理化学研究所(理研)とアジュバンコスメジャパンは2月26日、化粧品ですでに利用されている「機能性ペプチド」が、毛髪の成長促進効果を有することを発見したと共同で発表した。

同成果は、アジュバンコスメジャパンの高橋秀樹氏、同・向井佑紀美氏、同・増田健二氏、理研 生命機能科学研究センター 器官誘導チームの辻孝チームリーダーらの共同研究チームによるもの。詳細は、2020年11月30日に開催された「第25回日本臨床毛髪学会学術集会」にて発表された。

毛髪は、頭皮の「毛包」という器官に存在する「毛母細胞」が、「毛乳頭」の指令を受けて増殖することにより生み出される上皮細胞の集合体で、その内部が線維化したものだ。毛髪は、人々の社会性や生活の質に深く関係するため、長きにわたって脱毛症の改善に向けた研究や育毛成分の探索、そしてそれらの知見を活かした製品開発が世界中で進められている。

  • 毛乳頭細胞

    正常な毛周期 (出所:共同プレスリリースPDF)

しかし、さらに効果のある育毛剤の開発は続けられており、現在でも科学的なエビデンスに基づく、男性型脱毛症と、近年増加しているといわれる女性の脱毛症にも有効な新規育毛成分の開発や探索が続けられている。

そうした背景の下、共同研究チームは今回、新たな育毛成分の発見を目標とした探索を実施。まず育毛効果物質のスクリーニングとして、51種類の素材に対する機能の比較が行われた。

毛周期長約20日の生体モデルを利用し、毛根伸長速度と最大毛幹長について測定された結果、化粧品成分としてすでに用いられる特定のペプチドが、「ミノキシジル」と同等に毛髪を成長させることが発見された。ペプチドとはアミノ酸が重合したもので、今回発見されたペプチドは「機能性ペプチドA」という仮の名が与えられた。またミノキシジルとは、すでに発毛効果があることが確認されている成分で、それを配合した発毛剤などが国内でも発売中だ。

  • 毛乳頭細胞

    機能性ペプチドAの働き (出所:共同プレスリリースPDF)

  • 毛乳頭細胞

    毛幹伸長速度と最大毛幹長の測定箇所 (出所:共同プレスリリースPDF)

  • 毛乳頭細胞

    毛幹伸長速度と最大毛幹長の測定結果。左がミノキシジルで、右が今回発見された機能性ペプチドA (出所:共同プレスリリースPDF)

続いて、機能性ペプチドAの育毛効果における作用機序を明らかにするため、ヒト由来毛乳頭細胞に各成分を添加し、その遺伝子発現の解析が実施された。すると、毛包周囲の毛細血管の増殖や新星を促進する働きを持つ成長因子「VEGF」と、毛母細胞の増殖・分裂を促進する働きを持つ成長因子「FGF-7」の発現量が増加。機能性ペプチドAに対し、ミノキシジルと同等またはそれ以上の濃度依存性が認められたとした。つまり機能性ペプチドAは、毛髪の成長を制御する毛乳頭細胞に効果があり、育毛に関連する生理活性物質の遺伝子が発現するよう誘導すること機能があることが明らかとなったのである。

  • 毛乳頭細胞

    毛乳頭細胞内で産生される成長因子における遺伝子発現の解析結果。(上)VEFGの結果。(下)FGF-7の結果 (出所:共同プレスリリースPDF)

なお、男性型脱毛症の原因は毛髪の軟毛化による成長期の短縮で、女性型脱毛症の原因は休止期の延長によるものと考えられている。これらに対し、近年の研究から、VEGFが成長期毛包を増加させること、FGF-7が休止期毛包を減少させることが報告されているという。つまり、機能性ペプチドAならそのどちらの発現量も増加させることから、男性型脱毛症と女性型脱毛症のどちらにも有効であることが期待されるという。

アジュバンコスメジャパンと理研は共同で、この機能性ペプチドAの育毛効果において特許を出願。両者は機能性ペプチドを育毛のための機能特化成分として応用することにより、これまでにない育毛製品やスカルプケア製品、化粧品などへの応用展開が期待されるとしている。