働き方改革が進み、コロナ禍が「全員が同じオフィスで働く」という考えを揺さぶっています。業界や企業規模にもよりますが、適切な職場とは? という模索が行われている印象です。

そんな中、オフィス家具を中心に働く環境作りを行うオカムラが首都圏の新オフィス「HEADQUARTERS OFFICE」を4月12日より完全予約制で公開します。1月より稼働している同オフィスを少し早く見学してきました。

  • 新オフィスの総合受付では、フィルムで光に変化を付け、効果を見る実験中

これからのオフィスに必要なこと

オフィスの存在意義が改めて問われている中、同社が出した答えは「みんなが集まることによる感情共有の体験ができること」だといいます。

それは例えば、社内外の交流を広げたり、新たなアイデアを生み出したりすることで、それが新オフィスのコンセプトである、「Boundary Spanning(バウンダリースパニング)」だと、同社のワークデザイン研究所 研究所長 内田道一氏は説明します。

この耳慣れない言葉、簡単に言うと「Activity Based Working(ABW)」をより進化させた位置付けみたいです。

ABWは自分の仕事内容に合わせて、働く場所や机などを選ぶ働き方で、幾つかの企業では導入されています。が、本来は自宅やカフェ、コワーキングスペースなどオフィス以外の場所でも働くスタイルですが、実際はオフィス内を「集中スペース」「執務スペース」「ミーティングスペース」などに分けて運用するケースが多いようです。

ちなみに、混同しやすい言葉でフリーアドレスがありますが、こちらは「オフィス内に自席が無いこと」で、ABWほど自由度は高くありません。

部門の壁を横断する

バウンダリーは「境界線」を表す英語ですが、ここでは心の境界線と理解するのがよいでしょう。

つまり、自分が所属する組織の部門、営業、開発、管理本部などありますが、そうした機能で区分された場所にいると自然と壁ができてしまう。その壁をスパニング=横断して交わろう、という趣旨だと内田氏は話します。

  • バウンダリースパニングの考え方 提供:オカムラ

この結果、役員は固定席を持つけど、部長職以下はすべてABWの考えにのっとり、どこで働くのも自由。自分が所属する部門として、ゆるやかな境界はあるけれど、敷居はない。それが考え方のようです。

内田氏: 仕事をサイクルで区分すると、ゼロベースから新しいものを生み出すのはリアルな場での対面形式。方向性が決まったら自宅でも、サテライトでも形にできます。そして、最後の仕上げ、社外にリリースする時は再びオフィスで対面しながらまとめる。我々はそう考えています。

こうして変化した新オフィスは、一般的に「オフィスの自分の机」である執務室や、ペーパーレス化で収納スペースの割合が縮小。逆にコミュニケーションを増やすため、会議エリアや社内共創エリアなどの割合は拡大しています。なお、オフィスの物理的な面積は以前より2割程度減ったと話します。

  • ヘッドクォーターオフィスの機能別面積割合の変化 提供:オカムラ

新オフィスを見学

社員が働き始めて4ケ月目となる新オフィス、少し現場の様子も見ることができました。入ったのは執務エリアということで、立っても座っても仕事ができるハイテーブルや、ソファ座席などさまざまな家具が配置されています。

そしてペーパーレス化、オンラインミーティングを気軽に行えるよう、あちこちにモニターが設置されているのも特徴です。

  • 立っても、座っても仕事できるハイテーブル

  • モニターがあちこちに設置

また、コミュニケーションのきっかけ作りとなるような、書籍や雑誌などが置かれたライブラリースペースも設けられていました。

  • ライブラリースペース

  • ビジネス書からデザイン資料などさまざまな本が用意

なお、座席は一部を除き同社の「Work×D(ワーク・バイ・ディ)」で運用され、机に貼られたQRコードを読み取ることで予約や利用が管理されています。

  • 「Work×D(ワーク・バイ・ディ)」で座席は管理されている

それ以外だと、室内を暗くし、音や視線をさえぎって、集中して作業できる「コンセントレーションエリア」という場所や、他の拠点の社員と予約なしのフリースペースとして使ったり、社外のメンバーとイベント開催など共創したりする場として機能する「WiL-BA」などが目に付きました。

  • 吸音材で囲われた「コンセントレーションエリア」

  • 共創する場やパントリーとしても使える「WiL-BA」

社員に浸透しているのか

さまざまな場を用意し、バウンダリースパニングを誘発するようにしているようですが、素朴な疑問が1点。果たして、うまく機能するのでしょうか? 執行役員 働き方コンサルティング事業部長 大野嘉人氏に話を聞くことができました。

――部門を超えて社員が交わるため、何か意識していることはあるのでしょうか。

大野氏: まずはマネジメント層が変わらないとダメだろうと考え、社員の誰もが見える場所で率先して、頻繁に打ち合わせするよう心掛けています。また役員同士が部屋でミーティングする時も、扉がなく、壁もガラス張りなのでこれもオープンな状態にしています。

これは役員室だけでなく、工房と呼ばれる新製品開発の開発研究室もガラス張りにし、偶然通った空間デザイナーが気軽に意見をはさむ姿もあるそうです。

  • オープンな環境

――バウンダリースパニングの考えを社員に浸透させる施策はあったのでしょうか。

大野氏: 移転の3ケ月前から、「移転準備TV」として動画を配信しました。あまり大げさな内容にせず、ニュース感覚で新しいオフィスでの働き方を見てもらい、今回の意図などを理解してもらっています。

――では、入り交じるという効果は出ていますか。

大野氏: オフィスを変えたことで、部門を超えたミーティング機会は圧倒的に増えています。特に経営部門などのコーポレートのメンバーもABWとなったので、今までは滅多に参加しなかった彼らも同席することが少なくありません。

――コーポレートがABWというのは珍しいですよね。

大野氏: ABWが浸透し、世間に認知され始めているのを見て、彼らから「やりたい」という声が出たのがきっかけです。

――改めて、バウンダリースパニングとは何でしょうか。

大野氏: 私たちは数年前よりABWを導入し、運用の中でその問題点も分かっています。それは「ここが自分たちのエリア」という場所があったほうが良いということ。ですから、バウンダリースパニングとは同じ部門内のメンバーが「何となく決まった場」でコミュニケーションを取りつつ、そこから部門外ともどんどん交じっていくイメージです。進化したABWと私は思っています。


自分たちも働き方を実験中だというオカムラ。今回の取り組みは検証され、今後のサービスにフィードバックしていくといいます。どんな結果なのか、楽しみですね。