ロボットアニメの新機軸を打ち出した『装甲騎兵ボトムズ』誕生への道

『装甲騎兵ボトムズ』は、高橋良輔監督が原作・監督を務めたリアルロボットアニメだ。1983年のテレビシリーズの放送後にはOVAにてシリーズが継続し、過去編や続編となる作品が7作、外伝作品が3作制作され、テレビ放送開始から38年を迎えた現在でも幅広いファンから多くの支持を受けている。

2月25日にはシリーズの映像作品全てを収録した「装甲騎兵ボトムズ Blu-ray Perfect Soldier Box」が発売。これに合わせ、『装甲騎兵ボトムズ』シリーズのさまざまな角度から作品の魅力を探っていく短期連載企画がスタート! 第1回は、80年代だからこそ生まれ出でた作品の成り立ちを中心に、シリーズの特徴を掘り下げていこう。

『装甲騎兵ボトムズ(以下、ボトムズ)』の舞台となるのは、アストラギウス銀河。ギルガメス連合とバララント同盟の2つの勢力が長きにわたって争いを続ける中、百年戦争と呼ばれる第3次銀河大戦が終結する。その名の通り100年に及んだ戦争が終わる直前、ギルガメス軍の人型兵器「アーマードトルーパー=AT」のパイロットであるキリコ・キュービィーは、特殊任務の中、軍事秘密である「パーフェクトソルジャー=PS」を目撃し、追われる身となってしまう。

軍を脱走し、惑星メルキアのウドの街へ辿り着いたキリコは、ゴウト、バニラ、ココナたちと出会い、彼らと関わることで少しずつ人間性を取り戻していくのだった。しかし、軍は執拗にキリコを追い続ける。そして、キリコは運命を変えた女性であるPSのフィアナとの再会。強く惹かれ合う彼女と一緒にいることを選択したことで、キリコはさらなる大きな戦いへと巻き込まれ、PSの存在を巡る物語が描かれていくことになる。



1979年に放送された『機動戦士ガンダム=ガンダム』は、ロボットを兵器として扱うことによって、それまでの ”正義の組織に運用されるスーパーロボット” とは異なる、設定面でリアリティを重視した「リアルロボットアニメ」と呼ばれるジャンルを成立させた。
その状況を受けて、1981年にはサンライズによるリルロボットアニメの第2作目となる、植民惑星の独立戦争を舞台としたよりミリタリー色の強い作品である『太陽の牙ダグラム=ダグラム』が制作された。その監督を務めたのが、それまでサンライズ作品で『0テスター』や『サイボーグ009』などを手掛けてきた高橋良輔。『ダグラム』の制作で得た経験とそこで生じたさまざまな課題をより研鑽することで生まれた作品が『ボトムズ』なのだ。

『ボトムズ』でまず試みられたのは、よりパーソナルなメカとして演出することができる、全高約4メートルのロボット・ATの設定だ。主人公の機体でさえも完全な量産型に設定されることで、よりミリタリー的なリアル感を重視したメカニック群は本作の大きな特徴となっている。
『ガンダム』では約18メートルだったロボットの全高を、高橋良輔は『ダグラム』において、より兵器らしいリアリティを感じさせ、パイロットや兵士と身近さを伝える大きさとして約10メートルに設定する。しかし、10メートルというサイズに小型化されながらも、映像演出的にはそれでもなお巨大感が重視され、スピード感に欠けるメカとして描かれてしまった。
『ダグラム』のメカデザインを担当した大河原邦男も10メートルサイズのロボットでは、パイロットや整備士などの人間と絡める描き方をするには、まだ大きすぎるという感想を持ち、パワードスーツ以上で人間が搭乗できるギリギリのサイズである約4メートルのロボットのデザイン案を模索。スピード感のあるロボットが戦う姿を求めた高橋良輔の思惑と、大河原邦男の求めたアイデアが合致することでATが誕生した。

その後、『ボトムズ』では、世界観設定や映像面でも80年代らしいイメージの模索がなされた。『ガンダム』が宇宙を舞台とした作品であったことを受けて、『ダグラム』ではもっと泥臭い、地上での戦いのみに焦点を当てる作劇が行われた。しかし、「陸戦」という戦争的なリアリティを重視した結果「美術的に単調となり、画面が地味になってしまう」という問題をもたらす。
『ボトムズ』は当初こそ「AT同士が試合形式で戦闘するバトリングに参加する主人公が、戦いながら各地を旅する物語」を企画していたが、その後1年間=4クールでの展開を、1クール=13話ごとに異なる美術設定の場所を舞台とすることに決定する。その舞台の移動に合わせて、作品イメージもより広大なものへと変化していった。
そして、そこにイメージソースとして取り入れられたのが、70年代後半から80年代にかけて話題となり、現在でも名作として語り継がれるSFや戦争モノなどの洋画だった。



大きな戦争が終わり、精神的にも肉体的にもひどく疲労した状態で普通の生活をすることになった戦争しか知らない主人公のキリコ・キュービィー。その姿は、ベトナム戦争から帰還したものの、普通の生活に馴染めずにたったひとりで戦争を始めてしまう男の姿を描いた『ランボー』をモチーフにしている。そして口数が少なく、その心情をモノローグでのみ吐露するハードボイルド的な姿は近未来SF映画の金字塔『ブレードランナー』の主人公デッカードを想起させる。
また、キリコがさまよう、戦争からあぶれた人間が集まる退廃的だが渾沌とした活気が漂うウドの街、戦争の為に能力を強化された結果2年間という短い寿命となったPSの設定も『ブレードランナー』とイメージが重なる。
 
第2部クメン編の舞台となる湿地とジャングルに覆われた独立国家での戦いは『地獄の黙示録』をはじめとしたベトナム戦争を題材とした戦争映画を、第3部サンサに登場する閉鎖された宇宙船内での探索劇はSFホラー映画『エイリアン』、第4部の身体を捨て去って精神を巨大なコンピュータに移した「神」を名乗るワイズマンとキリコの戦いは『2001年宇宙の旅』の人間と人工知能の戦いをモチーフとしている。

映画から得たアイデアを単なるサンプリングとしてツギハギにしていくのではなく、あくまでイメージソースとして使用され、それらの要素は『ボトムズ』の世界観や映像へと違和感の無い形で昇華されている。そして、こうして成立した背景が、ひとりの戦いに疲れ果て兵士が運命的に出会った女性を追う「純愛」の物語となり、超古代文明に起源を持ちその世界を司る「神」へ戦いを挑むという壮大な物語を彩る舞台と背景として機能していくことになる。

『装甲騎兵ボトムズ』は、80年代初頭のリアルロボットアニメ創成期に練り上げられたアイデアと、多くのハリウッド系映画が流入してきた時代背景があったからこそのリアリティが混ざり合ったことで、40年近くの時代が経過した現在でもシリーズが継続し、支持され続ける作品となったと言えるだろう。

>>>主人公キリコ、ATの場面カットを見る

(C)サンライズ