ニホンウナギはどこにいる?

突然ですが、みなさんのお住いの地域にウナギはいますか?

近年の乱獲や海洋環境の変化によって、個体数の減少が危ぶまれているニホンウナギ(以下、ウナギ)。「そもそも、ウナギは日本のどこにいるんだっけ?」と思い立ち、手元の図鑑(『小学館の図鑑Z 日本魚類館』)を開いてみたところ、

日本では11〜4月に沖縄県〜岩手県の太平洋沿岸(稀に青森県、北海道南部)の河口域に接岸する

とあります。

恥ずかしながら、私は大人になるまでウナギに興味を持ったことがなく、ずっと「川(だけに生息する)魚」だと思っていたのですが、実際は海と川の両方を行き来する魚です。

ニホンウナギの生活史。驚くべきはその移動距離。日本から2500km以上離れた遠い南の海で生まれ、黒潮にのって日本など東アジアの国々の河川や河口にやってきて成長し、また南の海に帰って産卵する。
(出典:水産庁資料「うなぎをめぐる状況と対策について(2021年3月、https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/attach/pdf/unagi-183.pdf)」を元に作成)

しかし、さらに調べていくと「ウナギがどこに、どれくらいいるのか」ということは、まだよくわかっていないようなのです。ウナギは岩陰や砂の中に隠れるのが得意で、観察するには少し厄介な魚。もちろん、定置網を仕掛けるなど、捕獲の方法はいろいろあるようですが、日本にはウナギの生息地になりそうな河川や湖沼がたくさんあります。それぞれの調査地で捕獲して調べるには膨大な手間がかかるのです。

ところが最近、「ウナギが日本のどこにいるのか、ウナギそのものを捕獲することなく分布を調査した」という研究報告がありました。

研究者たちが注目したのは生物がもつ「DNA」でした。

DNAを見れば、持ち主がわかる

研究の紹介をする前に、少しだけDNAについておさらいしておきましょう。

生き物のからだの中にあるDNA。その正体は糖、リン酸、そして「塩基」と呼ばれるものが1セットになって、それが長くヒモ状につらなった物質です。塩基には4種類あり(下の図中のA、T、G、C)、生物の種ごとに固有の塩基の並び順(塩基配列)をもっています。

(イラスト:科学コミュニケーター三澤)

DNAは細胞の中に入っています。

DNAの塩基配列は、シーケンサーという装置を使って読み取ることができます。(これはお家でちょちょっとやる、というわけにはいきませんが)そうやっていろんな生き物の配列情報をコツコツ集めて生物名との対応リストをつくっておけば、どこかで持ち主不明の細胞のカケラを拾ったときに、塩基配列を読み取るだけで細胞の持ち主の名前(種名)がわかります。

「細胞のカケラなんてどこにあるのかな?」と思った方はちょっと想像してみてください。

たとえば、私の今日のお昼ご飯はタマゴとハムのサンドイッチだったのですが、私の机の上に落ちた食べかすの中にはニワトリ(タマゴ)やブタ(ハム)の細胞が混ざっているかもしれません。あるいは、道端に落ちている鳥のウンチには、ウンチをした鳥自身の腸の細胞や、鳥が食べた動植物の細胞、そしてフンを分解しようとやってきた微生物たちの細胞が混ざっていることでしょう。実は私たちの身の回りにはたくさんの細胞のカケラが落ちています。

ではちょっと視点を変えて、海や川で水をすくってみたら、そこにはどんな細胞が混ざっているでしょうか?

きっとそこには海や川の生物たちの食べかす、フン、はがれ落ちた表皮など……つまりたくさんの細胞のカケラとそのDNAが、そこに生物がいた痕跡として残っているはずです。

こんなふうに、土壌や水中などの環境中からとれる様々な生物たちのDNAのことを「環境DNA」といいます。

「環境DNA」からウナギの分布を調べる

さて、ウナギの話にもどりましょう。

北海道大学大学院水産科学研究院の笠井亮秀(かさい・あきひで)教授たちのグループは、日本全国265の河川(365地点)からそれぞれ数百mlほどの水をとってきて、フィルターを使ってDNAをこしとりました。そして、こしとったDNAの中にウナギのDNAが含まれているか、どれくらいの量が含まれているかを調べました。ウナギの個体数が多い場所では、水中に残るウナギのDNAの量も多くなると考えられます。

〇はウナギのDNAが検出された調査地点、◇は検出されなかった調査地点を表します。DNAの濃度が高かった場所は赤色、低かった場所は青色で表されています。(出典:北海道大学プレスリリース「ウナギはどこにいる?~絶滅危惧種ニホンウナギの分布域を環境 DNA 解析で推定~」)

その結果、ウナギのDNAが高濃度で検出されたのは、関東以西の太平洋側や瀬戸内海、九州西岸の河川でした。その一方で、日本海側の能登半島以北や北海道の河川ではほとんど検出されませんでした。

さらに、ウナギのDNAが高濃度で検出された河川の環境を調べてみたところ,ウナギのDNA濃度が低かった川に比べて窒素濃度が高いことがわかりました。一般的に窒素濃度の高い川は「キタナイ川」というイメージがありますが、ウナギにとっては「餌が豊富な川」ともいえるのです。ウナギは絶滅危惧種、と聞くと、保全のためには川をキレイにした方がいいのではないかと思いがちですが、この研究は「魚によって必要な環境はさまざまなのだ」という当たり前のことを教えてくれます。

実はこの研究には続きがあって、ウナギの仔魚が南方の海から日本までどのように運ばれてくるのかをシミュレーションして、「なぜこのような分布になっているのか?」をさらに考察しています。面白い実験をしているので、興味のある方はぜひプレスリリースもご覧ください。

一緒にさぐってみませんか?

こんなふうに、バケツでくんだ少しの水だけで海や川の世界をさぐることができるなら、みなさんはどこで調べてみたいですか?

「旅行で行ったあの川にはどんな魚がいたんだろう?」

「近所の海にはどんな魚がいるんだろう?」

「釣ったり潜ったりするだけでは見えない魚がいるかも?」

ちょっと気になってきたみなさんにおススメのイベントがあります。

少し先の話になりますが、今年の8月に環境DNA学会の研究者とオンラインイベントを行います。イベントに先立ち、参加者のみなさんには海や川など、それぞれ気になる水場で水をとって送っていただき、研究者がそれを解析します。8月のイベントではその結果を研究者と一緒に読み解いていきます。

今回ご紹介した研究は「ウナギがいるか・いないか」を調べていますが、このイベントでは「どんな種類の魚がいるか」を調べます。意外な魚の名前が登場するかもしれませんよ。

現在、参加者を募集中ですので奮ってご応募ください!

イベントの詳細や応募フォームはこちら

海や川には何がいる!? 環境DNAでさぐる、水の生き物とそのつながり

※事前にサンプリング(水の採取)をしていただく都合上、募集は4月2日(金)までと少し早めの日程になっております。ご注意ください。

《イベント概要》

イベント詳細はこちら:https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202108081825.html

開催日時:2021年8月8日(日)10:30~16:00

開催場所:オンライン会議システムを使用

対象:小学4年生以上どなたでも(未成年の場合はその保護者も同伴)

※未成年の方は必ず保護者の方との2人ペアでご参加ください。

参加人数:10組

参加費:無料

《スケジュール》

4月下旬 :抽選結果の通知と、サンプリング用マニュアルとキットの発送

5月31日(月)まで:保護者と一緒での事前調査とサンプリング、及びサンプルの未来館への送付(消印有効)

8月8日(日) :オンラインイベント(当日)



Author
執筆: 小林 望(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
蚊をとりまく世界を探求する先生たちの生き方やお話が面白くて、先生たちの後ろにくっついてあちこち行った大学・大学院生時代。院生仲間とはじめた活動の中で、蚊や感染症についてたくさんの人と話す機会があり、科学コミュニケーションに興味をもちました。どうしたらみんなで健康に生きていけるのかを考えるために、未来館へ。