アクセルスペースの地球観測衛星「GRUS」4機が3月22日(日本時間)、カザフスタン共和国・バイコヌール宇宙基地より打ち上げられた。同衛星はすでに軌道上で1機が稼働しており、今回の打ち上げ成功で合計は5機に強化。これで観測頻度は2日に1回まで向上し、本格的なサービス提供が可能になる体制が整う。

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    バイコヌールはまさかの雨模様。技術的な問題のため打ち上げは2日遅れとなったももの、衛星は無事軌道に投入された

日本橋ではライブイベントも開催

近年、多数の小型衛星を使ったコンステレーション観測に注目が集まっている。地上分解能ではどうしても大型衛星に分があるものの、小型衛星は低コストなため、数を多く打ち上げて軌道上に配置し、観測頻度を高めることができる。日本の衛星で複数の同型機が一度に打ち上げられたのは、これが初めてだ。

打ち上げは当初、2日前に行われる予定で、同社は誠品生活日本橋「FORUM」(COREDO室町テラス2F)にて、中継イベントを開催。しかし開始直後に打ち上げの延期が明らかになり、プログラムの変更を余儀なくされたものの、衛星や事業についてより深く説明する時間が取れたので、これはこれで面白かった。

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    イベント会場の様子。書店内のため、本に囲まれながらという、ちょっと面白い環境だった

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    延期にはなったものの、イベントは盛況のうちに終了。中央左が中村友哉CEO、右端が宮下直己CTO

アクセルスペースが構築を進める地球観測システム「AxelGlobe」は、2019年5月よりサービスを開始。これまでは初号機「GRUS-1A」のみのため、観測頻度は2週間に1回程度に留まっていたが、今回、同型機である「GRUS-1B」「1C」「1D」「1E」の4機が追加されたことで、これが2日に1回程度まで向上する。

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    今回打ち上げられた4機のGRUS。同型機なので外見上の違いは無い (C)アクセルスペース

同社の中村友哉CEOは、「4機を打ち上げるのは、日本の宇宙利用にとっても意味のあること。複数の同型機を打ち上げ、地球を高頻度にモニタリングしていくというのは、これまでできなかったこと。ここから新しい宇宙の使い方が生まれてくるので、ぜひ皆さんも身近に考え、アイデアを考えていただければ」と期待を寄せた。

また宮下直己CTOは、「我々がアクセルスペースを作ったとき、まずリアルタイムで地球を見たいと思った。自転のリズムで人は動くし植物は育つ。頻度を1日1回に近づけて衛星画像を撮影するのはすごくパワフルで、1機と5機は全然意味が違う。高頻度で地球を撮影できる時間軸を開く日として、非常に注目している」とコメントした。

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    会場にはソユーズ2の模型も。打ち上げサービス事業者のGK Launch Servicesによる特別カラーになっている

軌道上のGRUS衛星は4機とも正常

今回のソユーズ2ロケットには、18カ国、38機もの衛星が搭載された。主衛星は、韓国の500kg級観測衛星「CAS500-1」。そして4機のGRUSに加え、日本の衛星としては、アストロスケールのデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」も搭載されている。そのほかは、キューブサットが多い。

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    上段のFregatに搭載された衛星。GRUSは90°ずつ4機を配置。一番上にはELSA-dが見える (C)アクセルスペース

15:07に打ち上げられたロケットは予定通りに飛行し、上段のFregatはまず高度約500kmでCAS500-1を分離。それから高度を約600kmまで上げてから、17:35と17:37に、GRUSを2機ずつ軌道上に投入した。Fregatはさらに、ほかの衛星のために今度は約550kmまで降下。これだけ複雑な軌道制御のために、Fregatは計7回もの噴射を行っている。

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    今回の打ち上げのインフォグラフィック。下の18カ国の衛星が搭載された (C)GK Launch Services

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    打ち上げが平日になったため、同社は急遽オンラインでイベントを実施。宮下CTOによるマニアックな解説が面白かった

所定の軌道に投入された4機のGRUSは、その後、18:23と20:00に地上局があるノルウェー上空を通過。ここで、衛星からの電波を受信することに成功し、4機すべての状態が正常であることが確認できた。

今後、軌道上で初期チェックを行った後、同社は2021年6月までに、5機体制による観測サービスの開始を予定している。中村CEOは「現在の顧客の多くは、5機を前提として、テスト的に使ってもらっている。1機から5機になるのは、単に利用が5倍に増えるという話ではなく、全く世界が変わること。本格的なサービスのスタートになる」を意気込んだ。

ところで今回の4機でユニークなのは、このうちのGRUS-1Dは福井県民衛星「すいせん」として、福井県が所有していることだ。福井県は、すべてのGRUS衛星が上空を通過する際には優先的に使用できるため、1機のコストで高頻度観測のメリットを受けることができる。一方アクセルスペースにとっては、衛星の機数を増やせるメリットがある。

同社は今後、2023年までにはさらに5機を追加し、10機体制の実現を目指す。コストの負担を下げつつ、もっと衛星を増やしていくには、この方法は非常に有効。まず5機体制での観測を本格的にスタートさせ、福井県との協力を成功事例とすることは、今後の呼び水とするためにも重要だと言えるだろう。