皆さんこんにちは。科学コミュニケーターの鎌田です。

未来館で科学コミュニケーターとして働き始めて3年目になりますが、コミュニケーションの難しさを日々実感しております。

例えば、私たちは展示フロアで来館された皆さんとお話をさせていただくのですが、見た目が非アジア系の方とお話しようとして頑張って英語で話しかけたら、流暢な日本語で返ってくることがあり、思わず「日本語がお上手ですね」と言ってしまうことがあります。

ほかにも、お子さんとお話するときに、見た目から性別を判断して「お兄ちゃんは…」などと話しかけてしまうことがあります。迷子のお子さんに「お父さんとお母さんは?」などと聞いてしまうこともあり、こういう言葉が出た後にはっとすることがあります。


皆さんはこのような言動をどう思いましたか?なにか気になるところはありましたか?

実はこうした言動は、日常の生活の中で何気なく行っているものなのですが、場合によっては相手を傷つけていることもあるのです。

こうした、日常的に起こりうる、無意識のうちに相手を傷つける言動のことを「マイクロアグレッション」といいます。「マイクロ」はこの場合は「日常の」、「アグレッション」は「攻撃性」の意味です。

身近に潜む、マイクロアグレッションとは

マイクロアグレッションとは、日常の生活の中で起こる、意識的かそうでないかにかかわらず、相手をけなしたり見下したりする言動のことをいいます。特に、国籍が違う方・女性・性的少数派(LGBTQ含む)・障害を持った方などといった方々に対するマイクロアグレッションは、気が付かないうちに発していることがよくあります。

なお、「マイクロ」は、「小さい」という意味でもよく使われていますが、ここでは「日常で起こりうる、身近な」といったことを指しています。決して「被害が小さい」という意味ではありません。


マイクロアグレッションは大きく3つに分類されますが、今回はそのうちの2つについて取り上げたいと思います。

1つ目は、相手のアイデンティティをおとしめる「マイクロインサルト」(インサルトは侮辱するの意味)です。例えば、外国の人に対して「日本語が上手ですね」(裏のメッセージ:あなたは日本人とは違う)と言うことや、女性に対して「結婚しないの?子どもは?」などと聞くこと(裏のメッセージ:女性は結婚して子どもを産むべき)などが当てはまります。

2つ目は、相手の感じたことや経験したことをないものとしてとらえようとする「マイクロインバリデイション」(インバリデイションは考慮しないなどの意味)です。例えば、友人に同性愛者であることを打ち明けると「そんなこと関係ないよ。あなたはあなただよ」と言う(裏のメッセージ:あなたの感じたことは大したことではない)ことや、「自分には有色人種の友人がいるから、差別はしない」などと自分にバイアスがないことをアピールするような発言などが当てはまります。ほかにも、「自分の周りには障害をもつ人はいない」など、自分は知らないだけなのに「存在しない」ことにしてしまうような発言もマイクロインバリデイションに当たります。


この2つは、発し手側に相手を傷つける意図はないまま、むしろ善意のつもりで発しているにもかかわらず相手を傷つけてしまっているという場合があり、とても厄介なのです。

例えば、先ほどの例で考えてみると、見た目で判断して英語で話しかけたり、「日本語がお上手ですね」という言動の裏に、受け手は「あなたは日本人とは違う」というメッセージを感じ取ってしまう場合があります。「お兄ちゃんは」という言葉には、「(髪の長さや服装など)このような見た目は男の子」というメッセージ、「お父さんとお母さん」というと「異性愛があたりまえ」「両親がそろっていてあたりまえ」といったメッセージを感じ取ってしまうかもしれません。

個人の心身のみならず社会的に影響をあたえることも

マイクロアグレッションは、たとえ発し手に悪意がないとしても、受け手には不快な気持ちになるだけではなく、心身への影響、さらには社会的な影響をも及ぼすことがあります。

例えば、マイクロアグレッションによるストレスが続くと、どきどきと動悸が激しくなったり血圧が高くなったり、免疫系への影響により疾患にかかりやすくなることがあります。また、心理面への影響としては、自尊心が傷ついたり、精神疾患やうつ状態を招いたりすることもあります。時には、マイクロアグレッションによるイメージ通りの行動を無意識的に行ってしまうこともあり、その人が持つ能力を十分に発揮できないこともあります。例えば、「数学のテストは男性の方が女性よりも点数が高い」と言われたうえで数学のテストを受けると、たとえ実際には男女の成績に差がないグループで実施したとしても、テストの結果はイメージ通りの男性よりも女性のほうが低いという結果になってしまうことがあります。


では、マイクロアグレッションに立ち向かえばよいかというと、それはそれで多大なエネルギーを必要とし、気力と労力を割かれることとなります。相手は善意から言っている場合も多いので、立ち向かっても周囲から理解を得られない場合もあるでしょう。そうなると、厄介者というレッテルを貼られてしまうことになり、そのコミュニティ立場が悪くなったり、居場所をなくしてしまうこともあるかもしれません。


このように、マイクロアグレッションによる影響は多岐にわたり、個人ではどうにもならないところまで影響を与えかねないのです。

マイクロアグレッションは、無意識のうちに自分がもつステレオタイプやバイアスの表れ

では、そもそもなぜマイクロアグレッションは起こってしまうのでしょうか。

マイクロアグレッションが起こりやすい背景には、物事に対するステレオタイプやバイアスによる影響があります。私たちは誰もがこれまでの生活の中でさまざまなステレオタイプやバイアスの影響を受けてきています。そしてそれらが無意識のうちに言動のなかに表れてしまうと、場合によってはそれが相手を傷つけることになってしまいます。

つまり、私たちの誰もがマイクロアグレッションを起こしてしまう可能性もあれば、逆にマイクロアグレッションによって傷つく可能性もあるのです。


マイクロアグレッションを起こさないようにするには、自分が持つバイアスを認識することが大切です。

皆さんは、自分がどんなバイアスを持っているか考えたことはありますか?

個人の潜在的なバイアスを数値化するImplicit Association Test(IAT:潜在的連合テスト)では、どんな人でも程度の差こそあれ、バイアスを持っていることが分かります。英語のページではありますが、よろしければ皆さんもお時間があるときに試してみてください。

潜在的連合テストはこちらから無料で受けることができます。
https://implicit.harvard.edu/implicit/takeatest.html

マイクロアグレッションはハッキリと線引きができない

冒頭でご紹介した私の言動を、皆さんはどう感じたでしょうか?何かもやっとしたものを感じた方もいれば、「そんなことを気にするの?気にしなければいけないの?」と思った方もいたかもしれません。後者のように思えるのは、「多数派」に属している場合であり、「少数派」の人たちには違うメッセージとして届いているかもしれないということに気づいていただけたら嬉しいです。


ただ、人によって感じ方はさまざまなので、相手に悪意がないことを知りながらも傷つき複雑な思いを抱える人もいれば、日常的にマイクロアグレッションに晒されすぎて当然のものとして受け入れてしまう場合もあります。

また、一度だけなら不快に思わなくても、何度も何度も同じようなことを言われ続けていたら、不快に思うこともあるかもしれません。

そして、自分ではなく他者に向けられたマイクロアグレッションによって傷つけられることもあります。例えば、ふと目にしたSNSの投稿で、男性2人が写っている写真に対し「ゲイじゃないよ」というコメントを見つけてしまった場合など、たとえ自分に向けて発されたものでなくても傷つく人もいます。


私たちがそれぞれに無意識のバイアスを持っている以上、マイクロアグレッションに無関係な人はいません。マイクロアグレッションのとらえ方や感じ方は人によって違うので、複雑でわかりにくく感じるかもしれませんが、大切なことは、いつも相手の感情を想像しながらコミュニケーションを取ることです。


多様な人々が暮らす社会において、まず自分自身が持つバイアスを自覚すること、そして身近なコミュニケーションに潜むマイクロアグレッションの可能性に気づくことは、コミュニケーションの相手を尊重する上で欠かすことのできないものです。

このブログを読んでいただいた方で、「もしかしたら自分もマイクロアグレッションをしていたかもしれない」と思われた方もいるかもしれません。私もこの概念を最初に知ったときは、その一人でした。今も、ついやってしまっているだろうと思っています。このブログは、決して誰かを責めるためのものではなく、マイクロアグレッションに気づく人が増えるといいなという想いから執筆したものです。相手を傷つけないコミュニケーションの取り方について考えるきっかけとなれば嬉しく思います。


他者を大切にできる人が増えることが、誰もが暮らしやすい社会に近づくための近道かもしれません。

【参考文献】

Sue, D. W., Capodilupo, C. M., Torino, G. C., Bucceri, J. M., Holder, A. M. B., Nadal, K. L., & Esquilin, M. E., 2007, “Racial Microaggressionsin Everyday Life: Implications for Clinical Practice,” American Psychologist, 62: 271-86.

Sue, D. W., Alsaidi, S., Awad, M. N., Glaeser, E., Calle, C. Z., & Mendez, N. (2019). Disarming Racial Microaggressions: Microintervention Strategies for Taargets, White Allies, and Bystanders. American Psychologist, 74, 128-142.

金友子, 『マイクロアグレッション概念の射程』立命館大学生存学研究所.

有田佳代子・志賀玲子・渋谷実希編著(2018),『多文化社会で多様性を考えるワークブック』研究社.



Author
執筆: 鎌田 芽生(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
病気で入退院を繰り返した経験から、漠然と医療への仕事に興味を持つ。大学では理工学部で細胞を用いたがん研究により修士(理学)を取得。研究活動をするにつれて、医療現場での仕事に強く興味を持ち、治験コーディネーターとして泌尿器科やがん領域などの治験業務に携わる。そして「科学の基礎知識を深め、もっと多くの人と関わりたい」と思うようになり未来館へ。