみられる。日本で冬を越したオナガガモが、繁殖期にロシアの北東部でみつかっている。(著者撮影)

また、日本国内で移動をする鳥もいます。

大きな声でよく鳴いているヒヨドリは、日本各地で年中みることができます**。その一方で、ヒヨドリが群れで海上を移動する光景が観察されるなど、ヒヨドリのなかには国内で渡りをするものもいることが知られています。

ヒヨドリ:君はずっとここで暮らしているの?それとも、どこかから渡ってきたの…?(著者撮影)
鳥はとても身近な生き物ですが、彼らの生き方は私たちには想像ができないほど壮大です。

渡り鳥たちの変化に気づく

鳥たちの渡りは、春と秋にみられます。このように渡りには季節性があるため、季語として俳句などにも登場してきました。渡り鳥たちは、昔から私たちに季節の移り変わりを感じさせてくれる存在だったのです。

この渡り鳥たちの行動に、変化がみられているそうです。

2003年のコットンさんの報告、2017年のメイヤー博士らの報告など海外の調査では、複数の鳥の種で繁殖地に到着する時期が以前より早まっていることが確認されました。さらに、春の気温が高いときほど繁殖地への到着日が早いという傾向がみられた報告もあり、渡り鳥への地球温暖化の影響が指摘されています。

ただし、繁殖地への到着が早まった種と比較すると数は少ないですが、到着が遅くなった種も確認されています。そのため、種や地域などの特徴も踏まえて、渡り鳥たちの行動と気候変動との関係について調べられています。
渡り鳥たちの変化に気づくうえで、長期にわたる観察記録が役に立ちます。先ほどのメイヤー博士らの研究では、「eBird」というインターネット上のシステムに登録されたデータが使われています。このシステム、研究者に限らず、世界中の人々が鳥を観察したらそれを登録できるようになっています。つまり、鳥を観察したひとりひとりの報告が、渡り鳥たちの変化の発見につながったといえるでしょう。


日本でも、一般の方から観察記録を集めて、渡り鳥たちの動向を調査している団体や個人の方がいらっしゃいます。渡り鳥の調査ではみなさんの力が求められているのです!

みなさんも、渡り鳥たちの調査に参加してみませんか?***

ツバメたちが帰ってきた!

さて、今年もツバメたちが帰ってきています。

彼らは長い旅を経て、みなさんの目の前に現れています。ぜひこの機会に、まずはツバメをはじめとする、みなさんのまわりにいる鳥たちをみつけてみてください。

みなさんの通学や通勤、散歩などの“背景”だったかもしれない景色のなかに、渡り鳥たちとの素敵な出会いがきっと待っているはずです。




*秋山さんの2018年報告の神奈川県、長谷川さんの2020年報告の宮崎県など、越冬したツバメが確認された事例 はあります。

**亜種を含みます。

*** 渡り鳥の飛来日などの記録については、研究プロジェクトごとに統一された調査方法が設定されています。参加されるプロジェクトの調査方法を確認してから、観察を行いましょう。

<参考文献>

◎鳥の渡りについて

・ギル,フランク B.(著)、山岸哲(日本語版監修)、山階鳥類研究所(訳)(2009)『鳥類学』.株式会社
新樹社.
・山階鳥類研究所(2002)鳥類アトラス(鳥類回収記録解析報告書). P.55~57.(オナガガモ)

◎鳥の移動を調べる方法について

・樋口広芳(2005)『鳥たちの旅―渡り鳥の衛星追跡』.日本放送出版協会.
・山階鳥類研究所(2002)鳥類アトラス(鳥類回収記録解析報告書). P.1~5.

◎ツバメについて

・秋山幸也(2018)繁殖した巣をねぐらに越冬したツバメの記録.BINOS, vol.25: 47-48.
・長谷川克(著)森本元(監修)(2020)『ツバメのひみつ』.株式会社 緑書房.
・山階鳥類研究所(2002)鳥類アトラス(鳥類回収記録解析報告書). P.83~84. ツバメ)

◎ヒヨドリについて

・水谷高英(イラストレーション)・叶内拓哉(解説).2017.『日本の野鳥 フィールド図鑑』.
文一総合出版.
・山口恭弘(2005)生態図鑑:ヒヨドリ.Bird Research News, vol.2 No.11.

◎渡り鳥の飛来時期の変化に関する報告例

・Cotton, P. A. (2003) Proceedings of the National Academy of Sciences, 100(21), 12219-12222.
・Mayor, S. J. et al. (2017) Scientific Reports 7.1: 1-10.
・Usui, T. et al. (2017) Journal of Animal Ecology, 86: 250-261.

◎一般の方が参加できる渡り鳥の調査について

・eBird; “eBird” + “cornell” でキーワード検索するとHPにたどり着きます。(2021年3月6日閲覧)
・Sullivan, B. L. et al. (2009) Biological conservation, 142: 2282-2292.



Author
執筆: 遠藤 幸子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
ある渡り鳥との出会いがきっかけで、これまで鳥の生態を研究してきました。その日々のなかで出会ったモズという小鳥と研究者たちが、世界にはたくさんの不思議があるということを私に教えてくれました。未来館で、みなさまが不思議に思うことをぜひ教えてください。みなさまの不思議と科学をつなぐことができたら嬉しいです。