昨年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行していた時期に、風邪の原因となるライノウイルス感染が10歳未満の子どもの間で広がっていた、とする調査結果を東京大学医科学研究所が発表した。ライノウイルスはアルコール消毒が効きにくく、石けんを使った手洗いが有効だ。研究グループは今年も同じような状況になる可能性があるとして、子どもの手洗いの徹底を勧め、注意を呼び掛けている。

同研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らの研究グループは、2018年1月から2020年9月の間に横浜市内の医療機関で診断した2244人の呼吸器疾患患者(COVID-19患者を除く)から採取された呼吸器検体(鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、鼻汁、唾液など)を解析した。解析対象は10歳未満が1119人(49.9%)、10歳以上が1105人(49.2%)、年齢不明が20人(0.9%)だった。

解析の結果、代表的な呼吸器感染症ウイルスであるインフルエンザウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルスA、同B、エコーウイルスなどを検出。内訳は、インフルエンザウイルス(592人)が最も多く、次いでライノウイルス(155人)だった。475人からはこの2種以外のウイルスが検出された。ライノウイルスは鼻かぜの原因となるウイルスで、このウイルスによって引き起こされる風邪は主に春と秋に流行する。

研究グループによると、横浜市では2020年2月に初めてCOVID-19患者が報告され、その後10歳以上の患者報告数が増加したが、10歳未満の報告はほとんどなかった。解析の結果、COVID-19が流行した昨年1月から9月の間にライノウイルスの検出率が10歳未満で著しく上昇し、例年の2倍以上となっていたことが分かった。ライノウイルスはRNAウイルスで100種以上の血清型が存在するためにワクチン開発は難しい。

一方、インフルエンザウイルスやその他の呼吸器感染症ウイルスの検出率はCOVID-19流行後に全ての年齢層で低下していたという。

研究グループによると、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やインフルエンザウイルスなどのコロナウイルスは、表面が脂質の膜(エンベロープ)で覆われている。エンベロープを持つウイルスは、アルコール消毒液や石けんにさらされると破壊され、感染能力を失う。ライノウイルスはエンベロープを持たないため、アルコール消毒液は効きにくいが、石けんと水を使う手洗いは有効だという。

河岡教授らは「ライノウイルスは風邪を引き起こす主要な原因ウイルスだが、肺炎などの合併症を引き起こし重症化することがある」として注意を呼び掛けている。

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    横浜市でのインフルエンザウイルス(青い折れ線)とライノウイルス(赤い折れ線)の検出率と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者報告数(黄色の棒)。上は10歳未満、下は10歳以上(東京大学医科学研究所提供)

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