みなさんこんにちは!間取り好き科学コミュニケーターの高橋明子です。
最近花粉がすごいので眼に入らないよう、外出時には眼鏡をかけて薄目で歩いています……

さてこちらのブログでは、2月27日にお送りしたニコニコ生放送「わかんないよね新型コロナ 2021春」のおさらいをしていきます(遅筆過ぎて、後ろの放送回のおさらいブログが先に出ています、すみません…!)。

テーマは「積極的疫学調査」。

1~2月ごろに、「積極的疫学調査」というワードがニュースで飛び交っていました。
東京や神奈川で「縮小する」「元に戻す」といった報道が出ていましたが、そもそも「縮小前」にしていたことがよくわからない…。
というわけで、積極的疫学調査って何?というところからお話をしました。

積極的疫学調査って何?

まず疫学調査では、感染症などのいろいろな病気について、発生した集団感染の全体像や病気の特徴などを調べます。
「積極的」がつかない疫学調査の場合、感染症などの患者が出ると、診断した医師が保健所に報告します(下図左)。このとき保健所は、報告が上がってくるのを待ち、集まったデータを解析します。つまり自分からデータを取りにはいかない、「受動的」な調査といえます。


一方、積極的疫学調査では、発生の報告を受けた保健所が、感染しているかもしれない人(いわゆる濃厚接触者)を探し出し、これ以上感染が広がらないように先回りします(下図右)。たしかに積極的ですね。
というわけで、積極的疫学調査は、感染者になりそうな人まで先回りアプローチしていく疫学調査で、今後の感染拡大防止対策に用いることを目的としています。
なお、どんな人を濃厚接触者とするかは、感染症ごとに定められる条件にあてはまるかどうかで判断します。

新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(国立感染症研究所)
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf

感染者Aさんの行動履歴から、今後感染者になりそうな人まで先回りしてアプローチするのが積極的疫学調査(右側)。エコバックのオーダーいただきました。

積極的疫学調査の流れ

さてこの積極的疫学調査、保健所などの公的な機関によって行われるのですが、実際、どんな形で調査をするのでしょうか?
ちなみに私の想像図はこんな感じでした(保健所の皆さん、ごめんなさい)。

高橋による保健所の積極的な調査の想像図、Tシャツのオーダーいただきました

(サングラスはさておき)「会社とかで感染者が出ると、保健所の人がドヤドヤと来て調査」…と思っていたのですが、感染症対策のプロである堀成美さんいわく、そうではないとのこと。
何なら保健所ではなく、会社などの組織の人が主体で調査をすることもあるそうです。
一体どういうことなのか、順を追って積極的疫学調査の流れから確認していきます。

まず発症したAさんが病院を受診し、感染が確認されると、Aさんの情報は医師から保健所に送られます。
積極的疫学調査はここから始まります(下図一番右)。

積極的疫学調査の流れ① 保健所に感染者情報が届いたところから始まる
FAXに目が行く視聴者のみなさん

次に保健所から感染者に連絡が行き、感染者の行動履歴について聞き取りをしていきます。
この聞き取りで、発症日からさかのぼって14日間、接触があったであろう人を探していきます。
感染した人が会社や学校などの組織に通っていた場合、その組織内の方が聞き取りを行うとのこと。そして取りまとめた内容を保健所の職員が調査票に記録していきます。要は組織主体で調査を進め、保健所はサポートする、ということですね。
たしかに知らない番号から急に電話がかかってくるよりも、組織内の人からの方が連絡が着きやすそうです。

一方で、組織のように取りまとめをしてくれるような人がいない集団の場合、例えば同居家族や友人の場合、保健所の職員が直接聞き取りをしていきます。
この場合、感染者に紹介してもらう形で濃厚接触者に連絡を取ることになるので、たくさん友人が集まった、なんてケースでは連絡を取るだけでも相当時間がかかるそうです。
さらに県外などから集まったケースだと、それぞれの居住地を管轄する保健所に友人の情報を引き継ぐことに。

そして聞き取った内容はこのようなエクセルの調査票に入力していきます。ちなみにこの調査票、タブがたくさん並んでいて、記入欄がとても多い…!

新型コロナウイルス感染症基本情報・臨床情報調査票(エクセル)
自分でウェブ入力にした方が…という視聴者の声がたくさん。

会社などでは組織の人が取りまとめをしてくれるとはいえ、1人の感染者の濃厚接触者を調べ上げる作業は時間も労力もかかりそうです。

感染者が増えれば、保健所に相当な負荷がかかるに違いありません。

積極的疫学調査の流れ②感染者の行動履歴から濃厚接触者をさがす
こたつで寝てる人に気付く観察力…!

重点化=縮小?

さてこの積極的疫学調査ですが、冒頭でも触れた通り、東京や神奈川では感染者数が多かった時期に「重点化」(メディアによっては「縮小」という言い方も)するという報道がありました(現在は元の調査体制に戻っています)。
何がどう変わったのでしょうか?

市中に感染者が増えてくると、積極的疫学調査を行うにあたり、2つ問題が発生します。
① 感染経路がたどれなくなる
市中に感染者が少なければ、下図左のように感染者Aさんと接点のあった人(黒い点線内)の中から、上流の感染者を探し出し、さらにその上流をたどって…というやり方で、感染経路の特定がしやすいです。
ところが市中に感染者が多くなると、感染者Aさんと接点のあった人の中に感染者がたくさんいて、どこからが感染の上流なのかわからなくなってきます(下図右)。また実際の現場では無症状の感染者もいるので、さらに追跡が困難になります。
このような状況では、がんばって積極的疫学調査をしても十分な情報が得られません。

② 保健所のリソースが足りなくなる
一人の感染者の濃厚接触者を調べ上げるだけでも大変なので、感染者数が増えたときに従来通りの積極的疫学調査を続けると、保健所には大きな負荷がかかり、人手が足りなくなります。

これらの問題に対処するのに、限られたリソースを重症化しやすいハイリスクな人たちに優先的に向けるのが重点化です。
例えば神奈川県の場合、
・高優先:医療機関(特に高齢者が多い施設)、高齢者施設・福祉施設等
・中優先:学校/幼稚園・保育園の教員等
というように優先順位をつけて調べていく方針になっていました。
また、この中に含まれていない組織については、感染者が出た場合、従来通り組織主体での調査が行われるので、重点化されても実際の調査範囲や体制は大きくは変わっていなかったようです。

積極的疫学調査の重点化の徹底(神奈川県)
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/ekigakuchousa.html


この積極的疫学調査の重点化、感染状況に応じて行うようにマニュアルに明記されており、初めから織り込み済みの対応といえます。
「縮小」よりは「最適化」という方が実態に合っているかもしれません。

新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(国立感染症研究所)
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf

戻ってよかったね、でいい話?

現在、感染者数が減少してきたために、積極的疫学調査は通常モードに戻っています。何とか乗り切れたのはよかったのですが、戻すだけでよいのかを考える必要があります。
今後も感染状況の悪化はあるかもしれません。そのときにスムーズに対応できるように、省力化の工夫などが必要なのではないか、という話にもなりました。
視聴者コメントにもあったオンラインフォームでの入力や、よく聞かれる質問にはAIが答えるようなチャットボットの活用、聞き取り要員(トレーサー)の養成など、省力化の工夫の仕方はありそうです。感染が落ち着いたときでないと、こういったシステムの導入に注力できません。感染状況が悪化したとしても、保健所の機能を維持できる体制に更新していけるとよいですね。

何のために調査に協力する?

積極的疫学調査についてお話してきましたが、考えてみれば調査に協力しても、感染者本人が直接得をすることは少ないんですよね。
とてもプライベートに立ち入ったことまで話す一方で、自分の治療などにプラスがあるわけではありません。
でも話してくれることで、感染を広げないように対策することはできます。また、積み重ねた聞き取りのデータから、有効な感染対策の知見が得られることもあります。
感染者以外の人たちは、個人情報を提供してくれた人たちに感謝して、今後に活かすためにデータを使う、というのが当たり前になるといいな、と思います。そして感染者になったときには、自分の出す情報が今後の対策にとても重要であることを思い出してもらえるとうれしいです。
感染者も周りの人も、これ以上感染を広げないための対策に参加しているんだ、という前向きな気持ちで積極的疫学調査を捉えられる世の中にしていきたいですね。

他にも、堀さんによる国立感染症研究所感染症疫学センターで行われているFETP(実地疫学専門家養成コース)のお話や、変異株などの質問へのお答え、科学コミュニケーター田中による休憩コンテンツ「マニアックなアクセサリー」なども扱いました。
気になる方は以下の放送時刻を参考に、ニコ生の方もご覧ください!ドワンゴさんのご厚意で、アカウント登録なし&無料でご視聴いただけます。

リンクはこちら https://live2.nicovideo.jp/watch/lv330413159

配信のトピックと目安時間

積極的疫学調査とは

・積極的疫学調査ってなに?(7:08)
・医師が記入する新型コロナウイルス感染症発生届け(18:40)
・保健所が記入する積極的疫学調査の調査票(22:50) 
・ゆる絵・保健所の調査(想像図)(31:43)
・多岐にわたる保健所の業務(32:10) 
・濃厚接触者の定義(36:44) 
・積極的疫学調査は保健所だけが実施しているわけではない(41:19) 
・「濃厚接触者を出さない」という対策の仕方(48:10) 
・積極的疫学調査へ個人情報を提供する(50:50)
・積極的疫学調査の縮小はなぜ?(55:16) 
・クラスター対策と積極的疫学調査の違いは?(1:07:00) 

休憩コンテンツ「マニアックなアクセサリー」(1:09:50) 堀さんによるFETP講座(1:19:10) 質問コーナー

Q. 変異株の追跡体制はどうなっている?(1:36:00)
・PCR検査とゲノム解析の違い(1:39:10)
Q. 人工透析を受けている家族もワクチンを打っていい?(1:42:22)
Q. 目からの感染にはどれくらい気をつけたほうがいい?(1:44:57)
・平時と有事の備えのバランスが大切(1:51:17)



Author
執筆: 髙橋 明子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
子供のころから生き物が好きで研究に没頭し、色々な場所で色々な対象相手に研究をしていました。前職では宮崎県の幸島でニホンザルを追いかけていましたが、社会の中で研究はどうあるべきなのかを考えるため、未来館で勤務しています。今興味があるのは、科学の使い手である人間の認知や行動。物件の間取り図をながめるのが好きです。