マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、英ポンドが好調な理由について解説していただきます。


英ポンドが好調です。ブルームバーグによれば、今年に入ってからの対米ドルの騰落率で、英ポンドは主要16通貨の中でオーストラリアドルを抑えて1位です。2月下旬には、18年4月に記録した16年国民投票(ブレグジット決定)後の高値に限りなく接近しました。

英経済が決して良好というわけではなさそうです。長引いたブレグジット(英国のEU離脱)の交渉は昨年終盤に決着し、移行期間が終了した昨年末以降も大きな混乱はさけられているようです。それでも、新型コロナウイルスの感染拡大に対して、主要都市で1月から3度目のロックダウン(都市封鎖)に入っており、ようやく3月8日以降に段階的な解除に向けて動き出すところです。そのため、1-3月期はマイナス成長の可能性もあり、昨春に続くダブルディップ・リセッション(景気の二番底)も,決してありえない話ではありません。

そうした中で英ポンドが好調なのは、新型コロナウイルスのワクチンの普及によって景気の回復が他の国や地域に比べて早期かつ力強いものになるとの期待が高まっているからでしょう。

主要国のコロナ感染状況やワクチン接種率を表にまとめてみました(マネースクエアが通貨を取り扱っている国を対象にしています)。ほとんどの国で1 月上旬をピークに足もと(2/28)までに新規感染者数は大きく減少しています。

  • コロナ感染・ワクチン接種状況: 主要国比較

なかでも英国の改善ぶりが目立ちます。10万人当たりの新規感染者数は13.0人で、米国やフランス、イタリアなどを大きく下回っています。それが1月上旬には98人でした(つまり毎日1,000人に1人のペースでコロナに感染していました)。ちなみに、日本の場合は10万人当たりの新規感染者数はピークでも5人程度で、足もとでは1人未満に減少しています。

また、英国のワクチン接種率は2月28日時点で30%超となっており、イスラエルなど一部を除けば、主要国の先頭を走っていることが感染者数の減少に大きく寄与しているのでしょう。限られたデータではあるものの、ワクチン接種率と新規感染者数の間には逆相関の関係があるように見受けられます。ワクチン接種率が高いほど、新規感染者数の減少幅が大きいということです。

一方で、フランスやイタリアはワクチン接種率が低く、改善が遅れています(日本や豪州、NZの方が接種率は低いですが、そもそもの新規感染者数が非常に少ないので比較にはならないでしょう)。フランスのマクロン大統領は、行動制限を緩和するまでまだ4-6週間必要だと述べました。オーストリアはイースター(4/4)までロックダウンを継続する可能性があるようです。また、1日にフィンランドが非常事態宣言を発令しました。徐々に行動制限を緩和するドイツなど一部を除けば、欧州大陸の改善は遅いようです。

  • ワクチン接種率と新規感染者数変化

もっとも、世界的に新規感染者減少のペースは鈍っているようです。WHO(世界保健機関は、行動制限の緩和が感染再拡大につながる恐れがあると警告を発しています(※3月2日の報告書では、世界の新規感染者数が2月下旬に6週間ぶりに増加したとのことでした)。ワクチンが普及して新規感染が順調に収束していくことが期待されるところです。