名古屋大学(名大)は、血糖値の安定化に寄与する機能を有した、天然アミノ酸からなる生理活性ペプチドを発見したと発表した。

同成果は、名大大学院 工学研究科の本多裕之教授、同・生命農学研究科の柴田貴広教授らの研究チームによるもの。詳細は、学術雑誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載された。

今、日本を含めて世界的に、過食、運動不足、肥満、ストレスといった適切でない生活習慣に起因する二型糖尿病が深刻な問題となっている。二型糖尿病は、主に膵臓の膵島機能不全によるインスリン分泌の低下や、インスリン感受性が低下するインスリン抵抗性が原因で発症する慢性疾患だ。

現在、経口血糖降下薬「スルフォニルウレア」や「ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)-4阻害薬」、注射剤「インクレチン製剤」などの薬が処方されているが、それぞれ課題があり、よりすぐれた治療薬が求められている。

そこで研究チームが今回着目したのが、遊離脂肪酸だ。腸管内にある遊離脂肪酸の受容体である「遊離脂肪酸受容体1(GRP40/FFAR1)」が活性化すると、インスリン分泌が促され、血糖値の上昇が抑えられるという効果がある。しかし、これまでに開発されてきたFFAR1を活性化させられる低分子化合物は、毒性や副作用が報告されており、それらのより少ない、安全な化合物の開発が求められていたという。

そうした中で今回の研究において、これまでの低分子化合物と同様のFFAR1に対する活性を持ちつつ、毒性の低い候補化合物として、天然アミノ酸が短く連なった化合物であるペプチド「STTGTQ」が発見された。STTGTQとは、20種類あるアミノ酸それぞれを1文字で表したもので、Sはセリン、Tはスレオニン、Gはグリシン、Qはグルタミンを表している。

さらに、機械学習を用いた配列機能相関解析により、より高い活性を持つペプチドも探索できることを明らかにしたという。実際に、STTGTQの約3倍も高活性で、より低濃度で高いインスリン分泌を示すペプチド「STKGTF」も発見された。Kはリジン、Fはフェニルアラニンを表している。

これらのペプチドは、膵臓β細胞において、血糖濃度依存的にインスリン分泌を促すことが確認された。さらに腸内分泌細胞では、膵臓β細胞を刺激してインスリンを分泌させる消化管ホルモンの「インクレチン」のうち、「GLP-1」の分泌も促進。要は直接的と間接的とどちらの効果も併せ持っており、これらの結果から、従来のFFAR1作動薬に代わる新たな血糖値安定化物質になる可能性があるという。

さらにこのペプチドを改変し、今回の研究で構築された可食性タンパク質由来のペプチド約20万種類を収載したデータベースで照合。その結果、同等の活性を持つ、可食性タンパク質に由来する3種類のペプチドを同定することにも成功したとした。

今回発見されたペプチドは、二型糖尿病や肥満の予防・改善に効果がある機能性食品への利用や、FFAR1作動薬の基礎研究に役立つことが期待されるとしている。

  • 名古屋大学

    今回の研究の流れ (出所:名大プレスリリースPDF)