日々自分の肉体を鍛錬し、本番では十分に力を出し切る……。一流のアスリートの毎日は緊張の連続だ。半端ではないプレッシャーを乗り越え、よりよいパフォーマンスを実現するのに格好の方法があることをご存じだろうか。それは「3行日記」を書くこと。人間の生命活動の根幹を支えるのは自律神経だが、それを整えるのに、日記を書くことが効果的だからだという。いったいどういうことなのか、どのように書けばいいのかを自律神経研究の第一人者・小林弘幸氏の著書『3行日記を書くと、なぜ健康になれるのか?』から学んでみよう。

一流のアスリート、アーティストは「日記」で自分のコンディションを記録する

忙しい毎日を過ごしている私たちは、嬉しいことがあれば気分が上がるが、一転ちょっとしたことでイライラしたり、落ち込んだり、不調を感じることもしばしばだ。そんな心や体の好不調は自律神経のバランスに左右される。自律神経とは、人間の体全体に張り巡らされた神経で、血液循環や呼吸、消化吸収、排泄、免疫、代謝、内分泌など、人間が生きていくために欠かせない機能を司っている大事なもの。だから、私たちが心身の好調を維持するためには、この自律神経のバランスを整えることが非常に重要になるのだ。それと日記を書くことにはどんな関係があるのだろうか。

周囲をうならせるような超一流のパフォーマンスを見せる人は、どの人も例外なく健康に気を遣っています。そして、そういう人の多くが日記をつけています。
アーティストで言えば、レディ・ガガ、アスリートで言えば、サッカーの本田圭佑選手や中村俊輔選手――みんな日々自分のコンディションを記録しています。(中略)それは、自分の心身にほんのちょっとしたバランスの狂い、それこそわずか1ミリの調子の狂いでもあれば、それが自分のパフォーマンスに影響することを心得ているからです。それともうひとつ、パフォーマーとして絶対に避けなければならない病気や体調不良、スランプなどが、そういうほんの少しの小さなずれから始まることを思い知らされているからです。
(小林弘幸書『3行日記を書くと、なぜ健康になれるのか?』から抜粋。以下同)

だから、一流のパフォーマーは、日記をつけて自分のコンディションをチェックし、ベストなパフォーマンスができるようにしているのだろう。一方で日記には、たとえその人が負の流れの方に行きそうになっていても、リセットする効果もある。

私はもう10年以上にわたって「3行日記」をつけ続けているのですが、1日の締めくくりに日記に向かうと、いつも時の流れが止まったかのような感覚を覚えます。そして今日1日を振り返りながらペンを落とすと、その瞬間呼吸が整って自律神経がスッと落ち着くのです。(中略)
1日の終わりに「流れ」を止めて、その日の出来事を振り返っていると、自分の思う方向へ流れをコントロールできるようになるのです。

つまり日記には、自律神経を整えると同時に心身をリセットする効果もあるのだという。しかし、日記はよく「3日坊主」になるものの一例として取り上げられるように、なかなか続けにくいものでもある。だが、小林氏の提唱する「3行」なら続けられるだろうか? どのように書けばいいのかを次にご紹介しよう。

1日の終わりに3行、ゆっくり手書きで書く

最初に心得ておくべきこととして、3行日記で書くべきことは3つ。

1.今日いちばん失敗したこと
2.今日いちばん感動したこと
3.明日の目標

順番もこの通りに書く必要がある。なぜなら、この順番で書くとモチベーションを高めることができ、より効率的に自律神経の力を引き出していくことができるのだそうだ。

その他の注意事項としては、

・1日の終わり、「もう後は寝るだけ」という時間帯に
・ゆっくり、ていねいに必ず手書き
・落ち着ける場所で、必ず自分ひとりになって机に向かって書く
・字数の制限はないが、ノートや日記帳に1テーマ1行でおさまるよう、なるべく簡潔に

そして意外なのは、必ずしも毎日つけなくてもいいという点。忙しい時や、急な用件が入ってきたときなど、落ち着いて日記に向かう時間がないことは往々にしてある。そんなときは無理に頑張ってつけなくてもいい。

ただ、心しておいていただきたいのは1日や2日空いても、いつでもすぐに日記に戻れるようにしておくということです。
私は、3行日記は「自分の拠りどころ」となる存在だと思っています。長くつけ続けていると、毎日の自分の行動や心の変化を書き綴っている日記が、だんだん「自分そのもの」のように思えてきます。どんなにつらいことがあった日も、どんなに疲れた日でも、帰っていつものように日記を開けば、ふっといつもの自分に戻れます。そういうことを長く続けていると、毎日、日記が自分を待ってくれている気にもなってきます。

日記の“意識づけ”が自律神経を“その気”にさせる

3行日記の書き方がわかったら、次に気になるのはその効果はいつ頃から現れるのかということ。講演で3行日記について話したり、自律神経研究の第一人者としてアスリートの指導にあたったりすることもある小林氏は、早ければ1~2週間で効果が現れるはずだと説明しているのだという。

たとえば、体の調子が良くなってきたり、仕事中イライラしなくなってきたり、何事も落ち着いて行動できるようになってきたり、身のまわりのいろんなことがうまくいくようになってきたり……。日記をつけはじめて1~2週間経ってからこうした変化が現れてきたなら、効果が出てきた証拠といっていいでしょう。

こうした変化が自分で感じられるのはもちろんだが、日記をつけていると周囲に自分の印象がなんとなく変わったことを指摘されることも少なくないのだそうだ。さらに書き続けていると、さらなる変化が。

なお、こうした変化が現れてくると、以前日記に書き落とした文言が、日中の活動時にふと頭に浮かんでくるようになります。(中略)
そして、このように、日記に書いた言葉が後々になって思い出されるようになってくれば、もう十分に日記を活用できていると断言していいでしょう。なぜなら、日記の文言が頭に浮かぶのは、それだけ強く“意識づけ”ができているということだから。つまり、短い文言での意識づけが成功して、自律神経が“その気”になってきていることを示しているのです。

自律神経がその気になるとはどういうことなのか。その気になればどのようなことが起こるのだろう。

3行日記は息苦しい日々に自分を見つめなおすツールにも

まず、人が失敗してしまうときとはどのような時なのだろうか。
心に余裕がなく、自信がない。体調が悪かったり環境が悪いと感じられる時。また予想外のことが起きてしまった時も、動揺してしまい十分なパフォーマンスができないことがある。

ただ、これらの要因は、3行日記をつけて自律神経を安定させていれば、ほとんどが未然に防げるのです。(中略)
日々「なぜうまくいかなかったのか」「なぜ、うまくできたのか」ということを分析して、「じゃあ次はこうしよう」というシミュレーションをしていくことで、失敗しない“意識づけ”を行っていることになるのです。(中略)
3行日記は、言ってみれば「二度と同じ失敗をしないための“意識づけ”のツール」のようなもの。普段からこれをつけていれば、同じ失敗を繰り返すことなく、失敗やミスの経験を生かして1日1日どんどん自分を成長させていくことができるでしょう。

一流のパフォーマンスを求められるアスリートはもちろんのこと、なかなか収束の目途が見えないコロナ禍で、息苦しい生活を強いられている私たちにも、3行日記を書くことは心身の安定に効果がありそうだ。

「空を見上げる」という行為と、「1日の終わりに日記を書く」という行為には、意外に共通点があるのかもしれません。
なぜなら、その行為をしているときだけ、バタバタとした喧噪から離れて、ふと我に返ることができるからです。“ああ、空が青いな” “今日も1日よく生きたな”といったことに意識を傾けると、心と体にちょっとした余裕が生まれます。すると自分らしい冷静さを取り戻すことができるのです。
私は何かと忙しい現代人にとっては、こういう“ふっと我に返る時間”を増やしていくことがとても大切なのではないかと考えています。

心身のコンディションと日記を書くことが、最初自分の中ではイメージ的につながらなかった。しかし、忙しい毎日を過ごしていると、その時強く思ったことや体が感じたことがあっても目先のことに紛れ、いつの間にか忘れてしまうことが少なくない。そんな日々の、自分の振り返りツールが日記なのだ。よりよい未来を描いていくためにも、今日から3行ずつ。小さなことからでも積み重ねていきたいと思う。


<参考図書>
『「3行日記」を書くと、なぜ健康になれるのか?』

小林弘幸著/アスコム刊
自律神経研究の第一人者・小林弘幸医師が自らも長年実践している自律神経コントロールの実践法を詳しく解説。ガン、糖尿病、高血圧など、自律神経のコントロールであらゆる病気は防げると提唱。最強の健康法であり、日々のパフォーマンスをあげる究極のツールである「3行日記」の書き方と活かし方のすべてを公開。


PROFILE 小林弘幸
順天堂大学医学部教授。日本体育協会公認スポーツドクター。
順天堂大学医学部卒業、同大学院医学研究科を修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て現職。自律神経研究の第一人者としてトップアスリートや文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導に携わる。主な著書に『聞くだけで自律神経が整うCDブック』(77万部)、『医者が考案した「長生きみそ汁」』(80万部。ともにアスコム刊)などベストセラー多数。

Text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
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