伊藤美来、全国ツアー最終公演で見せた多彩なポップの形

伊藤美来がキャリア初となる全国ツアー『伊藤美来 Live Tour 2021 Rhythmic BEAM YOU』の最終公演を3月21日(日)、パシフィコ横浜国立大ホールにて開催した。

このツアーは昨年12月にリリースされた3rdアルバム『Rhythmic Flavor』を携えて実施されたもので、伊藤にとって初の大阪単独公演(3月6日開催のサンケイホールブリーゼ公演)と今回の横浜の計2公演を展開。ライブ本数こそ少ないが、緊急事態宣言下で万全な新型コロナウイルス感染症予防対策を講じて敢行することを考慮すれば、有観客で無事行われたことはファンにとって喜ぶべきことと言える。

横浜公演当日はあいにくの天気で、局地的な大雨や強風に見舞われるなど決してベストな状況ではなかったが、会場には久しぶりに伊藤と会うことを楽しみにしていた大勢のファンが駆けつけた。定刻を過ぎた頃に会場が暗転すると、無音の中でステージ側から客席に向けて眩い光が放たれる。すると、ステージ上には伊藤のシルエットが浮かび上がり、アカペラによるスキャットが会場中に響き渡るとともに「ワタシイロ」からライブは軽やかにスタート。冒頭のこの短いフレーズのみで、パシフィコ横浜という大きな会場を”ワタシイロ”に染め上げた伊藤は、ニューアルバム『Rhythmic Flavor』のアートワークを彷彿とさせるパステルカラーのステージで笑顔を振りまきながら「みんな、会いたかったよーっ!」と挨拶する。

続くアップテンポの「all yours」ではダンサーも加わり、ステージ上の華やかさが一気に増すことに。客席から歓声やコールを挙げることはできないものの、オーディエンスはハンドクラップを交えながら高揚感を伝えていく。さらに、ダンサブルな「ones heart」では天井に設置されたミラーボールが回転する中、伊藤はダンサーとの息の合ったパフォーマンスで観る者を魅了した。

3曲終えたところで、伊藤は「本当に来てくれてありがとうございます!」と感謝の言葉を告げると、「音楽を楽しんでもらいながら、夢のような時間、世界をお届けしたいなと思っています」とこの日のライブへの意気込みを口にする。ここからは『Rhythmic Flavor』からの楽曲を軸に進行。「hello new pink」ではピンク色の照明とピンク色のペンライトで会場が一色に染め上げられ、これからの季節にぴったりな曲調と相まって晴れやかさが増していく。続く「PEARL」では、伊藤の繊細さと力強さを兼ね備えたヴォーカルがより効果的に表現され、楽曲本来の魅力をさらに引き出していった。


新境地を伝えるにふさわしい1曲「vivace」

『Rhythmic Flavor』に収録された自身の作詞曲「いつかきっと」は、まさにこの日のために用意されたような内容。久しぶりにファンと対面することができた伊藤、そんな彼女と再会することができた観客が互いの絆を確かめ合い、伊藤は歌詞の一言一句を、感情を込めて丁寧に届けた。そのまま「あお信号」「ガーベラ」と緩急に富んだ選曲で彼女のさまざまな顔を見せていく。その真骨頂と言えるのが、『Rhythmic Flavor』のラストを飾るChara書き下ろし曲の「vivace」だろう。この曲では伊藤がステージに設置されたベッドに腰掛け、今回のツアーのために制作された取り下ろし映像をバックにしっとりと歌う演出を用意。深夜の囁きにも似たその繊細な歌声は、彼女の新境地を伝えるにふさわしい1曲だと断言できる。

彼女がそのままベッドに横たわると、会場が再び暗転。すると、スクリーンには朝目覚めた伊藤がベッドから起きる姿が映し出され、朝食など朝の支度をして家を出るまでの要素がショートムービーとして紹介される。この流れから『Rhythmic Flavor』のオープニング曲「BEAM YOU」へとつなげる構成は、アルバムのループするような世界観がそのまま投影された好演出だと言える。パンツスタイルに衣装替えした伊藤は、再びダンサーたちと一緒にピースフルな世界観を表現し、観る者を魅了し続けた。


Photo by 江藤はんな

ライブ後半戦に突入すると、「Plunderer」や「孤高の光 Lonely dark」といったアップテンポのシングル曲を連発。それまでの緩やかでポップな空気から一変し、高揚感が増していく流れに。ここでは、ライブで「盛り上がれる曲」をイメージして制作したという「Born Fighter」がキラーチューンと化していたことを特筆しておく。ロック色の強いこの楽曲では、ステージ後方に火柱が上がる派手な演出も用いられ、攻めの姿勢がもっとも強く表現されていた。きっと観客が声を出せる状況になったら、もっとも大きな声援が鳴り響く”アゲ曲”へと進化するはずだ。さらに、「恋はMovie」「Sweet Bitter Sweet Days」とポップでキュートなアップチューンも立て続けに披露され、クライマックスに向けて会場内の熱気も一段と高まっていった。


Photo by 江藤はんな

本編ラストナンバーを披露する前、伊藤は改めて今回のツアーに向けて「気合も入っていたし、いろいろ不安もあった」と本音を明かす一幕も。今回のライブ会場となったパシフィコ横浜は彼女が15、6歳の頃、初めて立った大きなステージであり、その場所に自身のソロライブで再び戻ってくることができたことに対し「自分で自分の成長を感じ、感慨深い」と話す。こうしたライブが実現できたのは、目の前にいるファンがいたからこそ……そう伝えようとすると、彼女の瞳からは自然と涙が溢れ出す。「まだまだ自信はないけど、ちょっとずつみんなのおかげで自信も付いてきて。これが私です、これが伊藤美来ですと胸を張って言えるような人間になってきたと思います」と、声を震わせながらファンへの感謝を伝えると、そのままラストナンバー「Good Song」へと突入。最初こそ涙で言葉が詰まってしまうも次第に持ち直し、自身が作詞した楽曲だからこそのたっぷり詰まった思いを、笑顔とともに届ける。そんな彼女の歌に、オーディエンスは温かな手拍子で思いを伝え、会場の一体感がピークに達したところでライブはクライマックスを迎えた。


進化するアーティスト=伊藤美来

アンコールに入る前には、スクリーンにて伊藤がオープニングテーマを担当する4月スタートのテレビアニメ『戦闘員、派遣します!』の告知映像を上映。続いてTシャツ姿に着替えた伊藤が再登場すると、4月28日リリースが決まったこのオープニングテーマ「No.6」を初披露することが告げられる。客席から喜びの空気が伝わる中、ブラスなど生音が印象的なこの疾走感が強いポップチューンを、ダンサーたちとともに激しいパフォーマンスで表現。『Rhythmic Flavor』でアップデートされた”伊藤美来流ポップス”のさらなる進化した姿を、見事に提示してみせた。

こうして約2時間にわたる全国ツアーファイナルは、大成功のうちに終了。伊藤は最後にノーマイクで「みんな、大好きだよ!」と叫び、ステージを降りた。最新アルバム『Rhythmic Flavor』に収録された全11曲を含む挑戦的なセットリストは、まさに攻めの姿勢で制作された同アルバムを携えたツアーだからこそ実現したもの。アーティストとして、そして表現者として、さらに一段高い場所へと到達した彼女が、ここから先どれだけ高品質の”伊藤美来流ポップス”を生み出し続けるのか。そして、シンガーとしてもめきめきと実力を付けている彼女が、次のステージでどんな歌を聴かせてくれるのか。ワクワクしながら次の機会を待ちたい。


Photo by 江藤はんな

『伊藤美来 Live Tour 2021 Rhythmic BEAM YOU』セットリスト

01. ワタシイロ
02. all yours
03. ones heart
04. hello new pink
05. PEARL
06. いつかきっと
07. あお信号
08. ガーベラ
09. vivace
10. BEAM YOU
11. Plunderer
12. 孤高の光 Lonely dark
13. Born Fighter
14. 恋はMovie
15. Sweet Bitter Sweet Days
16. Good Song
--ENCORE--
17. No.6