みなさんこんにちは、未来館の科学コミュニケーター山本です。

ご心配ありがとうございます。よく心配されるんですが、食べすぎるくらい食べてます。

2/20(土)に配信したニコニコ生放送「わかんないよね新型コロナ だからプロにきいてみよう2021春」のまとめブログです。2/24(水)のブログが先に出ていて、順番が前後してしまってすみません。
この日のテーマは、最近ニュースでも話題の(?)新型コロナウイルスの変異株について。いつも通りに、国立国際医療研究センターの堀成美さんとのコラボでお送りしました。

動画で見た方が早い、という方はこちらから。ドワンゴさんのご厚意で、アカウント登録なし&無料でご視聴いただけます。
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv330413145
扱った話題のリスト(配信のタイミングの目安付き)もこのブログ末尾にあります。

変異株ってなに?

まず「変異」とは何か、から説明します(今回説明が多めです、すみません)。一言でいうと、変異とは、遺伝情報を運ぶDNAやRNAの「違い」のことです。

感染しないとウイルスは増えないので、ヒトも動物も感染しなければ新型コロナの変異も起こらないはず。

新型コロナウイルスの場合、身体の部品であるタンパク質などの部品の作り方の情報を運んでいるのはRNAです。このRNAが私たちヒトの細胞の中に入り、細胞がRNAの情報通りに新型コロナウイルスを組み立てていくことで、新型コロナウイルスは増殖していきます。この時、RNAそのものもコピーがとられて、新しく増えたウイルスの体の中に納まります。

このRNAのコピーは基本的には正確なのですが、まれにミスが起こって内容が書き換わることがあります。これが「変異」です。RNAに変異が起こると、その情報をもとに作られるウイルスの形や性質が変わることがあります(変わらないこともあります)。

こうして、以前まで知られていたものとはちょっと違ったRNAを持った新型コロナウイルスが世界中で見つかっていて、そのようなウイルスのことを「変異体」「変異株」などと呼びます。

この「変異」という言葉には特に「良い意味」も「悪い意味」もなくて、ただの「バリエーション」という意味です。ただ、中にはヒトにとってあまり好ましくない性質の変化を起こした連中もいます。その代表例がVOC-202012/01(通称「イギリス株」)、501Y.V2(通称「南アフリカ株」)、501Y.V3(通称「ブラジル株」)です。

とはいえ、コロナウイルスであることは変わらないので、「石けんが有効」「飛沫で感染する」というなどの基本的な性質は変わりません。私たちの日常レベルではこれまでの「マメに手洗いをする」「飛沫の交換をさける」などの対策が変わらずに有効、というのが堀さんからのアドバイスでした。

話題のヤッカイな変異① N501Y

注目されている変異の具体例をご紹介しましょう。上記「イギリス株」「南アフリカ株」「ブラジル株」のすべてが持っている「N501Y」と呼ばれる変異です。

N501Y」とは、新型コロナウイルスのスパイク(丸い体の外に飛び出しているとげとげ)を形作っているタンパク質の、501番目のアミノ酸(部品)がN(アスパラギン)からY(チロシン)に変異している、という意味です。

アミノ酸(タンパク質の材料)はそれぞれが違う性質がを持っているので、アミノ酸が入れ替わると、タンパク質の形や性質が変わる。

RNAには、どの種類のアミノ酸をどんな順番で並べてタンパク質を作るか、という情報が書かれています。使う部品が変わると、出来上がるタンパク質の形や性質が変わります。501番目のNがYに変わると、新型コロナウイルスのスパイクの形と性質が変わります。

N501Y変異をしたスパイクは、ヒトの細胞に入り込む際の合鍵としてハイスペック
(という、番組名物のゆる絵による解説 by科学コミュニケーター髙橋)

コロナウイルスのスパイクは、ヒトや動物の細胞の中に入り込むときに、細胞への入り口を開ける鍵のような働きをしています。N501Y変異のスパイクは、細胞の鍵穴(受容体)にこれまでよりもぴったりと形が合うので、細胞に感染しやすくなるといわれています。その分、ヒトからヒトに感染する力も強くなるということが言われていて、この変異を持った変異株の感染状況に世界が注目しています。

話題のヤッカイな変異② E484K

もう一つ有名な変異として、「E484K」があります。南アフリカ株とブラジル株が持っている変異で、イギリス株の一部でも見つかっていたり、日本でE484K変異があるけどN501Y変異はない株が見つかったりもしています。

N501Yと同じく、スパイクのタンパク質の変異で、484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)からK(リシン)に入れ変わっています。この変異を持っていると、スパイクの形が変わり、これまでの新型コロナウイルスに感染して治った人の抗体(体に入ってきた遺物を攻撃する、飛び道具のような物質)が効きにくくなるといわれています。そのため、感染して治った人が多い地域でも、この変異株の場合は再度感染が広がりやすい可能性が指摘されています。

さらに、現行の新型コロナウイルスのワクチンは、従来の新型コロナ(「従来の新型」・・・変な表現ですね)に合わせて開発されているので、E484K変異株にはワクチンの効果がなかったり弱まったりするという心配もされています。E484K変異株の感染が広がっている南アフリカ共和国では、「ワクチンを打ったグループ」と「ワクチンではない偽薬を打ったグループ」との間で、その後に感染した人数に差がなかった、という報告例もあります。

効果が見られないことは残念ですが、ネガティブな結果も隠さず出してくれる会社ということで個人的には好感度が上がっています(判官びいき)。

変異株の状況

本当に人類にとってこれら変異株がヤッカイな連中なのかを、世界の感染状況から見てみましょう。

以下のサイトで、世界のウイルスの変異の状況を見ることができます。

nextstrain (https://nextstrain.org/ncov/global?lang=ja)

変異株にもさまざまな種類が見つかっています。サンプルを採取された日ごとの、それらの変異株の割合を見てみましょう。

新型コロナウイルスの変異株の割合の推移。右下の3色が話題の変異株で、下から順にブラジル株、イギリス株、南アフリカ株。Genomic epidemiology of novel coronavirus - Global subsampling(nextstrain)(https://nextstrain.org/ncov/global?lang=ja)より。
(元データ等:Hadfield et al, Nextstrain: real-time tracking of pathogen evolution, Bioinformatics (2018)、Sagulenko et al, TreeTime: Maximum-likelihood phylodynamic analysis, Virus Evolution (2017))

19Aや19B(2019年に見つかった、初期のウイルス)が、時間とともに新参の変異株に入れ替わってきているようです。イギリス株、南アフリカ株、ブラジル株は2020年の秋ごろから徐々にシェアを伸ばしてきていて、広がりやすくなっている何らかの理由がありそうです。

なお、新型コロナウイルスの検査に使われるPCR検査は、どのような変異株に感染しているのかを調べるには不向き(調べられる情報は限定的)です。どのような変異株なのかを調べるためには、ウイルスのRNAの情報を丸ごと読む必要があり、PCRよりも時間とコストがかかります。そのため、実際に世界の変異株の感染の状況が正確に把握できているわけではありません。各国の、その時々の調査の体制に左右されるデータであることを踏まえて、情報に触れる必要がありそうです。

では、日本の調査の状況はどうなっているでしょうか。

2021年2月12日時点の国立感染研究所の報告(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10169-covid19-35.html)によれば、「国内のゲノム確定数22,190検体、空港検疫のゲノム確定数784検体(2021/2/9現在)」とのこと。ここでいう「ゲノム確定数」が、どの変異株なのかが調べられた数です。

厚生労働省のオープンデータ(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html)(2021年3月4日に取得)によれば、2/9時点の日本の新型コロナ累積感染者数は404,751人なので、5%程度が調査されていたことになります。

国内でも変異株の感染のニュースが報じられるようになってきていますが、これら情報は氷山の一角と言えそうです。すべての事例が調査されているわけではないことに注意してください。

※ 国立感染研究所による新型コロナについての最新情報は、こちらから
  (状況が刻一刻と変わるので、常に最新の情報をご確認ください)。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html

変異株の情報にどう触れたら?

変異株について、研究の成果や、海外の事例のニュースなどの情報が多く出ています。日本国内でも、市中での(海外への渡航歴のない方からも)変異株感染のニュースが流れるようになりました。このような状況の中、私たちはどのように情報に触れるのが良いのか、堀さんに伺ってみました。

まず、政府や研究者が情報を出す際は、結果や成果だけをアピールせず、どのような条件で行われた調査・研究なのか、得られた結果からどのくらいのことが言えるのかまでセットでアウトプットすることで、報道やSNSを介して情報がゆがみにくくできるのでは、というのが堀さんの提案でした。

情報を受け取る私たちについても言及がありました。論文などの成果の発表も100%すべてのことが記載されているわけではありませんし、メディアなどを介した情報はさらに編集されています。真に受けて過剰に不安になったりしないように、どの段階の情報に触れているのかを踏まえて受け取ることが大事、ということでした。

私たち科学コミュニケーターも、情報源を見るときに丸ごと信じ込むことがないようにしています。研究者同士の査読がされる前の論文も多く出ているので、査読の有無を確認したりします。動物実験や細胞レベルの実験、シミュレーション研究の結果などを、実生活に直接適用しようとしても齟齬が出ることがあるので、どんな研究なのかによって情報の受け取り方や伝え方を考えます。私たちは仕事だからやっているという側面もありますが、そうでなくとも冷静な情報とのお付き合いをしていただくのが、変異株の情報との付き合い方のコツではないでしょうか(たいていの情報にいえることですね)。

「情報がありすぎて検索する気がなくなる」という視聴者コメントに、堀さんも山本も深く同意です。情報あふれすぎ。疲れます。疲れました。

新しい感染症ということもあって日々新しい情報が出続けていますが、変異株が問題になり始めたことで、今後また状況が変わることもあるかもしれません。「前は違うことを言ってたじゃない」と思うような状況の変化もあり得ます。新型コロナと人類とのお付き合いも2年目に突入して、飽きてきているかもしれませんが、改めてフラットな姿勢での情報アップデートも心がけていただけると嬉しいです。

変異株に感染した人を責めるよりも、建設的な対策の改善を

変異株に感染した方が海外から入国する事例も出てきています。また、国内での感染事例の報告もあります。私たちの配信では、「感染した方を責めたり排斥したりしても仕方ないので、建設的に感染が広がるリスクを下げるようにしたい」ということを新型コロナについて何度もお伝えしてきました。変異株でも同じことだと思っています。

また、空港検疫の場合、日本語がどれだけ話せるかは人それぞれです。感染の疑いのある方に、やっても良いこと、やらないでほしいことを明確にして、言語のバリアを超えて伝えるような仕組みも大事なのでは、という堀さんのコメントもありました。

最後にまとめ

視聴者の方からのコメントに、「結局、感染しないことが大事ということ?」という質問がありました。

100%感染しないように身を守る方法は今のところありませんし、感染したからと過剰に不安になる必要もないですが、理想としては「その通り」、というのがこの日の配信の結論になりました。

何かの作品の名言?をコメントでいただきました。元ネタ知らなくてすみません。

どんな変異株に感染するか選べるわけでもないですし、感染が広がれば広がるほど変異株も現れる確率が高くなるということもありますから、下げられるリスクは現実的な範囲で下げていきたいですね。

配信のトピックと目安時間

変異株ってなに?

・そもそも変異とは?(4:26)
Q.変異株相手でも、対策は変わらない?(6:55)
Q.たくさんの人が感染すると、変異株の種類も増える?(9:30)

話題のヤッカイな変異

・「N501Y」ってなに?(10:28)
Q. 研究者たちはどのタイミングで変異に気づいた?(14:40)
・変異の影響は?(16:12)
Q.変異は宿主を殺さないために起こるの?(19:55)
・陽性者集団の誰のウイルスをサンプリング、解析するか?(23:40)
・「E484K」ってなに?(24:30)
・アストラゼネカ製ワクチンの変異株への効果(26:58)

変異株の状況

・世界の状況は?(32:30)
・日本の状況は?(39:10)
Q.日本では、ウイルスのゲノム解析に時間がかかっている?(42:20)

休憩コンテンツ「マスクをつけるのが大変そうな動物たち」(50:10) 変異株を踏まえて、情報更新の準備を

Q.変異株についての報道、どう受け止める?(1:02:00)
Q.他の感染症の病原体でも変異は起こっている?(1:07:50)
・情報がありすぎて困る問題(1:13:00)
・ウイルスの変異は頻繁に起きているの?(1:15:33)
Q.変異株に効果が弱いワクチンは打たない方がいい?(1:22:55)
・責めるのではなく、情報や対策を更新する機会に(1:26:48)

質問タイム

Q.結局、感染しないことが大事ということ?(1:31:19)
Q.宿主が健康になる変異はないの?(1:32:09)



Author
執筆: 山本 朋範(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
物心つく前は「抱き上げるときには気が抜けなかった」とは親の談。さすがに今は不思議だからって人の目を突っついたりしませんが、サンショウウオを研究したり、フィリピンの田舎に住み着いたりと、相変わらず好奇心で生きています。今度は皆さんの好奇心を突っつく仕事をしたいと未来館にやってきました。