2021年2月19日午前6時頃(日本時間)、アメリカの火星探査機Perseverance(パーシビアランス)が約7か月の旅路を経て、火星に到着しました。これまでも数多くの謎を解き明かしてきたさまざまな火星探査機。「忍耐力」や「不屈の精神」という意味を持つ“パーシビアランス”はその名のもと、どのようなミッションに挑むのでしょうか。

パーシビアランス(©NASA/JPL-Caltech)

火星探査機パーシビアランスの興奮ポイント!

最大のミッションは、生命の痕跡を探ることです。火星に生命は存在している、もしくは存在していたという手がかりは今のところ見つかっていません。現在の火星はカラカラと乾燥していますが、数十億年前は今の地球と同じように川や海がある湿潤の時代だったということが、これまでの調査によってわかってきました。今回、パーシビアランスが着陸したジェゼロ・クレーターは、かつては湖があったといわれている場所です。水は、生命が存在するために必要な要素の1つ。パーシビアランスは、生命の痕跡を探るべく、その地の土壌や岩石などの調査を行います。

太古の火星のイメージ(©The Lunar and Planetary Institute NASA's MAVEN mission)

さて、火星時間で1年(地球時間で687日)にわたる任務をスタートさせたパーシビアランス。これからの活躍をより楽しむための中島厳選「パーシビアランスの注目ポイント」を3つご紹介したいと思います!

注目ポイント① ヘリコプター、火星の空を飛ぶ

パーシビアランスにはヘリコプターが格納されており、地球以外の惑星で初の動力試験飛行に挑戦します。火星の大空を羽ばたくヘリコプターの名はIngenuity(インジェニュイティ)、日本語で「創意工夫」という意味です。

インジェニュイティ。最上部にはソーラーパネルが設置されている。(©NASA/JPL-Caltech)

実は、火星の空を飛ぶというのは、簡単なことではありません。ヘリコプターはローター(回転翼)を回転させて空気を下に送り込み、重力と反対向きである上向きの力(揚力)を生み出すことで、体を宙に浮かせます。つまり、空を飛ぶためには空気(大気)が必要不可欠ということです。火星に大気はあるものの、地球と比べるととても薄く、大気圧は地球の約1/160。地球上と同じようにローターを回転させたとしても、押し出す空気の量が少ないため十分な揚力を生み出すことができません。加えて、ジェゼロ・クレーターはマイナス90度まで気温が下がるという過酷な環境、そして地球からも離れているため通信時差問題も解決しなければなりません。

このような課題に対し、研究者たちは創意工夫を重ねることでインジェニュイティを作り上げました。高さ約50cm、約1.8kgという小型で軽量なインジェニュイティは、計算上では1.2mのローターを高速回転させることで火星の空を羽ばたくことができます。さらに、インジェニュイティ自身が離陸から着陸まで自律飛行を行うシステムも搭載されました。

最大90秒の飛行を予定していることについてNASA(アメリカ航空宇宙局)のHPには、「ライト兄弟の初飛行の12秒と比べても、今回の飛行は至難の業である」と記されています。ライト兄弟が空に手をのばしたことで今があるように、インジェニュイティとその開発に携わった研究者たちによる今回の初飛行は、これからの未来を大きく変えることになるでしょう。この春頃に予定されている初フライトに目が離せません!

なお、動力飛行の技術は、無人・有人探査のための予備調査や、火星探査車では移動が難しい地形へのアクセスなどにつながると期待されています。

注目ポイント② ないものは作る、火星の大気から酸素を生成

火星の大気の96%は二酸化炭素で、酸素は0.13%(地球の酸素は21%)しかありません。火星に行けたとして、宇宙船の外に出て身一つで深呼吸しようものなら、一瞬で命を落とすことになるでしょう。そんな死の世界とも思える火星で、その大気を使ったとある実験が計画されています。それは、大気中の二酸化炭素から酸素を生成するというもの。そこで使われるのがMOXIE(モキシー)という装置です。

MOXIE(©NASA / JPL-Caltech)

MOXIEは、二酸化炭素(CO2)を電気分解することで、酸素(O2)と一酸化炭素(CO)を作り出し、1時間あたり最大10グラムの酸素を生成することができます。将来的に、多くの酸素を作り出せるようになれば、地球から酸素を補給せずとも安心して「全集中!鼻からの呼吸!」ができることでしょう。(※もちろん基地の中で)。しかし、酸素の使用用途はそれだけではありません。「ロケットの酸化剤」としても重要です。

燃料を燃やすには、酸素が必要です。日本のH-ⅡAロケットは、液体水素(燃料)に液体酸素(酸化剤)を加えることで燃焼させ、推進力を生み出しています。往復切符を持って火星探査へ挑む宇宙飛行士たちにとって、復路で使用するロケットの燃料と酸化剤は必需品です。地球から持参するとなると荷物のみならず、打ち上げ費用もかさむため、できることなら現地調達したいところです。そこで今回は、そんな未来を可能にすべく、はじめの第一歩として実験が行われます。

火星調査員でありながら、酸素生産者でもあるパーシビアランス。なんだか愛しく思えてくるのは、私だけでしょうか。

パーシビアランスの黄色の部分にMOXIEが搭載されている(©NASA / JPL-Caltech)
注目ポイント③ 無人機でバトンをつなぎ、サンプルを地球へ届ける

NASAとESA(欧州宇宙機関)は、「マーズ・サンプル・リターン(Mars Sample Return)」という火星のサンプルを地球へ持ち帰るプロジェクトを進めています。2020年12月、はやぶさ2が小惑星リュウグウのサンプルを持ち帰ったのと同じようなものですが、大きく異なる点が1つあります。それは、マーズ・サンプル・リターンの登場人物は、“パーシビアランス”だけではないという点です。今後打ち上げ予定の“サンプル回収ローバー”や“地球帰還周回機”なども仲間に加わり、それぞれがバトンをつなぐことでサンプルを地球へと届けます。

プロジェクトの具体的な流れはこちら。

【 】…登場人物(無人機)

①【パーシビアランス】がドリルで地面を掘り、地表面より深いところから岩石サンプルを採取。サンプルをチューブに入れ密封後、地表に放置。

②【サンプル回収ローバー】が放置されたチューブを回収し、【サンプル回収着陸機】まで輸送。

③【サンプル回収着陸機】にある小型ロケットにチューブを積載後、小型ロケットを打ち上げ。

④火星の周りをまわっている【地球帰還周回機】が小型ロケットを捕獲し、チューブを回収。

⑤【地球帰還周回機】が地球へと近づき、チューブ入りカプセルを地球へ投下。

無人機による華麗なバトンタッチ。番号は上のプロジェクトの流れに対応。(©ESAの画像に筆者が番号と日本語説明文字を加筆)

サンプル帰還は2030年代前半を予定しており、約10年にわたる宇宙リレーはスタートしたばかりです。まずは、第一走者であるパーシビアランスの走りに注目し、長い目で応援していきましょう!

サンプル回収着陸機から小型ロケットが打ち上がるイメージ図(©NASA / JPL-Caltech)

パーシビアランスからのお便り

パーシビアランスが火星に着陸してから早1か月が経ち、すでにいろんなお便り(情報)が届いています。さっそく、最新の火星の世界をのぞいてみましょう。

目に映るもの

下のYouTube動画では、パーシビアランスの目(カメラ)がとらえた火星の画像をながめることができます。画面を指でなぞると、360度好きな方向を見渡すことができます。

(©NASA/JPL-Caltech)

火星の地表は、酸化鉄(赤さび)を含む砂や岩石で覆われており、乾燥した大地が荒涼と広がっています。今の私の目には「無」に映るこの景色は、パーシビアランスや研究者たちの今後の活躍によって、数十年後には太古の生命を重ね合わせるように違った見え方をしているかもしれません。

今の皆さんの目には、どんな風に映っていますか?

耳をすませば

下のURLでは、パーシビアランスのマイクがとらえた世界初の「火星の風の音」と、岩石に向けてレーザーを照射し、岩石組成を調べる際の「レーザー照射音」などを聞くことができます。火星の大地を想像しながら、火星の音に耳をすましてみるのはいかがでしょう。もうそこは、まぎれもなく火星です。

▼火星の音はこちら「Listen to Audio From Perseverance」

https://mars.nasa.gov/mars2020/multimedia/audio/?s=03

最後に

NASAのHPでは、今まさにミッション中のパーシビアランスがどこにいるのかを見ることができます。新たなお便りを気長に待ちつつ、遠く離れた地で一人(一機)任務にあたっている“仲間”のようすを時折気にかけてみるのはいかがでしょう。私たちの知の領域を拡げてくれるであろうパーシビアランスの活躍に、こうご期待!

▼パーシビアランスの位置情報はこちら「Where is Perseverance?」

https://mars.nasa.gov/mars2020/mission/where-is-the-rover/?s=03

※位置情報は多少の遅れがあります。

【後編】では、火星の空と地球の空との違いについてご紹介します。皆さんにとって、見上げるといつもそこにある空は、どんな存在でしょうか?

関連リンク

  • MOXIE
  • MOXIE Could Help Future Rockets Launch Off Mars
  • ESA「Mars sample return」


Author
執筆: 中島 朋(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
高校生の時に宇宙飛行士が話す講演会に参加し、宇宙と宇宙飛行士に魅了される。その後、宇宙に関する研究をしたくて大学では物理学を専攻するも、なぜか放射線検出器の開発をすることに。そこで小さな電子部品の可愛さを知る。多くの方々とともに、科学と社会のより良いあり方を考えたいと、高校理科教諭を経て未来館へ。趣味は、宇宙飛行士のおっかけと有人宇宙開発に関する情報収集。