アスリートフードというと、制限が多くストイックなイメージがあるが、試合時に最高のパフォーマンスで臨むために考えられたバランスのいいメニューは、一般の私たちにとっても参考になるはずだ。そんな中、身体面だけでなく心も豊かにするアスリートフードを描くとして話題になっているコミックが『アスメシ』(講談社)だ。アスリートフードマイスターの資格を持つ、原作者の見原由真さんに心と体のパフォーマンスを上げる食事のコツについてお話を伺った。

食事は楽しむことで「心のエネルギー」にもなる

©見原由真・小川錦/講談社

『アスメシ』は、日本柔道界期待の新星として注目される女子高生アスリート・保志まひろと、彼女の亡き母の再婚相手で料理ブロガーの義父・保志太一が主人公のコミック。柔道という競技ではなく、アスリートの食事に焦点を当てた異色作だ。

――食事のコツを伺う前に、まずアスリートメシを題材にしようと思ったきっかけはなんですか?

見原さん(以下、敬称略) 担当の編集者さんからスポーツ漫画の依頼を頂き、どんな題材にしようかという打合せをしました。その時、女子カーリング日本代表のもぐもぐタイムや男子サッカー日本代表の長友佑都選手専属シェフの加藤超也さんの話題が出て、これはまだ漫画の題材になっていないのではないかと結構早い段階でアスリートのためのスポーツ飯というテーマが決まりました。健康はもちろん、パフォーマンスやケガ等にも食べ物の力が影響するというのが面白く、ただの食べ物が誰かに必要とされて『ごはん』になる瞬間そこにドラマが生まれると思ったのがきっかけでした。

――この作品のためにアスリートフードマイスターの資格をとられたそうですが、普通の食事とアスリートの食事の大きな違いはどんな点にありますか?

見原 日常生活の中では食べたいものを基準に食べ物を選ぶと思いますが、対してアスリートフードはパフォーマンスを上げるために競技者自身がどうなりたいか、その要望を基準に食事を組み立てます。たとえば、動きにキレを出すために体脂肪を落としたい、スタミナをつけたい、体のリカバリーをしたい、試合後の興奮状態から体を落ち着かせてしっかり夜眠りたいなど、目的に合った食べ物を選択します。

――その目的に合わせた栄養素や、食べ合わせ、調理法などを考えて食事をすることが大事なんですね?

見原 はい。ただ、パフォーマンスを高めるのがアスリートフードの目的とはいえ、アスリートも人間です。それぞれ好みや体質の違いがありますから、食べたくない食材を理論優先で無理にすすめたりはしません。なるべく競技者の意向に沿って、食べやすいよう調理方法や味付け、食材の選択肢を提案して食事を決めていきます。また、食は体だけでなく「心のエネルギー」でもあると思いますので、「美味しい」と思って楽しむことも考えながら、食という面から競技者の体と心をサポートするのがアスリートフードには必要なことだと思います。

コツは体との対話。その時に必要なものを見極めること

『アスメシ』2巻より、太一が風邪をひいたまひろのために作ったサムゲタン風鶏粥」©見原由真・小川錦/講談社 

『アスメシ』には食べ物に含まれる栄養素やその効果的な摂取の仕方、さらにはそうした知識を生かしたレシピなどの情報がふんだんに登場する。アスリート用の食事だからといって、茹でただけのチキンや、卵白だけのオムレツといった味気ないメニューではなく、アスリートでなくても食べたくなる美味しそうな料理が作品の魅力のひとつでもあるのだ。

――こういった料理を登場させる際に、気をつけていることなどはありますか?

見原 「美味しそう」というだけでなく、読んだ人が自分の体の声に耳を傾けるきっかけになればいいなと思いながら原作をつくっています。私は過去に一度体を壊しているのですが、もっと早く自分の体の声に気づいていればと、当時とても後悔した経験がありその影響が大きいですね。
作中では、ストレスとそこからくる寝不足にはこの料理、スタミナが欲しければこの料理、体を回復させたかったらこの料理、などキャラクターの状態(ストーリー)に合わせた料理を当てはめることが多いですが、体を健やかに保ちたい、そのためにいい食事をしたいと思うのは、アスリートもそうでない方も共通する気持ちだと思います。ですから、読者の方が生活をしている中でストーリーと重なる部分があれば「自分もこの食事をとり入れてみようかな」と体と対話するきっかけにしてもらえたら嬉しいです。

――コミックス1巻の中に、サプリメントなどで栄養補給をすると、アスリートの場合は意図せずとも「ドーピング」に引っかかる可能性がある、といったエピソードが登場します。では、ドーピングが問題にならない一般人はサプリメントで栄養補給をするのは問題ないのでしょうか?

見原 たとえば鉄分を摂りたい、と思ったとします。体というのはよくできていて、食品から鉄分を過剰に摂りすぎても吸収率を下げて適正量が体内に吸収されるように調整してくれます。しかしサプリメントなどで鉄分を長期摂取した場合には慢性的な鉄沈着症を引き起こすリスクがあるんです。
また、栄養は単独では力をうまく発揮できません。鉄分だけ摂るよりもビタミンCやタンパク質と一緒に摂るほうが吸収率が上がったり、糖質も単体で摂るよりもビタミンB1と一緒に摂ることでうまくエネルギーに代謝できたりします。栄養はそれぞれ鎖のように繋がってお互いを助け合い、人の体の機能を支えています。よく「バランス良く食べるように」と言われるのはこのためです。野菜や肉、魚といった食べ物・食材の良い所は、それが育つ過程でたくさんの栄養を蓄えることです。だからそれを頂くことで、人間はさまざまな栄養を一度に体に取り入れることができるんですよ。

食を通した体づくりは「心づくり」に繋がる

作中で、スマホを見ながら食事をするまひろを、太一が注意するシーンがある。それは単にマナーの問題だけでなく、食事に集中することが心や体を健やかに保つのに、とても重要だからだと見原さんは言う。

――「食事に集中する」というのは、どういうことなんでしょうか?

見原 作中で太一が「ご飯は楽しいのが一番!」と言うセリフがありますが、私自身もそうだと考えています。いくら栄養があってもいやいや食べていては体に届かないからです。「楽しく食べること」は「集中して食べること」につながります。美味しい、楽しいと味わいながら食事に集中することで、胃腸の動きが活発になり食べたものの消化吸収を促して栄養が無駄なく体に届きます。
自分の好きな味を堪能したり、親しい人と会話しながら食事を楽しんだり、旬の食材で季節を感じながら味わったりなど、楽しい食卓はその瞬間を彩るだけでなく、明日の体づくりにも活かされるんです。

――心と体というのは密接に繋がっていて、どちらも疎かにしてはいけなんですね。
作中では、キャラクターの状態に合わせた料理を出していますが、私は、体づくりは心づくりだと思っています。ストレスによる寝不足の解消、減量、ケガの回復など、アスリートの食事にはお腹を満たす以外にも役割があります。役割をもったご飯を食べる時、それはキャラクターが自分の問題と向き合う瞬間でもあります。この作品を読んだ読者の方に、食事で未来の体がつくられ、未来を見つめた分キャラクター自身の心が成長していく過程を見てもらえたらと思っています。
食べて体をつくる。つまるところそれは「生きること」なんですよね。ご飯にはそれを食べる人の生き方や意志が大なり小なり映りこみます。そのため誰かと食事を共にすることで人と繋がったり、その繋がりを強めたりすることができるのだと思うんです。太一とまひろ、その周りの人々がご飯で繋がっていくのもこのマンガの本質でありますが、アスメシでは読者とキャラクターを繋ぐのもご飯だと思います。作中の食を通じて「自分もこんな経験がある」と太一やまひろたちを身近に感じてもらえたらうれしいですし、心が豊かになる食事をするきっかけになってくれたらいいなと思います。

作中に「今日の食事が明日からの自分を変える」という台詞がある。「アスメシ」という言葉には「アスリートのメシ」という意味の他に、「アス(明日)を作るメシ」という意味があるのだ。コロナ禍で人と食事をするのが難しい状況ではあるが、健康であることが重要な今だからこそ、たとえおにぎり1つでも、誰かと一緒に食べたり、具に旬の食材を使ってゆっくりと味わったりすることで、心も体も健やかに保つことができる。今日から、そんな意識を持って食事をしてみてはどうだろう?

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

『アスメシ』
原作・見原由真、作画・小川 錦
インターネットスポーツメディア『スポーツブル』とマンガアプリ『マガポケ』『コミックDAYS』で連載中。コミックスは講談社より1巻、2巻が発売中

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