NECとロッキード・マーティンは、2017年から実施中の、衛星開発・航空宇宙分野でのAI技術活用に関する協業の成果として、NECのAI技術群「NEC the WISE」を構成する技術の1つである「インバリアント分析技術」の本格導入に合意したことを発表した。

ロッキード・マーティンは、NASAが中心となって進めている月探査計画「アルテミス」に向けて開発中の有人宇宙船「オリオン」の開発を担当(正確には、宇宙部門のロッキード・マーティン・スペース)。オリオンの開発を含め、そのほかさまざまな宇宙船のプロダクトライフサイクルでNEC the WISEが活用される予定だ。契約年は決定していない模様で、両者は複数年にわたるライセンス契約の締結を検討しているという。

インバリアント分析技術は、コンピュータシステム、発電所、工場、ビルなどに設置された多数のセンサーから集約されるビッグデータを活用してシステムの振る舞いを学習・監視することで、いつもと違う挙動を自動的に検知して早期対処を可能にするというものだ。

今回、ロッキード・マーティン・スペースとNECの共同開発チームは、オリオンの初期製造試験と運用シナリオにおいて、インバリアント分析技術の有効性を評価。その結果、インバリアント分析技術をロッキード・マーティン・スペースのデータ分析システム「T-TAURI」に統合し、オリオンの設計、開発、製造、および試験段階におけるシステムの異常予兆検知に用いることが決定された。

これにより開発チームは、システムの徹底的かつ包括的な理解に加えて、将来的にはデジタルツインなどの高度な基盤システムも構築できるようになるという。

協業を開始して以降、開発チームはインバリアント分析技術をオリオン製造時における異常検知とソフトウェア確認試験を迅速に実現するアプリケーションに適用し有効性を確認しており、今後も取り組みを継続していくとしている。

今回の取り組みの第1弾として、インバリアント分析技術を統合したT-TAURIを用いて、オリオンの試験で生成されたビッグデータの分析が実施された。具体的には、約15万個ものセンサーから収集されたビッグデータから、4時間以内に220億以上の論理的な関係性を抽出し、通常動作のモデルが構築されたという。

今回のモデルを使用して、今後のオリオン開発におけるすべての試験を監視し、予想される動作と実際に起きた異常動作を比較して原因分析に役立てていくとした。また今回のシステムは、少数の技術者でもシステム全体の試験の詳細な分析が可能になる点もメリットのひとつとしている。

今後、両者は今回の技術を、人工衛星を運用する地上管制や人間が評価しているさまざまなシステムに活用し、宇宙探索ミッションの迅速化と効率化に貢献していくとしている。

  • 宇宙船オリオン

    宇宙船オリオン。オリオンの下部に取り付けられているのは、クルーモジュールアダプターと、宇宙船アダプターの投棄フェアリングが取り付けられたヨーロッパサービスモジュール (c) NASA/Ben Smegelsky (出所:NASA)